──坂口さんは存在しない誰かの想いが見える青年・未山役、齋藤さんはその元恋人の莉子役を演じられました。最初に脚本を読んだときの感想を教えてください。
坂口 脚本は説明をかなり省き、役者にも観客のみなさんにも考える余白を残している、不思議な作品だと思いました。
──伊藤ちひろ監督は、坂口さんが出演していた『ナラタージュ』の脚本を担当されていますよね。(※堀泉杏名義)
坂口 あの作品の後も何度かお話をする機会があり、伊藤さんから「坂口くんで映画を撮ってみたいんだよね」と言われていました。いろいろな話をするうちに、「今のニュアンスや言葉のチョイスが面白いかも」という話をされたので、僕の要素が未山に反映されていたかもしれません。

齋藤飛鳥が「手札がまったくない状態で臨んだ」映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』。坂口健太郎は「こういう不思議な世界観の作品があってもいいと思えた」
4月14日公開の映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』で初共演を果たした坂口健太郎と齋藤飛鳥。共に「不思議な作品だった」と語る、曖昧な物語の魅力に迫る。
よくわからないけど、不思議な魅力のある脚本

©2023「サイド バイ サイド」製作委員会

©2023「サイド バイ サイド」製作委員会
──齋藤さんは、脚本を読んでどんな感想を抱きましたか?
齋藤 莉子役を自分の中で噛み砕いても、伊藤監督とお話ししても、掴みきれない感じはありました。でもそれに対して不安とか心配というネガティブな気持ちはまったくなく、「これは撮影現場で全部探ればいいんだ」と思ったんです。ちょっと楽観的ですけど、現場で言われたことをちゃんとやろう、それに徹しようと思って臨みました。
──坂口さんは未山を演じるにあたって、どんな準備をされたのでしょうか? 難役でしたよね。
坂口 撮影の前に一応、自分の中で未山を作り上げて撮影に行きましたけど、現場で監督に「対峙する人によってどんどん変わっていく人物であってほしい」と言われたので、その言葉が演じる上でヒントになりました。自分なりに作っていった未山像は一回手放して、現場での変化に対応しながら演じました。
お互いに抱いていたイメージとのギャップ
──初共演ですが、お互いに抱いた印象は? イメージとのギャップはありましたか?
坂口 割と落ち着いたクールな感じの女の子かなと思っていました。でも実際に会って話してみると、ツボに入るとめちゃくちゃよく笑うし、印象は変わりましたね。
齋藤 私も坂口さんは静かなイメージがありました。繊細で丁寧で器用な人という印象だったんですけど、実際会ってみると、現場を盛り上げてみんなを明るく引っ張ってくれるので、ちょっと違うなと。よく喋るし、よく食べるし、いつも笑っているし(笑)。現場をパッと明るくしてくださる方です。
坂口 でもちょっと喋りすぎだよね。
齋藤 そんなことはないです。今日みたいな取材の日はたくさん喋っていただいたほうが、私は助かります。
映画の中の未山は確かに美しかった

──伊藤監督は、坂口健太郎さんの圧倒的な透明感に魅了されてできた作品だとコメントされています。監督から直接言われたことは?
坂口 監督はそう言ってくださるんですけど、本当の僕は真逆です。すごい大雑把だし、ズボラだし、いつもガハガハしている感じですから(笑)。
ただ、映画の中の未山は確かに綺麗だったと思います。キャラクターの骨格とかディテールが美しかったなと。もちろん監督は未山=坂口として描いてはいませんが、僕からニュアンスを引っ張り出して作り上げたキャラクターだと思うので、自分としても新たな発見でした。そう見られていたんだなと。
──齋藤さんは、坂口さんとの共演はいかがでしたか?
齋藤 お会いする前に繊細な人というイメージを抱いていたのでギャップは大きかったんですが、明るくて楽しい一面がありながら、すごく柔らかい雰囲気をまとっているんです。
それは未山というより、坂口さんの魅力だし、そこに惹かれる方がたくさんいるんだろうなと思いました。だから未山は坂口さんじゃないと演じられないし、坂口さんだからこそ成立したと思います。
──坂口さんは莉子を演じた齋藤さんのお芝居を見て、どう感じられましたか?
坂口 莉子は暗いものを抱えていて、元恋人の未山といるときも、草鹿(浅香航大)といるときも、常に負荷のかかる何かを背負っている女性で。
セリフが少ないから仕草や表情などで表現しないといけないですし、飛鳥ちゃんは難易度の高いことを求められていました。でも撮影中は、「莉子だ」と思う瞬間が何度もありました。それは本人が持っている個性、魅力がそうさせていたと思います。

