
【漫画あり(4〜6話)】「先生は『THE3名様』で話が面白くなりすぎたらボツにするって本当ですか?」「“記憶に残らない”がこの作品の魅力ですから」《石原まこちん×佐藤隆太》
実写ドラマとして2005年から2010年にかけて制作された『THE3名様』。昨年、12年ぶりの新作が劇場公開されただけでなく、LINEマンガで連載中の『THE3名様 Ω(オメガ)』の単行本が今年3巻同時リリースされるなど、再び大きな盛り上がりを見せている。本記事ではその魅力について、ドラマ版で「ジャンボ」を演じた俳優の佐藤隆太さんと漫画家の石原まこちん先生の対談を前後編にわたってお届けする。(前後編の後編)
12年ぶりの新作が単なる同窓会にならなかった理由
――昨年の新作『THE3名様~リモートだけじゃ無理じゃね?~』は隆太さんにとっても12年ぶりに「ジャンボ」を演じる機会となりました。俳優として同じ役を演じる上でのブランクは意識しましたか?
佐藤隆太(以下、佐藤) この作品に関しては心配していなかったですね。もともと僕ら(メインキャストの佐藤隆太、岡田義徳、塚本高史)は、いい意味でゆるいスタンスで演じていました。実はシリーズの一番最初と今では、ジャンボのキャラクターってすごく変わっているんです。最初はめちゃくちゃ強いっていう設定があったりして。
石原まこちん(以下、石原) そうそう。
佐藤 ジャンボは原作の「ふとし」とは違う実写版オリジナルのキャラクターだから、ある意味一番自由にできるんですよね。でも、演じていくうちに、やっぱりふとし的雰囲気で演じたほうがいいと感じて。監督の福田雄一さんに相談したんですよ。「とはいえ、もう撮っちゃっていますから今さら変えられないですよね」と言ったら、「全然いいよ」って(笑)。そこから思いっきりキャラクターを変えています。

――そもそもガチガチに設定があるキャラクターではないってことですね。
佐藤 話を戻すと『THE3名様』って、一人でキャラクターを作り上げていくような作品じゃないんです。あのファミレスのあの席にあのメンバーで座ると、一瞬で昔の関係性に戻れる。あの2人がジャンボっていうキャラクターを思い出させてくれるんです。
このシリーズは毎回とにかくすごいスピードで撮影していて。2日でDVD1本分を撮るペースです。セリフの読み合わせも現場のセッティングの合間にしていました。そのくらいじゃないと、撮影のスピード感に追いつけなかったんですよ。
そういう感じで撮っていたから、今回は久しぶりでしたけど、現場で一緒になった途端にどんどんキャラクターが出来上がっていくんです。3人の空気感で作っていく作品なので、ブランクを感じずにできましたね。
それに役者として表現するチカラも、お互いに成長しているなって感じられたんですよね。もしかしたら見ていても気付かないような細かいところで、実はいろんなことをやっています。
演技のうまさを追求するような作品ではないですが(笑)、単なる昔の再現になってしまったら僕らも納得できなかった。以前よりもブラッシュアップできたから、ただの同窓会にならなかったのだと思います。
大人になってわかる『THE3名様』のエモさ
――劇場公開時には各地に舞台挨拶にも行かれましたが、お客さんの反響はいかがでした?
佐藤 12年も経ったことで、むしろエモい感じで観てくださる方が多かったように感じましたね。
石原 Twitterでも、「当時を思い出して泣いちゃった」っていう声があったり。
佐藤 「あの頃、一緒に観ていた友だちに久し振りに連絡を取ってみようと思いました」とか。もし5年ぶりとかだったら、こういう反響にはならなかったと思うんですよ。かといって、これ以上だと間が空きすぎる。結果的に絶妙なタイミングになったのでは?という気がしています。
石原 「当時は自分もフリーターだったけど、今は子どもと一緒に観ています」っていう人が本当に多かったんです。

――観客が自分の青春と作品を重ね合わせているんですね。
佐藤 そう、大げさに聞こえるかもしれないですけど、青春なんです。12年ぶりの『THE3名様』を観て、僕らも、そしてお客さんもそれぞれの青春を取り戻しているような感じがありました。
石原 3人の名前を書いたうちわを持っている人までいましたからね。
――漫画もドラマもキャラクターは成長していないけど、その変わらなさが観客に“あの頃”を思い出させる要因にもなっているんですね。ただ、連載中の『THE3名様 Ω(オメガ)』では、実は1歳だけ歳をとっていますね。
石原 28歳になりました。30歳が見えてきて、ちょっと切実さが増してきたわけです。でも、そのうち「やっぱ上げすぎた」って年齢を下げるかもしれません(笑)。
――隆太さんにとっても、『THE3名様』は青春の作品ですか。
佐藤 はい。漫画を読むたびに若い頃に戻りますね。めちゃくちゃ共感できるシチュエーションで、「わかるな~」ってところがいっぱいある。
例えば、最近の連載でもありましたけど、ドリンクの氷の凹んでいるところに溜まった水をストローで飲むくだりとか、「絶対やるよな」って思います。
石原 絶対やりますよね(笑)。
佐藤 自分も若い頃は友だちとファミレスに行って、こういうたわいもない時間を過ごしたなって。でも、そのたわいもない時間が今の自分を作っていると思うし、まこちん先生の漫画を読むと、あの当時の気持ちになれる。照れくさいですけど、それはすごく思います。
青春とは、ファミレスでダベることである
――ここまで変わらない作風を続ける秘訣は?
佐藤 もはや大作シリーズですよね。
石原 それはやっぱりね、僕は昔、5年くらいかな、こういう生活をしていたんですよ。友だちと毎晩ファミレス行って奢ってもらって。
――その頃、先生は何を?
石原 なんにもしてないです。
――すごく爽やかにおっしゃいましたね(笑)。
石原 19歳で漫画家デビューしたんですけど、そこで賞金もらってやる気をなくしちゃったんですよね。それでニートみたいな状態になって。尾山台のデニーズやロイヤルホスト、田園調布のすかいらーく、あそこら辺にずーっと毎晩いました。
ただ、当時の友だちも僕も家族ができて、ファミレスに行くことがなくなって。食事には行きますけど、ドリバ(ドリンクバー)で5時間とかはやらないじゃないですか。
ファミレス友だちがいなくなったからこそ、僕は漫画を、あの頃の夜が今も自分の中では続いているっていう感覚で描いています。幻なんです。その意識はすごくあります。

