――映画『ホリック xxxHOLiC』は『Diner ダイナー』(2019)、ドラマ『FOLLOWERS』(2020)に続いての蜷川実花作品参加となります。出演が決まった経緯を教えてください。
蜷川さんが『ホリック xxxHOLiC』を映画化するということはなんとなく聞いていて、「ひまわりちゃん、どうかな?」って感じで事務所を通してお話をいただいていたんです。蜷川さんは10年くらい構想を温めてきたそうなので、それほど思い入れの強い作品に携われたことはうれしかったです。撮影は2020年のコロナ禍に行われたので、私にとっては1度目の緊急事態宣言が明けてから初めての作品になりました。

想像もしなかったことが目の前に現れた――。映画『ホリック xxxHOLiC』出演。玉城ティナの14歳の選択
蜷川実花監督作品のミューズである玉城ティナが、女性漫画家集団CLAMPの伝説的コミックを実写映画化した『ホリック xxxHOLiC』に出演。ツインテールがキュートなひまわり役を「普段の10倍明るく演じた」という。俳優だけでなく近年は監督にも挑戦するほか、小説も執筆する多才な彼女の“表現すること”への意外なスタンス、そして俳優として愛してやまない映画スターについて聞いた。
シリーズ:私が愛した映画スター
蜷川さんは自己肯定感を上げてくれる人

©2022映画「ホリック」製作委員会 ©CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社
『ホリック xxxHOLiC』でひまわり役に扮した玉城さん
――CLAMPさんの原作『XXXHOLiC』は知っていましたか?
もちろん有名な作品であることは知っていましたが、読んだことはなかったです。出演が決まってから読みましたが、まず最初の感想は「頭身がやばい」でした(笑)。ひまわりは10頭身ぐらいあるので、ビジュアルを完全に再現するのはムリだなって思いました。原作をそのままトレースしないのが蜷川作品の良さですしね。
――演じる上で監督からのリクエストは?
今まで演じた中で一番明るいキャラクターだったので、蜷川さんからは「普段のティナの10倍明るく、10倍かわいらしく」と言われました。私自身が暗いというわけではなく、普段は無理をしないスタンスなので(笑)。原作のひまわりのかわいらしさを壊したくないと思いましたし、そこは意識しましたね。ひまわりは人に言えない悲しい秘密を抱えているキャラクター。そのことを取り繕ってわざと明るく見せている部分もあるので、不自然なくらいキュルンと演じました。

――具体的にはどうやって?
直線的に立たずに体のラインにウェーブをつけたり、至近距離で人の顔を覗き込んだり。あとは声のトーンをいつもより上げました。完成した作品を見たときはちょっと恥ずかしかったけれど、今回はCGがたくさん使われていて、演じているときには想像するしかない部分も多かったので、でき上がった映像を見て「あっ、すごいな!」と思いました。
――監督はどんな方ですか?
蜷川さんは下の世代のがんばっている人たちにエールを送ってくれる方ですね。私たちの関係性は、『ホリック xxxHOLiC』で神木(隆之介)さんと柴咲(コウ)さんが演じられた四月一日(わたぬき)と侑子の関係にすごく似ているかもしれません。
まだ地元の沖縄に住んでいた14歳の頃に、蜷川さんが編集長を務める『Mgirl』という雑誌で撮影をしていただきました。その頃からずっと自分のことを見てくれている人がいるということはすごくうれしいです。
約2年前に私を『Diner ダイナー』のヒロインに抜擢してくださったのですが、そのことは蜷川さんにとって大きな決断だったと思うんです。もちろん、配給会社にとっても(笑)。私の見えない可能性を信じてくださったことは自信につながりました。
――監督から刺激を受けたことは?
プライベートでも相談をすることがあるのですが、一度も「こうしたほうがいいよ」と言われたことがないんです。「そのままでいいんじゃない」と、無理に人を変えようとしないところが素敵だし、自己肯定感を上げてくれる。相談できる年上の女性が今までいなかったので、東京のお姉さんみたいな存在です。
この世界に飛び込んだことは、運命を変える大きな選択だった
――劇中で四月一日は「選択することで変えられる運命がある」ことを侑子に教わります。玉城さんはモデルとして活動をスタートさせてから今年で10年ですが、これまでのキャリアで運命を変えた選択はありましたか?
14歳のときにこのお仕事についたことが大きな選択だったと思います。そしてデビューしてまだ1年くらいの早い段階で上京すると決めたこともそう。いいことばかりではなかったけれど、運命が変わった大きな選択ではありましたね。
――その選択はご自身でされたものですか?
そうです。もちろん未成年だったので親の許可はもらいましたけど、決断は自分でしました。「やりたいんだったらやってみたら?」と意外にも反対されなくて。理解のある家族でよかったです。

