『別れる決心』|還暦を前にした監督の「老境」を意識しすぎた恋愛ミステリー【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】_1
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『別れる決心』


監督/パク・チャヌク 出演/パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開中

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『別れる決心』|還暦を前にした監督の「老境」を意識しすぎた恋愛ミステリー【売れている映画は面白いのか|菊地成孔】_2
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『ラスト、コーション』でセンセーションを巻き起こした女優タン・ウェイを謎のヒロイン役に迎え、『殺人の追憶』の演技派パク・ヘイルを主演に、鬼才パク・チャヌク監督が撮り上げたロマンティックなミステリー。夫殺しの容疑をかけられた女と捜査する刑事が、道ならぬ恋に落ち深い痛手を負っていく。韓国で社会現象といえる一大ブームを巻き起こしている話題作。

還暦を前にした監督の
「老境」を意識しすぎた恋愛ミステリー

 前作『お嬢さん』は高く評価しているし、パク・チャヌクの作品はどれも好きです。彼と僕は同い年で今年還暦を迎えます。さてどうなるのか?と期待して観ました。

 大変に意欲的。すごくロマンティックではある。しかし決め手に欠く。従来あった暴力やエロティック描写は影を潜め愛の物語になった。

 ある転落死事件を通して出会った男性刑事と女性容疑者が禁断の恋に落ちる。そんな二人が、いかに「別れる決心」をするのか。

 驚くべき点は何もない。実はこれは松本清張的な映画なのではないか。まず崖が象徴的に描かれる。『ゼロの焦点』や『砂の器』のようなところもある。やや冷静さに欠くミステリー。

 正直、まったく感動できなかった。彼ならではの歌舞いた画面構成はいつも話題になる。今回も、ありえないほどのクローズアップや新しいカメラの視点などはある。しかしすべてがスマホのカメラで可能ではないか?と感じる。

『お嬢さん』のときは、原作が英国で韓国調と英国調がキメラになったような邸宅を造り、そこでとんでもない催しが行われている様を見せた。今作には、あのとんでもなさがない。

『お嬢さん』はもう7年前、『オールド・ボーイ』なんて20年前。あの頃のパク・チャヌクはギラギラしていて、観客を圧倒していた。もしクリエイターとしての体力が自然に枯渇したんだな、と感じられれば、もっと見え方は違っていたと思います。

「エゲツなさの最高級品」。パク・チャヌクにはそうしたエレガンスがありました。「失敗作だから見るな」とは口が裂けても言いません。むしろ彼のファンには必ず観ていただきたい作品。彼の「新境地」が、ガチなのか? 「老境。という名のコスプレ」なのか? コレは「21世紀の老境」がどんなものであるかを考えるうえでも重要な作品であると思います。韓国はこの作品を、もう「国を挙げて」という勢いでとにかく推しまくっています。すでにカンヌでは監督賞に輝き、“ポスト『パラサイト 半地下の家族』”“オスカーノミネート韓国代表”といった文言も乱れ飛んでいますが、ホットなお国柄は結構だとしても、映画監督がそういったプレッシュアを是とするか非とするかも問われるところでしょう。(談)

Text:Toji Aida

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