
【漫画あり】リゾートバイト漬けの日々から、20代後半で漫画家に転身。“ゆるいけど本格派”なアウトドアコメディ漫画『やまさん〜山小屋三姉妹〜』ができるまで
三姉妹が経営をする山小屋「雲海小屋」を舞台とした本格派アウトドアコメディ漫画『やまさん〜山小屋三姉妹』(「となりのヤングジャンプ」にて連載中)の単行本1巻が、2月17日(金)に発売。作者・坂盛(さかもり)氏に、そのユニークすぎるバックグラウンドや同作品に込めた想いを聞いた。
『やまさん』作者インタビュー#1
リゾートバイトやアウトドアの仕事→漫画家へ
––現在連載中の『やまさん 〜山小屋三姉妹〜』という作品に迫る前に、坂盛先生が漫画を描き始めたきっかけを教えてください。
実は、もともと漫画家になるつもりはまったくなかったんです。高校を卒業したあとは、百貨店勤務を経て、リゾートバイトに打ち込んでいました。漫画を描き始めるのは、それから数年経った後です。
––漫画家としては、かなりユニークな経歴ですよね。リゾートバイトでは、どのような仕事をしていたのでしょうか?
たとえば、夏は沖縄で民宿のお手伝いをしたり、冬は東北や北海道のスキー場で働いたり…いろいろな場所で働きました。とにかく楽しかったですし、普段出会えないような人たちがたくさんいて、毎日が刺激的でした。
––『やまさん 〜山小屋三姉妹〜』を筆頭に、週刊ヤングジャンプ月例新人漫画賞 シンマン賞92回佳作+初投稿賞 (2021年2月期)を受賞した『Lingering Snow』など、アウトドアアクティビティに焦点を当てた作品が多いのは、そういった背景があるのですね。
『Lingering Snow』で描いたスノーボードも、リゾートバイトがきっかけで始めたんです。どっぷりハマって自分で滑るだけじゃ気が済まなくなり、インストラクターの資格をとって教える側になったり、もっとディープなことをしたくてゲレンデのパトロールをするバイトをしたりもしました。
––先生の作品にはアウトドアアクティビティの楽しさはもちろん、厳しさも描かれていますが、そういった経験が活かされているのでしょうか。
私自身、楽しみながらさまざまなアクティビティを経験してきましたが、同時に自然の厳しさも感じていました。それは、そこで出会ってきた人たちも同じです。だから、そういったテーマを題材にするのであれば、登場人物たちも同じ考えを持っているべきだし、そういう側面も描かなければいけないなと常に思っています。

週刊ヤングジャンプ月例新人漫画賞 シンマン賞92回佳作+初投稿賞 (2021年2月期)を受賞した『Lingering Snow』(https://tonarinoyj.jp/episode/3269754496367542213)
初めて描いた作品で漫画賞を受賞
––その後、どういった経緯で漫画家を目指すことになるのでしょうか。
思い立ったのは、北海道にある競走馬の育成牧場で働いていた頃ですね。
––馬のトレーニングまで!
いろいろと経験していくうちに、その道のプロフェッショナルと仕事をするようなことも出てきていました。馬のトレーニングについても、働いているうちにたくさんのトレーニング法を勉強したくなって…。
––その経験が、どのように漫画家への転機になるのでしょうか。
実は、体調を崩してしまったんです。腰を痛めて乗馬もできなくなり、これまで学んできたことがすべて無駄になってしまうのではないか、と恐ろしくなりました。そこで、自分の経験を形に残す方法はないものかと考えたんです。
––それが漫画だったと。
はい。リゾート地での仕事で出会った人の中には海外の方も多く、その中には日本の漫画を愛する人もたくさんいました。その人たちが口々に「日本の漫画は本当にすごい!」って言っていたのを思い出したんです。
––とはいえ、漫画を描いた経験はまったくなかったんですよね。
はい。しかも当時は20代後半で、かなり遅いスタートでした。でも、今まで出会った人たちから「思い立ったらやらないと」という精神を学んでいたので、動き始めることができたんですよね。

––最初に描き上げたのはどんな作品ですか?
自分の経験を活かしつつ、好きなものをとにかくぶちまけた馬の漫画です。投稿した漫画賞で「下手だけど熱いものを感じる」という寸評と賞をいただきました。
––初投稿作が受賞というのは、とてもすごいことですよね。
受賞の連絡を受けたときは、「うわぁー!」と喜びと驚きが入り混じった感覚でした。描きたいものを描いて、それが通じたのがとてもうれしかったですね。でも雑誌に載ったカットを見て、冷静に下手な絵だなあとも思いましたね(笑)。
「山小屋」を主題とした理由
––その後、連載を目指して作品づくりに取り組んでいったのでしょうか。
そうですね。でもすぐには上手くいかず、仕事をしながら新しい作品を描く生活をしていました。そのタイミングでラフティングに出会い、そこで出会った人たちをモデルに描いたのが前作『童貞カヤッカーカケル』(竹書房)です。これは、ラフティングガイドの仕事と並行して執筆していました。
––多忙な毎日ですね。
ページ数の少ない連載だったので、なんとかこなせました。同作が2巻で完結したあとは、ラフティングを自分の進む道にしようかな、なんて思っていましたが、コロナ禍でインバウンド需要が激減してリゾートバイトの仕事がなくなってしまったんです。
––そこで、また漫画制作を始めた、と。
はい。仕事がなくなり、昔書いた漫画を整理していたら「面白いのがあるぞ!」って自分の作品ながら思ったんです。そして、これを誰かに見てほしいなという感情も湧いてきました。それが『Lingering Snow』という作品です。
––『Lingering Snow』や『童貞カヤッカーカケル』など、これまで坂盛先生は“プレイヤー”の側面から作品を描かれてきました。一方、『やまさん〜山小屋三姉妹〜』では山小屋をテーマにしたのはなぜでしょうか。
山をテーマに決めたとき、なるべく読者に身近なものを描きたいと思ったんです。
山を登る人って、そもそもかなり限られているじゃないですか。その時点で、身近なものをテーマにするのは難しい。しかも、私自身がもう山での生活を深く知っていたので、これから山に登ろうと思う人の気持ちがイメージしづらいというのもありました。実際に登山客が主人公のネームも作ったのですが、やっぱりしっくりこなくて…。
その点、山小屋目線ならリアルに描けましたし、その生活を描くことで読者にもより身近なものになるだろうと。
––たしかに『やまさん〜山小屋三姉妹〜』で描かれる三姉妹(沢子、稜、華歩)の“生活感”は、山に登らない筆者にもすごく魅力的に映りました。
そう言っていただけると、うれしいです。その3人のキャラクターを作るのには非常に苦労したので。

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文・インタビュー/鳥山徳斗
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