
「酔った勢いで『私、お金集めますよ!』と言っちゃったんです」プロデューサーMEGUMIが竹中直人監督と映画『零落』で描いた「中年の危機」
2000年代にグラビアアイドル、タレントとして一世を風靡。最近では実力派女優として活躍するほか、経営者、プロデューサーなど、さまざまな顔を持つようになったMEGUMI。最新作『零落』では初の映画プロデュースを手掛けた。インタビュー前編では、プロデューサーとしての仕事論などを紐解いていく。
MEGUMIインタビュー 前編
酔った勢いも手伝って「お金集めますよ!」
グラビアアイドル、タレントから本格派女優に転身。2022年の連続ドラマ『完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの』(テレビ東京)では企画・プロデュース・出演を担い、注目を集めたMEGUMI。古民家カフェの経営者という顔も持っている。
そして、今年3月17日に公開されるのは、初プロデュース映画『零落』。竹中直人監督、斎藤工主演という座組で、MEGUMIはキャストとして出演もしている。
「2021年、竹中さんとドラマの撮影でご一緒したときに、『ちょっと飲もうか』となって、バーで飲んだんです。そのとき、『零落』の原作漫画を渡してくださって、『これを撮りたいんだよね』と。
あんなレジェンドが、極ピュアな思いで『撮りたい!』と熱く語られていることに感動して、私は『じゃあ、お金集めますよ!』と言っちゃったんです(笑)」

インタビューに応じたMEGUMI
俳優として活躍する一方、初監督映画『無能の人』(1991年)でヴェネツィア国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞し、『東京日和』(1997年)などを放ってきた竹中監督。
当時、MEGUMIは、プロデュース業に進出したばかりだった。
「ちょうどショートフィルムやYouTubeドラマをつくり始めた頃で、経験は浅いものの、プロデュース業を一生やっていきたいという思いがあったんです。
そして酔った勢いと、竹中監督の作品に参加したいという思いから、つい言っちゃったという感じ。
自分が作品に出る出ないも決まってない状態で、裏方として参加することになったんです」
原作は、『ソラニン』で知られる浅野いにおの同名漫画。スランプに陥った漫画家が、風俗嬢にハマって堕落しながらも、再び創作と向き合っていく姿を描く。
「原作を読んで、これは『大人の思春期』の話だなと思いました。ある程度大人になってくると、若いときに思い描いていた自分ではないことに気づき、深く傷ついて、そこから闇の中に入ってしまうような時期があると思うんです。
そして、ちょっと図太くなるというか。いい意味で図々しくなって、また社会とつながって生きていく。そういう季節があっていいんだよ、と肯定してくれる作品のように感じられて、すばらしいなと思いました。
それに、日本には若い子がメインの作品が多くて、大人のリアリティーを描いた映画が少ない。『大人が楽しめる映画をつくりたい』という思いが、強く湧き上がりました」

映画『零落』より
「もうダメかも……」と思うときが何度もありました
衝動に突き動かされたMEGUMIは、監督のマネージャーと意見交換しながら、製作委員会の組成に向けて奔走する。
「トントン拍子にはいかず、『もうダメかも……』というときが何度もありました。そのたびに竹中さんと『やりましょうよ!』とお互いに励まし合い、支え合って。
そしたらハピネットファントム・スタジオさんや日活さん、いろんなところが参加してくださったんです」
プロデューサーとして、脚本、キャスティング、ロケハン、衣装合わせなどすべての作業に携わった。
意識したのは「竹中監督が、一番いい状態で撮影できるようにすること」とMEGUMIは振り返る。
「竹中監督の頭の中には、『キャストはこの人』とか、『ロケ場所はここがいい』とか、超具体的なアイデアが、いっぱいあるんですよ。
それをスタッフみんなで具現化していった感じでした。うまくハマらなかったときは、『最近、この方もすばらしくて』と別の役者さんを提案したり、『こっちの画のほうがいいんじゃないですか?』と別のロケーションを相談したり。
難航した脚本作業では、『女性に見てもらうには、こういうセリフがあってもいいのではないですか?』と意見を言ったりもしました。
私は、それが採用されても却下されても、どっちでもいいんです。私の仕事は、監督の足を一回止めて、考えていただく時間をつくること。
試行錯誤して、構築して、また破壊する。それを繰り返してつくり上げることが大事なんだろうなと思っていました」
自身も主人公の妻で漫画編集者の町田のぞみ役でキャスティングされた。