――漫画は現実の続きだと。
石原 そうですそうです。みんないなくなっちゃったんで。家族でファミレス行くのも楽しいですけど、メシ食ったら帰るじゃないですか。
――メシ食ったら帰るじゃないですか(笑)。
佐藤 我々にとってはメシを食ってからがファミレスですよね。
石原 そう、みんなすぐ帰ろうとするから。「いやいやいや、待て」と。
佐藤 今からだぞ!と。
石原 ファミレスのメシって、本当はダラダラ喋りながらつまみ食いしたいんですよ。でも家族で行くと、ちゃんと(ナイフとフォークを持って)こうですからね。で、食べたら帰る。まあ、当たり前なんですけど(笑)。
――それは喫茶店ではダメなんでしょうか?
佐藤 あー、ちょっと違いますね。
石原 ソファーですよ。なんといってもファミレスはソファーです、やっぱり。
佐藤 それに喫茶店よりは適度に放って置かれる感じもあって。店員さんの目線には弱いんです。小心者なんで(笑)。早く帰れってプレッシャーを感じると長居できない。
石原 その点、ファミレスは基本的に優しいですからね。プレッシャーをまったく与えてこない。あそこは天国です。

――今の若者も『THE3名様』みたいなことをやっていると思いますか?
石原 僕はやっていないって話をよく聞きます。でも、それがファミレスじゃなくても、こういう時間はどの時代の若者にも絶対にありますよ。
――それは何の時間ですか?
石原 青春ですよ。デートは青春じゃない。同性同士でダベるのが青春だと僕は思います。ま、僕にデートの経験がなかったということでもあるんですけど(笑)。
佐藤 でも、まさにそうですよね。
なんとなく観て、なんとなく読んで、なんとなく面白い
――ベタな質問もすると、原作とドラマそれぞれで印象に残っている回ってありますか?
石原 これは非常に難しい質問です。……僕はよく言っているんですけど、記憶に残らないのが、『THE3名様』のいいところだから(笑)。
――予想外の答えでした(笑)。
石原 記憶に残らないから何度でも観られるし読める。なんとなく観て、なんとなく読んで、なんとなく面白い。そういう作品です(笑)。
佐藤 「そこを突いてくるか!」っていうまさに絶妙なさじ加減ですよね。だって、先生がおっしゃっていましたけど、話が面白くなりすぎたら消すんですよね?
石原 そう、印象に残っちゃうから(笑)。
佐藤 印象に残っちゃうから(笑)。でも、それが気張らずに読めるし、観られる理由ですよね。

石原 Twitterでも、「BGMとして最適なドラマだ」って言う人がいるくらいで。だから、「この回はよかったよね」というのがないんです。
佐藤 僕はそういう作品だからこそ、コロナ禍のタイミングで新作をやりたいと思ったんです。家から出られなくて、みんなモヤモヤしている。
そういうときに、リラックスして観ることができて、くすっと笑えて、しかも自分をちょっと肯定できる。そういう作品があると、すごくいいよなって。
石原 本当そうですよね。
佐藤 まさに最適なコンテンツじゃないかと思いました。しかし、先生の「記憶に残らないのが魅力だ」っていうのは名言ですね。
――この先もドラマシリーズは続けていくんでしょうか?
佐藤 まだまだ原作に面白いエピソードはたくさんあるので、やらせてもらえるならもちろんやりたいです。でも、今の内容から大きく変えることはないですね。これだけ長くやっていると、いろいろ考えちゃうんですよ。一度はファミレスの外に出てみようかとか、成長して子どもがいる設定はどうだとか。でも結局、この席の彼らじゃないとダメなんです。
石原 うんうん。
佐藤 だから、この原作があって、先生がいいよって言ってくださる限り、ずっとこの感じで続けていきたいですね。
記憶に残らない“青春”がここにある!
【漫画】『THE3名様 Ω 1』(4〜6話)を読む(漫画を読むをクリック)

取材・文/小山田裕哉 撮影/鈴木大喜
『THE3名様 Ω 1』
石原 まこちん

2023/2/23
544円(税込)
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実写ドラマ化もされ一世を風靡したゆるゆる漫画の金字塔『THE3名様』から最新シリーズが登場。ふとし・まっつん・ミッキーの3名が毎夜ファミレスで繰り広げる令和イチどうでもいい話を感じろ! 第1巻は、コロナ禍の中でもくだらない楽しみを見出す3人の姿を描いた話を中心に20篇を収録!
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