——4月19日(水)から「誕生30周年記念 花より男子展-Jewelry BOX-」が松屋銀座(東京・中央区)で始まります。グッズにも「道明寺司プロポーズして」と書かれたうちわなど凝ったものがあって、今からとても待ち遠しいです。
ありがとうございます。松屋銀座さんが本当にいろいろと考えてくださったんですよ。私もとても楽しみにしています。
——展覧会で、特に注目してほしいところはありますか?
『花より男子』(以下、花男)は私が20代の頃に描き始めて、今見ると絵が拙い部分があって(笑)。なので「あの絵が並ぶのか」という恥ずかしい気持ちもあるのですが…。でも、それも『花男』の歴史の一部なので、「この頃にはだいぶ上手くなったな」とか、まるっと見ていただけたら嬉しいです。
——『花男』は表紙などのカラーも素敵なので、それが見られるのも楽しみです。
カラーインクで色を塗っているので、デジタルで出力したものとは違う、一点モノ的な感じがあると思います。当時は7号連続とか、カラーのお仕事がすごく多くて本当に大変だったのですが、あのときにたくさん描かせていただいたからこそ、このように原画展ができるんだなと。改めてありがたいなと思いました。

【漫画あり】「最初から道明寺に決めていたわけではなかった」–––『花より男子』神尾葉子が振り返る名作へ込めた想い。誕生30周年で特別展覧会も開催
累計発行部数6100万部を突破し、日本のみならず、海外の読者からも人気を集める少女漫画の金字塔『花より男子』。マーガレット・別冊マーガレット60周年を記念して、本作の作者である神尾葉子氏にインタビューを実施。4月19日から順次開催される「花より男子展」や本作へ込めた想いについて、たっぷりと語ってもらった。
「マーガレット・別冊マーガレット60周年」特別インタビュー#1(前編)
感覚的にずっと切れない
家族のような、親戚のような作品

カラーインクで描かれた、透明感のある美しいカラー

4月19日(水)から松屋銀座で開催される「誕生30周年記念 花より男子展-Jewelry BOX-」(https://hanadan-ten.com)
——連載終了後も、こんなふうに『花男』に関する話題が絶えません。2023年の今、神尾先生にとって『花男』はどんな存在になりましたか?
30年前に始めて、12年間描いて…私の中ではある程度手が離れた作品なのですが、ドラマにしていただいたり、こうして展覧会を開催していただいたり、「その後」の出来事がとても多いんですよね。
連載が終わった時点で、自分の気持ちとしては次の作品に向かっています。でも、振り返る機会がすごくたくさんある。感覚的にずっと切れない、変わった関わり方をしている作品ではないかと思っています。家族のような、親戚のようなイメージですね。
ただ連載が終わってから違う作品も描いているので、ずっと『花男』のことを言われると…「今の作品にも注目してほしいな」と思うときもありました(笑)。
大きなヒットになると、どうしてもその作品にずっと引っ張られますよね。でも滅多にないことなので、すごく幸福だなと今は思っています。
——完結した4年後に出された37巻のおまけマンガに、当時放送中だった日本版のドラマを観たことで「宝箱」にしまってあったキャラクターたちが出て来た、と描かれていましたね。「宝箱」という表現も素敵ですし、先生が〈ああ…出てきてしまったよ……〉という感覚なのもおもしろいなと思いました。
私の作品の中でも、『花男』は特にキャラクターが濃くて、なんだか“黙っていない”イメージなんですよね(笑)。マンガを描いて終わっていたら出てくることもなかったのかもしれませんが、ドラマで役を演じられた俳優さんたちを拝見していると、キャラクターたちも私と一緒に喜んでいるような気持ちになりました。

——連載中、当時の編集長に「あなたは、この漫画を島にしなさい」と言われたことがある、とおっしゃっていましたね。「別のところに遊びに行って、またこの島に帰って来なさい」と。
その言葉は本当に心に残っています。連載10年目くらいのときに、実は編集長に「連載をやめたい」と話したんです。当時は隔週で描いていたので、体力的にすごくツラくて。でも「絶対にまた描きたくなるときが来るから、今終わらせないほうがいい」と言われました。
そして実際に、「また会いたくなることがあるんだなぁ」と感じましたね。終わり方も、もともと思っていたことではあるのですが、キャラクターたちが結婚して子どもできて、どこかで生きています…みたいなものではないほうがいいなと、より思うようになりました。
——彼らの人生がこの後どうなるのか、想像が膨らむ終わり方でした。
読者さん的には「ちゃんと終わらせて!」と思われるラストだったかもしれないんですけど…(笑)。私は、こちらの道を選びました。
細かい会話やどうでもいいことを
ちまちま考えるのが好きだった
——『花男』は、読み返すたびに新たな発見があります。たとえば、牧野家が引っ越し準備をしているところにつくしが帰ってきて、お母さんに〈つくしは くつはいてるついでにガムテープ買ってきて〉と言われます。生活のリアリティが感じられて、ハッとしました。
こういうことって、実際にありますよね。私も親にお買い物を頼まれるときに、同じようなことを言われた経験があるんです。私は“庶民育ち”なので、そういう部分は、割と大切にして描いていました。

