映画の興行収入は、公開から時間が経つほど落ちていくのが普通だが、日本より一足早く4月5日に北米で公開された『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023)は、3週目に入っても人気を維持。興行収入約582億円を突破し、3週連続全米No.1を記録した。さらに全世界では1,000億円を突破する快挙を成し遂げ、大きな話題を呼んでいる。
ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト・小西未来さんによると、公開前のアメリカでの批評家の評価はそれほど高くなかったという。それでもこれだけの成績を残しているのは、映画を見た観客の満足度が高く、口コミでその評判が広がっていることが要因だという。
「子供がいる人たちがコロナ禍で映画館から離れた理由は、感染リスクを避けるためはもちろん、ストリーミングで子供にアニメを見せることに慣れてしまったから。ところが『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を見た人の高い口コミ評価によって、多くのファミリー層が配信を待たずに劇場に足を運んでいます。
昨年、『トップガン マーヴェリック』(2022)が大人の観客を映画館に呼び戻しましたが、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はファミリー層を映画館に呼び戻す役割を果たしていると思います」(小西さん、以下同)

3週連続全米No.1、全世界で1,000億円突破。任天堂のゲーム愛とリスペクトが詰まった『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、2023年の映画界の救世主に!?
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(4月28日公開)の勢いが止まらない。全世界で大ヒットを記録している背景を、ロサンゼルス在住の映画ジャーナリスト・小西未来さんが解説する。(トップ画像:© 2023 Nintendo and Universal Studios. All Rights Reserved.)
観客の満足度が興行収入に直結

© 2022 Nintendo and Universal Studios. All Rights Reserved.
映画の元になっているのは、1985年に第1作が発売された任天堂の人気ゲーム『スーパーマリオブラザーズ』。2016年に安倍元首相はマリオに扮してリオ五輪の閉会式に登場したし、東京の街中で外国人観光客がマリオのコスプレをしてゴーカートを走らせていることからもわかるように、世界的に抜群の知名度を誇る、いわばゲームのクラシックだ。
映画化に際して最も重要だったのは、任天堂のゲームファンが納得できること。
「1993年にハリウッドで実写化した『スーパーマリオ魔界帝国の女神』(1993)は製作費50億円をかけたものの、日本での興行収入はわずか3億円にとどまり、失敗に終わりました。ところが本作は、マリオの生みの親である任天堂代表取締役フェローの宮本茂氏を共同プロデューサーに迎えています。ゲームへのリスペクトが感じられることが、もともとのゲームファンに信頼される大きなポイントだったと思います。

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劇中では『スーパーマリオブラザーズ』だけでなく、『ドンキーコング』や『マリオカート』なども登場しますし、音楽やキャラクターも含めて、ゲームをやったことがある人に刺さるワクワクする仕掛けがふんだんに盛り込まれています。

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MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のように、任天堂ユニバースの世界観をいっぺんに体感できる内容となっているのも、とてもよくできている仕掛けだと思いました」(小西さん、以下同)
任天堂×イルミネーションの幸せな融合

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任天堂と共同製作したのは、アメリカのアニメーション会社であるイルミネーション。これまで『ミニオンズ』シリーズや『ペット』シリーズ、『SING/シング』シリーズを手掛けてきた実績がある。
「もともとはプレイヤーがコントロールして進めていくゲームなので、ストーリーはあってないようなもの。しかもキノコ王国など、普通に描いたら荒唐無稽な物語になってしまう危険性があります。
僕がうまいなと感じたのは、配管工のマリオとルイージ兄弟が暮らす、現実世界のブルックリンから物語をスタートさせていること。謎の土管から魔法に満ちた世界に迷い込むことで、スムーズに物語に没入することができるのです。
よくできたフォーマットだなと思ったら、オズの魔法使いと一緒なんですよね。脚本を務めたのは『レゴ® ムービー2』(2019)のマシュー・フォーゲル。ゲームよりもさらにストーリーらしいストーリーのない、玩具を元にした映画を成立させた実績がありますから、さすがに外さないですよね。ピーチ姫のキャラクターを、救いを求めるか弱い女性としてではなく、マリオを導く自立した女性として描いたのも現代的でした。

© 2022 Nintendo and Universal Studios. All Rights Reserved.
そして、1時間34分の映画の中で、マリオの成長という軸が1本しっかり通っている。単純にゲームのキャラクターを使えばいいとか、人気の俳優を声優にキャスティングすればいいといった短絡的な作り方をせず、ちゃんとおもしろいお話で映画をラッピングしています。子供が喜ぶ愛くるしいエンタメ映画を手がけてきたイルミネーションの能力と、任天堂が作り上げた完成されたキャラクターと世界観がうまく融合したと思います。
もちろん、ゲームをしたことがない人が見ても十分に楽しめると思いますし、誰もがハッピーになれる、誰も損をしない作品です。今後、続編やスピンオフが作られていく可能性も十分あり得ます。
2023年の映画界の救世主になる1本になると思います」
文/ロードショー編集部
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(2023) The Super Mario Bros. Movie
上映時間:1時間34分/アメリカ・日本
ニューヨークに住む配管工のマリオとルイージは双子の兄弟。謎の土管から舞い込んだのは、魔法に満ちた新世界だった。離れ離れになってしまった兄弟が、絆の力で世界の危機に立ち向かう。
4月28日(金)より全国公開
配給:東宝東和
公式サイト:https://mario-movie.jp/
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