
芸人・チャンス大城がバイト先のコンビニで恋をした、ハイライトを買いにくる美しい人の正体は、あの有名シンガーだった
TV番組『アメトーーク!』の読書芸人(2023年4月20日放送回)でAマッソの加納がリコメンドし、重版出来となった1冊がある。チャンス大城がその半生を綴った『僕の心臓は右にある』(朝日新聞出版)だ。上京し、東中野のセブンイレブンでアルバイトする彼が思わず恋をしてしまった有名人とは?
チャンス大城『僕の心臓は右にある』#4
美しい人のこと
東京に出るとき、東京に住んでいた唯一の知り合いは、NSC13期の同期生だった俳優の三浦誠己君でした。
実を言えば、三浦君が東中野に住んでいたから、僕も東中野にアパートを借りることにしたのです。そして、三浦君の紹介で東中野のセブン・イレブンでアルバイトを始めたのでした。
なにしろ事務所も決まっていないし、完璧に無名でしたから、芸人としての仕事が入るはずもありません。とりあえずはバイトをして、当座の生活費を稼ぐしかありません。

コンビニでバイトを始めてしばらくたったとき、夜中の三時ごろに、若いお姉さんがタバコを買いに来るようになりました。あごにホクロのある、とても派手なかっこをした美しい人です。
いつも鼻歌を歌いながら店に入ってきては、必ずハイライトを買って帰るのです。僕はそのお姉さんのことを、とても好きになってしまいました。ほとんど、ひと目惚れでした。そして、そのことをシフト・リーダーに告白したのです。
「実は僕、好きになってしまった女性がいるんです。片想いです」
「ああ、あの派手なお姉さんね」
なんとかしてお姉さんと会話がしたいと思った僕は、ある作戦を実行しました。お姉さんが鼻歌を歌いながらカウンターに接近してきた瞬間に、黙ってハイライトを差し出したのです。作戦は成功でした。
「私の銘柄、覚えてくれているんですね」
「もちろんです!」
普通ならアブナイやつだと思うところでしょうが、お姉さんは僕の名札をちらっと見ると、こう言いました。
「お名前、オオシロさんっていうんですね」
「はい、そうです!」
それからお姉さんと少しずつ喋るようになり、ある日、頃合いと見たシフト・リーダーが「二対二で合コンをしないか」と持ち掛けてくれたのです。もちろん、男の二は、僕とシフトリーダーです。
「うーん」
お姉さんは、ちょっと迷っているようでした。
「夏になるまで待ってもらえますか。いま、ちょっとバタバタしてるんで」
いまになって考えれば社交辞令だったのでしょうが、それでもお姉さんは河岸を変えることなく、タバコを買いに来続けてくれました。
俺何してんのやろ
ある日、いつものように深夜の三時ごろお姉さんが現れました。いつものようにハイライト差し出すと、お姉さんがこう言うのです。
「私、今日の朝四時半に、初めてテレビで歌うんです」
「ああ、ミュージシャンの方だったんですか。僕ら朝の五時まで勤務なんで、防犯モニターしか見られないんです」
「そうなんですか。じゃあまた出演する時言いますね」
「ありがとうございます。あのー、お名前うかがってもよろしいですか」
「椎名林檎と申します」

その後、僕はある事務所に入れてもらうことができました。でも、事務所の都合でシフトを変えまくった結果、東中野のセブン・イレブンはクビになってしまいました。
当然、あの派手なお姉さんにハイライトを渡すこともできなくってしまったわけですが、歌手の椎名林檎さんは、あれよあれよという間に超売れっ子になってしまったのでした。
僕が最初に入った事務所に、後に僕の毛布にくるまってアナフィラキシーショックを起こすことになる玉置ピンチ!さんという、先輩芸人がいました。
玉置さんは当時、ヒモみたいな生活をしていたのですが、女性が貢いでくれた小遣いを風俗で使い果たしてしまうという、強烈な風俗マニアでした。
ある日、玉置さんがこう言うのです。
「オオシロー、今日はおまえと歌舞伎町の風俗行くぞー」玉置さんが連れていってくれたのは、「椎名淫語」という名前のファッション・ヘルスでした。
お店の中に入ると、椎名林檎さんの曲ががんがんかかっています。待合室で順番を待ちながら、僕は急にやるせない気持ちになってしまいました。
僕、あのお姉さん、本当に好きやったな。夜も眠れないぐらい、真剣に好きやった。
お姉さんはスターの階段をどんどん駆け上がってしまったのに、僕、ネタもよう作らんと、酒ばっかり飲んでる。僕、いったい何やってるんやろ……。
やがて、指名した女の子が待合室に迎えにきてくれました。
「椎名みかんでーす!」みかんちゃんはむちゃくちゃテンションの高い子でした。
相変わらず、店の中には椎名林檎さんのヒット曲が大音量で流れています。みかんちゃんと絡んでいる間も、僕の脳みその中では林檎さんのセクシーな歌声がビンビン鳴り響いています。
だけど椎名林檎さんはもう、僕の手の届かない、遥か遠い世界に羽ばたいて行ってしまったのです。
(ああ、俺、こんなところでいったい何してんのやろ)
「何してんのやろーーーーーっ!」
イラスト・文/チャンス大城
チャンス大城写真/朝日新聞出版
その他写真/shutterstock
僕の心臓は右にある(朝日新聞出版刊)
チャンス大城

2022/7/20
1,540円(税込)
304ページ
978-4023322592
芸歴30数年の芸人、チャンス大城。本名、大城文章(おおしろ・ふみあき)47歳。長すぎる雌伏のときを超え、今、お茶の間の記憶に残る男としてTV出演急増中。
テクニックに長けたお笑いを魅せる芸人が多いなか、「このひとなんだ!? また見たい!」と思わせる男。彼の常軌を超えた発想と行動はどこから来るのか?「濃ゆい町」尼崎で育ち、東京で生き抜いてきた自らの半生をはじめて語る。
とんでもない人生なのに、読むとなぜか元気になる。笑って泣ける、赤裸々すぎる半生記。
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