——名場面や名ゼリフのほかに、こうしたリアルなディテールが積み重なって『花男』は出来ているのだと、改めて思いました。
細かいところを描くのが好きなんですよ。名場面を描くときにはもちろん力が入るのですが、一方で細かい会話や皆さんが読み飛してしまうような“どうでもいいこと”をちまちま考えて描くのがすごく好きで。なので、初めて「靴」のシーンにフォーカスしていただけて、すごく嬉しいです。
——「名場面には力が入る」とおっしゃいましたが、描いていて気持ちがよかったりするのでしょうか。
名場面…と言われているところになるのかはわからないのですが、私の場合、その話の大事な場面がまず映像として頭の中に出てきて、遠くに見えるそこに向かって、考えながら、軌道修正をしながら持っていく…という作り方なんです。
なので「やっと辿り着いた。よし、頑張ろう!」という感じですね。自分の中にあるエモーショナルな部分と、綿密に計算する部分の2つで舵を取っていくような…。すごく疲れる作業ではあるのですが(笑)。
——その2つの間を行ったり来たりするのか、それとも並行させていくような感じなのでしょうか。
商業誌で漫画を描く方は皆さん同じだと思うのですが、「読んでいる人がどう思うか」とか、「自分が描きたいのはこっちだ」とか、話を見ている自分が何通りも同時に存在しているんです。私の場合は、4人ぐらいが見ているイメージですね。
——読者目線の自分と、描く自分…あと2人はどんなご自分でしょう。
話を理論づけていく自分と、最後は全体を見る自分、でしょうか。なかなか4人が揃うことはないのですが…。体調とか、その時々の状態によって、読んでいる人の目線で考えられないことも、もちろんあります。でも4人が揃うと、自分でも納得できる話作りができる気がします。
長い連載って、「一発勝負」みたいな側面もあるんです。決めた道に一度向かったら、戻って違う道に行くということはなかなかできない。なので、注意深く考えながら道を選ぶようにしていました。たとえば「道明寺のことが好き」と描いたのに、「やっぱり花沢類だった」とは描けないですから。
「つくしがどう生きていくか」という
1人の女の子の物語でもあった
——つくしと道明寺は揺るぎないカップルですが、もう一人、花沢類という素敵な男性がいたことも『花男』の非常に大きな魅力です。最初からこの2人でいく、というようなお気持ちだったのでしょうか。
最初の頃は、「花沢類でしょ」と思いながら描いていましたね。でも、道明寺が出てきて「なんだか知らないけど、ちょっと可愛くなってきた」と(笑)。「育てると面白そうだな」と描き続けるうちに、道明寺の比重がだんだん大きくなってきました。

花沢類と道明寺司、2人の魅力的な男性が多くの読者の心をつかんだ
——最初から道明寺に決めていたわけではなかったのですね。
はい、まったくそうではなかったです。恋愛色も強いですが、つくしがどう生きていくかという、1人の女の子の物語でもあったので。家族を背負った…ある種の負荷がかかった女子高校生をきちんと描きたいと思っていました。
なので、相手のことはハッキリ決めずに楽しんで描いていたら、だんだん選択を迫られるようになった、という感じですね。

つくしの生き様に多くの読者が共感し、憧れ、エールを送った
『花より男子』第1話を読む
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『花より男子』(集英社)
著者:神尾 葉子

1992年10月23日発売
484円(税込)
新書判/216ページ
4-08-848028-7
牧野つくしが入ったのは超金持ち名門高校。でも、そこはサイアクな所だった。F4ってチームが牛耳って、ちょっとでも歯向かうと集団イジメ! ぶち切れたつくしはF4の道明寺司にケリを入れてしまい…!?
文・インタビュー/門倉紫麻
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