――玉城さんが何かを選択をするときのルールは?
10代の頃と今とでは全然違いますね。昔は自分ひとりで決めていましたが、今はもっとほかの人の意見を聞くようになりました。ひとりで全部抱え込んでいてもなかなか決断できないことは、ほかの人に分けて聞いてもらおうみたいな、軽やかさが出てきた気がします。そうやって人の意見に耳を傾けることで選択を変えることもありますしね。精神的な余裕が生まれたのかもしれません。

――プライベートでは大変な読書家で、随筆や短編小説も執筆しています。2021年には『アクターズ・ショート・フィルム2』の短編『物語』で監督と脚本も務められました。今後新たにチャレンジしたいことはありますか?
それがわからなくて(笑)。私は資格も持っていないし、大学にも行っていないので、自分の中にあるものを引き出すしかない。それしかできないと思いながらやっています。ただ、表現したいことが溢れ出るみたいなタイプではないんです。例えば監督のお仕事も「どうですか?」とお話をいただいたことから始まった企画。このお仕事を始めたことを含め、いつも自分が想像していなかったことが目の前にポンッと現れる感覚なんです。周りの方たちが作り出す準備をしてくれているからこそ、表現することができている気がします。
――では、今のお仕事を何が何でも続けたいと思っているわけではない?
はい(笑)。お仕事をやめて沖縄に帰ってもいいって思ってます。東京にずっといたい気持ちもそんなにないので、沖縄の家をリフォームして住むのもいいかも。基本、流れに身を任せるタイプなんです。だからこそ言い訳をせず、「いつやめても大丈夫」と言えるように全力でお仕事をしたいと思っています。
――俳優として活動する玉城さんが憧れる、映画スターは?
同世代で言ったら、エル・ファニングです。彼女の方が1歳下ですけど、あれだけ多くの映画監督に愛される俳優はほかにいないと思うんです。2019年には史上最年少の21歳でカンヌ国際映画祭の審査員を務めましたし、彼女に対する周囲の信頼度はすごいなって思います。もちろん演技も好きです。『マレフィセント』(2014)のような作り込まれたキャラクターを演じる彼女も好きですし、『20センチュリー・ウーマン』(2016)みたいに自然体な彼女もやっぱりかわいい。

――同世代として意識する存在ということですか?
いやもう、意識なんてできる立場じゃないです(笑)。こんなすごい同世代がいるんだっていう驚きですね。世界は広いなって思いますし、改めて自分の小ささを知るみたいなところはあるかもしれないです。距離が遠いからこそ興味を惹かれるし、手の届かない憧れの存在として純粋に「好き」と言えるのかもしれないですね。

ロイター/アフロ
2019年、カンヌ国際映画祭でのエル・ファニング

PictureLux/アフロ
『マレフィセント』ではオーロラ姫を演じた
――日本の俳優で好きな方は?
若尾文子さんです。昔の女優さんって、顔がはっきりしている方が多い気がして。自分にちょっと近い部分を感じるし、マネしたいなと思わされるんです。特に若尾さんは動きに特徴があるというか。『しとやかな獣』(1962)で階段を上っていくシーンがすごく特徴的なんです。着物だからかもしれませんが、その姿が妖艶で。目を引く存在感のある方だと思うし、私も妖艶な役のオファーが来たらコピーしたいなと思っているくらい、すごく好きです。

『ホリック xxxHOLiC』(2022)上映時間:1時間50分/日本
人の心の闇に寄り憑く“アヤカシ”が見える孤独な高校生の四月一日(神木隆之介)は、その能力を捨てて普通の生活を送りたいと願っていた。そんなある日、一羽の蝶に導かれ、不思議な“ミセ”にたどり着く。彼の願いを叶える対価として、一番大切なものを差し出すよう囁く女主人の侑子(柴咲コウ)。同級生の百目鬼(松村北斗)やひまわり(玉城ティナ)と出会い、大切なものを探す四月一日に、アヤカシの魔の手が迫っていた……。
●4月29日(金)より全国公開
(C)2022映画「ホリック」製作委員会 (C)CLAMP・ShigatsuTsuitachi CO.,LTD./講談社
玉城ティナ●たましろ てぃな
1997年10月8日生まれ、沖縄県出身。2012年にスカウトされモデルデビュー。2014年には『ダークシステム 恋の王座決定戦』で初のドラマ出演を果たし、2015年には『天の茶助』で映画デビューを果たした。主な出演作は『暗黒女子』(17)、『わたしに××しなさい!』(18)、『Diner ダイナー』(19)、『惡の華』(19)、『地獄少女』(19)。『極主夫道 ザ・シネマ』が6月3日公開。
ブラウス ¥199,100 パンツ ¥162,800共にLANVIN (コロネット / 03-5216-6518) リング 左手 ¥132,000 リング 右手 ¥26,400 ブレスレット ¥682,000 全て GIGI (ホワイトオフィス / 03-5545-5164)
ヘアメイク/今井貴子 スタイリスト/鈴木麻由 撮影/石田壮一 取材・文/松山梢
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