前編はこちら

――本書の重要なテーマとして、「インターネット」や「SNS」が挙げられると思います。栗城さんはネットでの活発な発信や、動画での登山中継などで話題を集めて「異色の登山家」とも呼ばれました。本作では、そうした栗城さんのネットとの関係性についても克明に描かれています。著者である河野さんご自身は、ネットやSNSとはどのように付き合っているのでしょうか。

河野 実は、この本が発売されてからネットは一切見ないようにしているんですよ。

――えっ、ネットを見ていない。

河野 そうなんです(笑)。一つ感想を読んでしまうと、また次の感想という風に、気になってどんどん読んでしまうだろうなあ、振り回されてしまうだろうなあと思ったんですね。

執筆中にはむしろネットの情報を毎日、それこそ探るように、溺れるように見ていました。「ネット登山家」とまで呼ばれた栗城さんの足跡は、ネット情報を見ないと辿れない部分がかなりあったので。

ただ、今回の本が発表されてからは一切見ないようにしています。勤務している北海道放送の同僚から、直接「面白かった」と言われたりとか、あるいは取材対象者の方から手紙が寄せられたりすることはありますが、ネットで自ら感想を探すことはありません。

ネットとは「孤独」の世界である 『デス・ゾーン』著者・河野啓氏インタビュー【後編】_1
『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』著者・河野啓氏
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やっぱり栗城さんの人生を辿っていたら、ネットという場が怖くなった、ということが大きいですね。それに前編でも触れましたが、僕ごとき無名のテレビマンのブログにさえ、相当すごいコメントが来たことがありますから。

これを一つ一つまともに受け止めて、咀(そ)嚼(しゃく)しようとしていたら身も心も持たないな、と感じたので見ないようにしています。何を言われても動じないぞ、と言えるほど強い男でもないので。

ただ、決して色々なご意見を無視しようとしているということではありません。執筆中には本書が世に出ることで向けられるであろう、あらゆる批判を覚悟したうえで書こうと決意を持って取り組んだのは事実です。

この話に関連することで、朝日新聞の北海道版にも寄稿したんですけれども、僕は今回の原稿を書きながら、ときどきその書く手を止めながら行っていた「作業」があるんです。

――どんな「作業」でしょうか?

河野 自分自身を思いつく限りの言葉で罵倒していたんですよね。