『Only Built for Infinity Links』
クエイヴォ、テイクオフ
UNIVERSAL MUSIC JAPAN
ロック・ミュージシャンにはない「ラッパーあるある」に「従兄弟でグループを結成しがち」というのがある。理由はアフリカ系米国人家庭におけるシングルマザー率の高さ。母親は働きに出る際、子どもを自分の母(つまり子にとっては祖母)の家に預けるのだが、その家には母親の姉妹の子も預けられているため、孫同士がラップで遊び始めて、そのままプロになるというわけだ。たまに祖母がまだ若く、孫と同世代の子どもを育てていることもあり、その場合は叔父と甥でグループが結成される。ピンとこない人は『サザエさん』のカツオとタラちゃんがラッパーになった姿を想像してほしい。
アトランタが生んだ史上最高のラップ・トリオ、ミーゴスは、クエイヴォ(カツオ)とその従兄弟オフセット、そしてテイクオフ(タラちゃん)によるグループだ。彼らの特徴は顔がみんな似ていること(親戚だから)、そして3人のラップが入れ替わり立ち替わり前に出てくるコンビネーションの妙にある。幼い頃から一緒にラップしていた彼らは、何の打ち合わせもなく複雑なフォーメーションをこなしてしまう。しかも詞は完全即興。ほとんどの曲は15分以内で作詞からレコーディングまで終えていたというのだから恐ろしい。
そんなミーゴスだったが、女性ナンバーワン・ラッパー、カーディ・Bと結婚したオフセットが「いつまでも親戚とツルんでるのはダサい」とソロ志向を強めたために活動休止に。残された二人はデュオで『Only Built for Infinity Links(無限の絆で築かれたもの)』と題したアルバムをリリースして、叔父と甥の永遠の絆を熱く語っていたのだが、’22年11月に悲劇が起きた。プロモーションで訪れたテキサスのボウリング場でテイクオフが何者かに銃撃を受けて、命を落としてしまったのだ。享年28歳。あの3人のラップはもう聴けない。銃撃による死も「ラッパーあるある」ではあるけれど、これだけは廃れてほしいと思わずにいられない。
エンタメ 2023.03.27
『Only Built for Infinity Links』クエイヴォ、テイクオフ|親戚ゆえの濃厚コンビネーション【超初心者のためのHIPHOP STARTUP|長谷川町蔵】
「ヒップホップとは」を長谷川町蔵さんが初心者にもわかりやすく解説する連載の第8回目。今回は、叔父と甥によるラップ・デュオ、クエイヴォ、テイクオフによるアルバム『Only Built for Infinity Links』 について。
SHARE

今回のアーティスト&作品

新着記事
エンタメ / 2023.07.25
【こち亀】食産業のヒット請負人・両津!?

エンタメ 2023.07.24
エンタメ / 2023.07.24
夢枕獏、 谷口ジローを語る…「“神々の山嶺”の漫画化が決まったその瞬間に“最後のシーンを変えていいですか?”と谷口さんが直ぐ言ったんです」
北九州市漫画ミュージアム企画展「描くひと 谷口ジロー展」記念イベント 夢枕獏講演会~谷口ジローを語る~ より

教養・カルチャー 2023.07.24
教養・カルチャー / 2023.07.24
1日に5回かかってくる母親からの電話、気にくわないとただ怒鳴る父親…いつまでも子どもを苦しめる“幼稚なままの親”の特徴とは
『親といるとなぜか苦しい 「親という呪い」から自由になる方法』#2