2001年は『千と千尋の神隠し』が、興行収入316億円という日本の映画史最高の記録を樹立した。だが、2位以降は『A.I.』『パール・ハーバー』『ジュラシック・パークIII』が続いており、洋画も好調である。(すべて2001年製作)
そのなかで、「ロードショー」が推していたのは『パール・ハーバー』で、9月号ではベン・アフレックを表紙に初登場させている。アフレックといえば、親友マット・デイモンと脚本を共同執筆し、共演した『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』(1997)でブレイク。『アルマゲドン』(1998)に大抜擢され、主演俳優の仲間入りを果たした。『アルマゲドン』の製作チームによる『パール・ハーバー』で人気は頂点に達したものの、その後、人気を落としていく。『ジーリ』(2003)や『デアデビル』(2003)が酷評されたのに加えて、共演したグウィネス・パルトロウやジェニファー・ロペスと浮名を流したり、アルコール依存症に陥ったりと、タブロイド紙を賑わせたためだ。

A級スター入りしたアンジェリーナ・ジョリーが指し示した新たな方向。21世紀が始まるも変わらず元気なハリウッド映画界で、さまざまに多様化していくスターの生き方
20世紀初頭、映画スターはスタジオ専属で、そのイメージと行動は厳しく制限されていた。俳優が自分の意志や志向で役柄や人生を選べるようになるまでにかかった時間は約100年。21世紀に入り、大作映画の主演ふたりの対照的なキャリアと、女優のオピニオンリーダー誕生を見ていく。
ロードショーCOVER TALK #2001
『パール・ハーバー』の主演ふたりの対照的な人生

最初で最後のベン・アフレック表紙
©ロードショー2001年9月号/集英社
だが、その後も地道に活動を続け、バットマンを演じたり、監督作『アルゴ』(2012)がアカデミー作品賞ほか3部門を受賞するなど、人生を立て直した。キャリアの浮き沈みや私生活でのトラブルはあるものの、昨年はついにJLoと結婚、生き馬の目を抜くハリウッドで監督兼俳優として活躍している。
対象的なのが、『パール・ハーバー』で共演したジョシュ・ハートネットだ。ティーンホラーの『パラサイト』(1998)、ソフィア・コッポラ監督の『ヴァージン・スーサイズ』(1999)を経て、『パール・ハーバー』に出演。目利き能力の高さで定評のあるロードショーも「最新のいい男たち」(6月号)「注目の2大スター」(9月)と取り上げ、来日時には追っかけ密着取材を敢行、ホテルの部屋を臨時のスタジオにしたてて撮りためた写真で、7月には『ジョシュ・ハートネット写真集-戦士の休息ー』を刊行、ディカプリオ並みのスターに育てる意気込みだった。
が、その後、『ブラックホーク・ダウン』(2001)『恋する40 days』(2002)『ハリウッド的殺人事件』(2003)などを経て、徐々に出演作が減っていく。「もっともホットな俳優になるための競争にはぜったいに参加したくない」と、2004年、ハートネットは英ChronicleLiveの取材でその理由を明らかにしている。「あの世界がどういうものかわかっている。ぼくも数年いたからだ。居心地が悪かった。トップ俳優の立場に留まろうとするのは、不幸への近道だと思う」。
「オフの日はひとりでギターをつま弾いたり、詩を読んですごす」と語っていたジョシュには、現在のように、気に入ったインディーズ映画やTVにときどき出演する境遇があっているのかもしれない。
信念をもった女優という新しいアイコン
興行ランキングトップ10には入っていないものの、『トゥームレイダー』(2001)はいくつかの点においてエポックメイキングな作品だ。

特集でも『トゥームレイダー』を大フィーチャー
©ロードショー2001年10月号
本作が公開されるまで、女性が主人公のアクション大作が製作されることはまれだった。アクション映画を見るのは男性観客が大半だとか、男性観客は男性のヒーローに共感するのに対し、女性観客もまた男性のヒーローに憧れを抱くものだという通説がまかり通っていたためで、人気ゲームの映画化とはいえ、『トゥームレイダー』はかなりリスクのある作品だった。作品としての質はイマイチだが、それなりの商業的成功を収めなければ、『ハンガー・ゲーム』(2012~)シリーズや『ワンダーウーマン』(2017~)シリーズは誕生しなかっただろう。
ふたつめは新鋭アンジェリーナ・ジョリーの起用だ。『ジア 裸のスーパーモデル』(1998)の演技が話題となり、『ボーン・コレクター』(1999)『17歳のカルテ』(1999)『60セカンズ』(2000)などで注目を集めていったが、そもそもは俳優ジョン・ヴォイトを父に持つ不良娘。2000~2003年に結婚していた2番目の夫ビリー・ボブ・ソーントンとは互いの血液を身につけるなどの奇行も報じられていた。当時はまだキャサリン・ゼタ=ジョンズやアシュレー・ジャドなどのほうが大物で、アンジーの主演抜擢は、製作会社にとってはリスキーな選択だった。
3つめは、『トゥームレイダー』の撮影でカンボジアを訪れたことがきっかけで、アンジェリーナ・ジョリーが人道問題に興味を持つようになったことだ。2001年にはUNHCRの親善大使に任命され、以来、難民支援や慈善活動を行っている。先に挙げたベン・アフレックやジョシュ・ハートネットと異なり、名声に振り回されることなく、むしろそれをボランティア活動に繋げている点もユニークだ。
また、2002年にはそのカンボジアから男児を養子に迎え、以後、実子含めて6人の子供を育てる大家族ママとなっていく。
本作をきっかけに、アンジェリーナ・ジョリーは美貌や演技力のみならず、信念をもった女優として絶大な支持を集めていくことになるのだ。その生き方は、後日恋におちるブラッド・ピットにも大きな影響を与えていくことになるのだが…それはまた別のお話。
◆表紙リスト◆
1月号/レオナルド・ディカプリオ 2月号/ナタリー・ポートマン 3月号/アンジェリーナ・ジョリー※初登場 4月号/キアヌ・リーヴス 5月号/キャメロン・ディアス 6月号/ブラッド・ピット&ジュリア・ロバーツ 7月号/トム・クルーズ 8月号/シャーリーズ・セロン 9月号/ベン・アフレック※初登場 10月号/アンジェリーナ・ジョリー 11月号/キアヌ・リーヴス 12月号/ジョニー・デップ
表紙クレジット ©ロードショー2001年/集英社
ロードショー COVER TALK
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