©2023「サイド バイ サイド」製作委員会
──齋藤さんは、莉子を演じるにあたって、坂口さんがおっしゃっていたことは意識していたんですか?
齋藤 「そういうふうに見られていたのか」という感じです。どうやったらお芝居が上手になれるのか、莉子になれるのか、その手法が私にはわからないんです。お芝居の経験も浅いですし、手札がまったくない状態で臨んだので、「とにかくやらなくちゃ!」と思って演じていました。正直、いいように表現してくださったんだと思います(笑)。
キャストもスタッフも模索し続けた撮影
──先ほど、余白のある役でいろんな捉え方ができるキャラクターだとおっしゃっていましたね?
坂口 監督の頭の中を読み解いて演じないといけなかったので、常にアンテナを張り巡らせている状態でした。でも、この作品はわかりやすく完結する作品ではありませんし、こういう不思議な世界観の作品があってもいいなと思ったんです。
どうやって演じたらいいか戸惑いながら向き合ったことが、この映画の曖昧さや透明感につながったのかもしれません。
齋藤 私も莉子が何考えているのかまったくわからなかったけど、わからなくてもいいとも思いました。
そもそも、自分がこの作品に色をつけたり、味をつけたりすることはできないと思ったんです。坂口さんや実日子さんがどう演じられるのかを見ながらお芝居できたことは、とてもいい経験になりました。
未山のようなスピリチュアな能力は……ない!

──完成した映画を見た感想は?
坂口 こうやって取材で未山について話していますが、僕自身、100%腑に落ちていないんですよね。この映画は、見る人の状況や気持ちのタイミングによって感想が変わってくるんじゃないかと思います。
お客さんに考える余白を作っているので、いろんな感想が飛び出してくる。それは作品にとって、とても豊かなことだと思いました。
齋藤 曖昧な面白さや曖昧な魅力があるので、それこそ言葉がわからない海外の人が見ても楽しめるというか。見終わった後にこの映画で見た情景が浮かんできたり……。頭や心に残る作品なのかなと思いました。
──ちなみに未山は、そこに存在しない「誰かの想いが読める」青年で、少しスピリチュアルな印象もありました。おふたりがスピリチュアルな体験をしたことは?
坂口 僕は未山的な力やスピリチュアルな経験をしたことはありません。でも、そういう力や現象は信じたいです。あってほしいと思っています。
齋藤 私も全然感じないです。
坂口 そういう不思議な力がありそうに見えるけどね。
齋藤 それすごく言われるんですよ! 何か見えてそうとか。ただ、そういう現象をバカバカしいとは思わないし、霊でも何でも、いてくれていいとは思っています。いい霊ならば、自分についていても別にかまわないですし(笑)。
『サイド バイ サイド 隣にいる人』と『砂の女』の共通点

──齋藤さんは乃木坂46を卒業されましたが、これを機に女優業を本格化させる予定は?
齋藤 いえいえ、そのために卒業したわけではないですし、この作品を撮影したのも乃木坂46に在籍中でしたから。ただ、ファンの方たちには、この作品で私の生存確認をしていただけるかなと。タイミング的にはとてもよかったと思います。
──最後に、おふたりの好きな映画や好きな映画スターを教えていただけますか?
坂口 最近、ライアン・ゴズリング主演の『グレイマン』(2022)を見ました。僕は彼と身長がほぼ一緒なんです(183cm)。ライアン・ゴズリングは40代ですが、体もいいし、アクションもすごいし、芝居もいい。同じような身長ということは、がんばれば自分もライアン・ゴズリングのようになれるかもしれないですよね(笑)。
あの年代であのかっこよさを維持できているのは、夢があると思いました。
齋藤 私は『サイド バイ サイド 隣にいる人』を見たあとに『砂の女』(1964)をもう1回見たいと思いました。近い色や世界観を感じたんですよね。原作者の安部公房が好きで、小説を読んだあとに映画も見たのですが、そのときは暗いしよくわからなくて。
この機会に見なおしてみましたが、やっぱり難しかったです(笑)。
坂口 でもそれって、この映画と『砂の女』が心の中で引っかかり、繋がったということだよね。『サイド バイ サイド 隣にいる人』も見てくださる方にとって、「何だろう?」と心に引っ掛かる作品になれたらと思います。
取材・文/斎藤香 撮影/石田壮一
『サイド バイ サイド 隣にいる人』(2023)上映時間:2時間10分/日本

そこに存在しない誰かの想いが見える青年・未山(坂口健太郎)は、その力で体の不調や心に傷を抱えた人の想いに寄り添い、癒しながら、恋人の詩織(市川実日子)と幸福な日々を送っていた。しかし、高校時代の後輩・草鹿(浅香航大)の存在を近くに感じるようになった未山は、草鹿と再会。同時にかつての恋人・莉子(齋藤飛鳥)とも再会することになり、それをきっかけに未山の過去が紐解かれていく……。
出演:坂口健太郎、齋藤飛鳥、浅香航大、磯村アメリ、市川実日子
監督・脚本・原案:伊藤ちひろ
製作:「サイド バイ サイド」製作委員会
製作プロダクション:ザフール
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
4月14日(金)全国ロードショー
©2023「サイド バイ サイド」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/sidebyside/
坂口健太郎
1991年、東京都出身。2014年俳優デビュー。2016年『64-ロクヨン-前編/後編』で日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。2018年『シグナル長期未解決事件捜査班』(フジテレビ)で連続ドラマ初主演。近作は『余命10年』『ヘルドッグス』(いずれも2022)など。
齋藤飛鳥
1998年、東京都出身。2011年アイドルグループ「乃木坂46」の一期生オーディションに最年少で合格してデビュー。映画初出演は『あの頃、君を追いかけた』(2018)、2020年『映像研には手を出すな!』で映画初主演を果たした。2023年に乃木坂46卒業。
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