問題の回答よりも
自分で考える道具を手にできる一冊

 現在は未来と繫がっている。
 私たちの行動は、それが何気ないものであったとしてもすぐ近くにある自分自身の将来に影響するのみならず、子孫や近くにいる人々を通じて遠い未来まで波及する。とはいえ、私たち一人一人にそう大きな影響力があるわけではない。さらに言えば、私たちは大抵現在のことについて考えていて、未来にわたる影響について考えることはまれだ。長年にわたる国家の政策や環境問題など、多くの人間が関わる事象や数十年、数百年と続く難題に個人の力で出来ることなどごくわずかなのだから、そうなるのも自然なことである。
 しかし、だからと言って全く考えなくて良いということはないだろう。私たちの属している共同体の、そして係累の未来を慮る心があるならば、少しでも未来の問題を少なくしたいと考えるのは当然である。
 では、私たちか私たちの子どもたち、ひいてはその子孫、あるいは国や世界がいつか直面しなければならないような問題についてどう考えれば良いのだろうか?
 本書はそういった問題について倫理学的側面からアプローチしている。
 と言っても、哲学や倫理学の専門的な知識が必要とされるような専門書でもなく、逆に全くの空想的な未来を描くような楽しい書物の類でもない。
「未来倫理」について一から考察を始め、倫理学について初見の読者でも読んで楽しめる、それでいてしっかりと現代において予測される未来の問題に取り組んでいる、実に考えさせられる一冊なのである。
 本書を読み終わったとき、読者のあなたが手にしているかもしれないものはただの問題に関する回答ではなく、未来を考えるための手掛かりであり道具だろう。
 未来をどう切り開いていくかは、まさに私たちの問題でもある。本書はその手助けをする一冊となるに違いない。

未来倫理
著者:戸谷 洋志
問題の解答よりも自分で考える道具を手にできる一冊 戸谷洋志『未来倫理』を糸谷哲郎さんが読む_1
2023年1月17日発売
1,034円(税込)
新書判/240ページ
ISBN:978-4-08-721248-8
私たちの行動はいま生きている世代に限らず、遠い未来にまで影響を与えることがある。
テクノロジーの発達によってもたらされた行為と結果の大きな時間差は、私たちの社会に倫理的な課題を次々投げかける。
気候変動、放射性廃棄物の処理、生殖細胞へのゲノム編集……。
現在世代は未来世代に対して倫理的な責任があるのならば、この責任をどのように考え、どのように実践したらよいのか。
倫理学の各理論を手掛かりに、専門家任せにせず私たちが自らの考えを形作るための一冊。
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