愛人とラブホテルで覚せい剤・大麻所持で逮捕。すべてを失った高知東生が、依存症回復途中の今、人生でいちばん楽に生きられている理由
2016年6月、ラブホテルで不倫相手の女性と覚醒剤、大麻を所持した疑いで現行犯逮捕された高知東生さん(58歳)。逮捕後、虚実交じりの報道に晒されて絶望の淵に立っていた高知さんを救ったものとは何だったのか?(全3回の3回目)
「男は信じた人のために尽くすんや」それは間違いでした。

――そして2016年6月、覚せい剤と大麻の所持で現行犯逮捕されます。
しかもラブホテルで愛人と一緒に。完全にスリーアウトですよ。散々報道もされましたけど、踏み込んで来たマトリ(麻薬取締官)に思わず「来てくれてありがとうございます」と言ったのは、これでやっと終わる、と思ったからです。
薬物をやっているときは、薬物にも、一緒にやっていた相手にも依存していたんです。まさに共犯関係というか。人間関係が絡んでしまったからこそ、お互いに「もうやめよう」って言えなくなるんですよ。
――その後、執行猶予期間を経て、ご自身の中ではどんな変化がありましたか。
何もかも変わりましたよ。それまでは義理・人情・筋・ケジメだけで生きてきましたから。幼い頃からその世界しか知らなかったんです。
小さい頃の記憶として、俺のことを可愛がってくれていた組の人が、あるときヒットマンとしてカチコミに行って、帰らぬ人になったんです。そのとき母親は、「男は信じた人のために尽くすんや」って、さらっと言いました。それを俺も信じ込んでたんですね。だから自分が大きくなって、仲間に助けを求められたときには、事情も聞かずに助けたし。
でもそれは間違ってました。ヤクザの世界では常識でも、一般社会では通じないことが多々あります。それをカタギのくせにかっこつけて真似してね。
母親の死の真相を知ったことが転機に

――そこから少しずつ回復の道を歩みはじめて。
自助グループに通いながら、カウンセリングや通院もしましたけど、俺を一番楽にしてくれたのは、母親の死の理由らしきものにたどり着けたことです。
依存症からの回復するための12ステップというのがあって、その中に過去と向き合うことが大切っていうのがあるんです。それで2年くらい前に、YouTubeも一緒にやっている「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんと地元の高知に行ったんです。その時の話は小説『土竜』にも書きました。
改めて自分のルーツを調べるために、役所で戸籍を調べたりしてたんだけど、なかなか手がかりは見つからなくて。半ば諦めながら、田中さんが桂浜水族館に行きたいっていうのでたまたま行ったら、そこで母親と一番仲が良かったという人に声をかけられまして。
キャバレーに勤めていた頃の同僚だっていう人に。50年越しに運命の出会いですよ。
後日また高知に行って、その方に話を聞いたら、母親は俺のことが大好きで、俺の自慢話ばっかりしてたって。侠客の愛人で、シングルマザーで、かなり厳しい環境の中だったけど、とにかく一生懸命やっていたって。でも、ある時期から博打にハマって、だいぶ借金を抱えていたらしいんです。
そこで初めて、母親が自殺した理由がわかった気がしたんです。保険金で借金をチャラにしようとしたんじゃないかって。俺に借金を被らせないように。これまでずっと、母親は俺を捨てて自殺したと思っていたのに、真実は俺を守るためだった。もちろん、そんなやり方は間違っているし、俺は生きていてほしかったけどね。
子供の頃から大人たちに振り回されて、誰にも本当のことを教えられず、母親にも見捨てられ、そういった自分の境遇を力に変えていくしかないと思って死ぬ気でやってきました。孤独や寂しさ、恨みもあったけど、そのぶん成り上がってやるって。
でも本当は、俺は母親に愛されていたんだなと気づけたんです。
そのことを56歳になって初めて知って、心の底から安堵しました。
メディア報道への違和感からTwitterを開設

――メディアの報道については、どんなことを思っていますか。
逮捕されたあと、2年間くらいはずっと死にたいと思ってましたよ。メディアはないことないこと書くし。あることないことじゃないよ、ないことないことだから。でも自分には反論する手段もないし、気持ちも最低まで落ち込んでるし、執行猶予中で身動きもとれないし。それでTwitterをはじめたんです。
当事者としてつくづく思うのは、マスコミは正しい知識を持たないまま、自分たちのストーリーにあわせて依存症の人たちを扱うんです。逮捕されたあとに出演したテレビ番組では、打ち合わせの段階では回復に向けたステップについて話す予定だったのに、本番の直前になって急に「深刻な顔でお願いします」「反省している感じで」って。
しかもテロップで「薬物の恐ろしさ」みたいな言葉がでるわけですよ。もうインタビューでも何でもなく、芝居をつけられるんです。
ある雑誌のインタビューでは、俺は一言もそんなこと言ってないのに、記事の原稿を読むと、締めに「元妻のことを今でも愛している」って書かれていた。一体何がどうなるのか、わけがわからない。あまりにも無責任で、間違いだらけ。
でもTwitterなら誰の演出もやらせも入らない。肩の力を抜いて、ありのままを、そのまま発信できる。だから最初に言ったように、Twitterは自分のためにやっているだけで、誰かに何かを教えようとか、いいこと言ってやろうとか、そういう考えは一切ないんです。
――それでも、たくさんの人が高知さんの投稿に共感や学びを得ていますよ。
俺ほど男社会に染まりまくって、何でも根性論で、虚勢を張りまくってきた人間はいないですからね。それが今では、男とか女とか、年上とか年下とか、まったく関係ないってことが分かった。一人の人間として向き合う、相手のことを認める、それだけ。生きているだけで努力してるんだから、リスペクトしかない。そういうことがわかってから、今はすっごい楽。肩の力、抜けまくりですよ。
今が人生でいちばん楽に生きている

――薬物に限らず、甘い誘惑がやって来たとき、どうシャットアウトすればいいと思いますか?
シャットアウトするというより、ありのままの自分で接すればいいんですよ。シャットアウトって、その姿勢がもう、肩に力入ってるでしょ。薬物をすすめてくる人がいたら、「カウンセリング行きますか?」「一緒に警察行きましょうか?」って言えばいいんです。

2020年、厚生労働省が主催する「依存症の理解を深めるための普及啓発イベント」にて。国立精神・神経医療研究センター薬物依存症センター長の松本俊彦さん、元NHKアナウンサーの塚本堅一さん、元プロ野球選手の清原和博さん、歌手で俳優の杉田あきひろさん、俳優の高知東生さん、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さん
――最後に、リカバリーカルチャー(依存症から立ち直ること)についても、聞かせてください。
自分なりの償いとして、僕の役割は正しい知識を広めることだと思っています。過ちを犯した人が、どういうプロセスを経て、己と向き合い、回復のステップを歩んでいるのか。それをできるだけ丁寧に伝えたいですね。多様性を認めること、古い価値観をアップデートすること、それも回復のプロセスなんです。
僕の場合、天涯孤独だったことが、かえってよかったと言われます。誰にも頼れないからこそ、自助グループに頼るしかなかった。依存症に完治はありません。いつまで経っても回復の途中なんです。
こんなにすべてを失った人間が、講演してくださいって言われたり、小説を書いてくださいって言われたり、インタビューさせてくださいって言われたり、もう感謝しかない。
ありのまま正直に生きるって、すっごい楽ですよ。
取材・文/おぐらりゅうじ 撮影/高木陽春
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