
「おっさんやんけー。コンパやぞ、高校生連れて来い言うたやろ」チャンス大城の定時制高校時代。バキバキのヤンキー女子高生と合コンをした話
TV番組『アメトーーク!』の読書芸人(2023年4月20日放送回)でAマッソの加納がリコメンドし、重版出来となった1冊がある。チャンス大城がその半生を綴った『僕の心臓は右にある』(朝日新聞出版)だ。定時制高校に通っていたチャンス大城。58歳のクラスメイトとの思い出を紹介する。
チャンス大城『僕の心臓は右にある』#2
〔 〕内は集英社オンラインの補注です
〔チャンス大城が通っていた定時制高校に、コダマさんというプライドが高く、クラスでは煙たがれている58歳の生徒がいた。そんなコダマさんとある日合コンに行くことになる〕
※今から30年以上前のお話です
コダマさん合コンに行く
定時制高校の生徒は昼間働いてから夜の九時まで勉強をするので、平日はあまり飲みに行けません。年齢が二〇歳を越えている人はたくさんいましたが、翌朝仕事に行くことを考えると、飲みに行く気になれないのです。
たしか高三の時だったと思いますが、ある日、カミムラ君というイケメンの同級生から、授業中にこんな誘いを受けたことがありました。
「急に三対三で飲むことになったんやけど、オオシロ、今晩来れるか? 確実に三人連れてこい言われてんねん」
いわゆる、合コンのお誘いです。
僕も昼間いろいろなバイトをやっていたので、事情は他のみんなと変わりませんでしたが、カミムラ君が困り果てている様子だったのでOKをしました。
しかし、三年生ともなるとすでに退学してしまった人が多く、最初三〇人いた同級生はどんどん減ってしまって、その日出席していたのはたったの九人でした。無遅刻、無欠席を守っていたのは、コダマさんただひとりです。
「どないしよー」イケメンのカミムラ君は、頭を抱えています。
僕は冗談半分で、「コダマさん誘おか?」と言ってみました。
「いやいや、それはさすがにマズイやろ」カミムラ君は最初はそう言っていたのですが、声をかけた同級生に次々と断られるうちにテンパってしまったようでした。
「コダマさん、今日、女の子とコンパ行くんですけど、行きませんか?」
「おー、行くよー」コダマさんはあっさりとOKしました。

カミムラ君、僕、コダマさんの三人で向かったのは、高校の近所にあるごく普通の居酒屋でした。年齢は一八、一八、五八。僕は心の中でつぶやきました。(八しか共通点ないがな)
居酒屋で八だけトリオを待ち受けていたのは、正真正銘、バキバキのヤンキー女子高生三人組でした。
売れ残るコダマさんオーダーのおつまみ
三人とも茶髪に真っ赤な口紅、ジャージにジーンズというわかりやすいヤンキースタイルをしています。三人とも顔は相当にかわいいのですが、そこはヤンキーです、言葉遣いが半端ではありません。
「おー、カミムラァー、遅かったなー」
「あっ、オオシロですよろしくお願いします」
「ヨロシクネー」
「コダマです、よろしくお願いします」
リーダー格の女の子が言いました。「おい、カミムラァ、先公連れてくんじゃねぇーよ」
「いや、同じクラスの生徒なんや」
リーダーが急に大声を出しました。
「おっさんやんけー。カミムラァ、コンパやぞ、高校生連れて来い言うたやろ」
「いや、だから高校生なんや。定時制やから、いろんな人がおんねん」
リーダーが、今度はコダマさんに向かって言いました。「おまえ、マジ、高校生かー」
「三年B組、コダマジロウです。よろしくお願いします!」
どうにかこうにかリーダーが納得してくれたので、無事、六人で乾杯をすることができました。コダマさんはわりと酒に弱いらしく、少し飲んだだけで顔が真っ赤になってしまいました。
会話が盛り上ってくると、反比例してコダマさんは寂しそうな顔になっていきました。なにしろ、伊丹K高の△△がもと天O中(天王寺中学のこと)の××と喧嘩したとか、誰々はスカイライン乗ってるとか、誰々はシルビア乗ってるとか、そういう若い会話ばかりになってしまったからです。

コダマさんの寂しさに拍車をかけたのは、つまみでした。コダマさんが頼んだ漬物の盛り合わせ、サラダ、冷やっこといったさっぱり系のつまみに、女子高生軍団は誰ひとりとして手をつけようとしなかったのです。
コダマさん、何歳でしたっけ?
やがて、右端にいたロングの茶髪で鼠色のジャージを着て、つっかけを履いた子がビール瓶のラッパ飲みを始めました。
ついにコダマさんがキレました。「君、ちゃんとグラスに注いでから飲みなさい」
「うるせーな、おやじ」
「それに、もっと野菜を食べなさい」
「うるせんだよ」
「好き嫌いはダメだぞ」
コダマさんは、未成年飲酒は咎めないのに、なぜかビールの飲み方や偏食は注意するのでした。コダマさんはだんだん怒り始めて、「ガダルカナル島の戦い」の話を始めました。
「いいか、食べ物を粗末にしては絶対にダメだぞ。戦時中は食糧がなくて、ガダルカナル島ではな、雑草を食べたり、ネズミを焼いて食べたりしたんだ。私は……私はねぇ、まるで悪夢を見ているようだったよ。いまの日本は平和だが、私たちは命をいただいているんだ。もっと、命の恵みを大切にしなさい」
「はぁ?」

コダマさんの訓話は、ヤンキー女子高生にはまったく響きませんでした。カミムラ君がそろそろ潮時だと見て、カラオケに行くことを提案しました。
女子高生たちが叫びました。「よし! 歌おーぜ!」
コダマさんは女子高生たちからかなり突っ込まれていましたが、女子高生たちはコダマさんのことを「まあまあオモロイやつ」ぐらいに位置付けていたようです。
僕たちは、ビリヤードとカラオケが一緒になった店に入ることにしました。若者は当然、流行りの歌を歌いまくりましたが、コダマさんは「ここはお国の何百里〜」と軍歌を歌いながら僕の肩を抱きかかえると、「戦友!」と言って号泣していました。
女子高生たちがそういうコダマさんの姿に感動していたかというと、そうでもありませんでした。
さんざん歌いまくって、さんざん飲んで、レジに向かいました。
「なんで割り勘やねん。おっさん、おごってくんねーの?」
「何言ってんだよ、同級生じゃないか」
「チェッ。そんじゃ、またなー」
女子高生たちとは、こんな感じで別れました。
僕は家に帰って「ガダルカナル島の戦い」のことを調べてみました。計算してみると、当時、コダマさんの年齢は六歳でした……。
イラスト・文/チャンス大城
チャンス大城氏写真/朝日新聞出版
その他写真/shutterstock
僕の心臓は右にある(朝日新聞出版刊)
チャンス大城

2022/7/20
1,540円(税込)
304ページ
978-4023322592
芸歴30数年の芸人、チャンス大城。本名、大城文章(おおしろ・ふみあき)47歳。長すぎる雌伏のときを超え、今、お茶の間の記憶に残る男としてTV出演急増中。テクニックに長けたお笑いを魅せる芸人が多いなか、「このひとなんだ!? また見たい!」と思わせる男。彼の常軌を超えた発想と行動はどこから来るのか?「濃ゆい町」尼崎で育ち、東京で生き抜いてきた自らの半生をはじめて語る。
とんでもない人生なのに、読むとなぜか元気になる。笑って泣ける、赤裸々すぎる半生記。
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