「漫画家の編集担当の方にインタビューをさせていただいたら、本当に“女房役”なんですよね。生活に必要な買い物をし、お金の振り込みなんかもして、子どもの受験に付き添ったり。
コンディションのいいときも悪いときも全部受け入れて、ときには励まし、ときには軌道修正して、作品づくりに向きあってもらう。
のぞみもそんな母性がある、キャパの広い人だと捉えて撮影に臨みました」

「中年の危機」は暗闇の中で光る“美しき日々”
現場で大変だったのは、プロデューサー目線と女優目線の切り替え。
「プロデューサーとしては、一段高いところから、現場全体を見なきゃいけないんです。『今日は何時に終われるかな』とか『濡れ場のシーンは大丈夫かな?』とか考えて、実際にケアしていく。
でも、自分が演じるシーンでは、グッと視野を狭めて役に入り込まなきゃいけないので、視点が全く違うんです。
なので、自分の撮影の前日は、休みをいただいて、集中したり。ふたつの視点を行ったり来たりするのが、大変でしたね」

完成した映画『零落』は、表現と向き合う漫画家の苦悩とともに、「中年の危機」を生々しくも真摯に描いた作品に。
この「ミッドライフ・クライシス」は中年の80%が経験するとも言われており、共感する人も多いだろう。
「堕ちているときって、本人は苦しいし、周りも苦しいんですけど、ダークサイドの中で輝いている美しい瞬間だったりもするのかなって、完成作を見て気づきました。
『大人の思春期』は、いいことがある前の、ちょっと大変な時期。そんなふうに私は肯定的に捉えたいと思いましたし、みなさんにもそういう受け止め方をしてもらえたら。
すばらしい映像美とともに、目指していた『大人の作品』ができ上がりました」
「大人の思春期」は、MEGUMI自身にもあったという。
「うーん、ありましたねぇ。役者の仕事がいっさいなかったときは、『こんなにがんばってるのになぁ』って。もう、めちゃくちゃ絡まっている感じがあって。10年近くそれが続いたものですから、けっこうキツかったですね」
インタビュー後編では、そんなMEGUMIが過ごした「大人の思春期」と、マルチな活躍を生む仕事術などを探る。
取材・文/泊 貴洋
撮影/柳岡創平
場面写真/©2023浅野いにお・小学館/「零落」製作委員会
『零落』(2023年)
監督/竹中直人
原作/浅野いにお『零落』(小学館 ビッグスペリオールコミックス刊)
脚本/倉持裕
音楽/志磨遼平(ドレスコーズ)
出演/斎藤工、趣里、MEGUMI、山下リオ、土佐和成、吉沢悠、玉城ティナ、安達祐実
製作幹事・配給/日活、ハピネットファントム・スタジオ
8年間の連載が終了し、描けなくなった漫画家の深澤薫。世間からは「落ち目」の烙印を押され、アシスタントからはパワハラで理不尽に訴えられそうになり、漫画編集者の妻・のぞみとは離婚の危機に陥ってしまう。そしてのめり込んだのは、猫のような目をした風俗嬢・ちふゆ。堕落への片道切符を手にした深澤が、人生の岐路に立つ。
3月17日(金)テアトル新宿ほか全国公開
公式HPはこちら https://happinet-phantom.com/reiraku/#modal
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