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妻の言い分をちょっとしか描きませんでした

友人の告白をきっかけに、本書(『今朝もあの子の夢を見た』)の着想を得た野原氏だが、「最初はこの企画が通るとは思っていなかった」という。

「触れてはいけないタブーなのかな、と思ったりして。連載がスタートしてからも、読者にも私と同じように興味を持ってもらえるかな、と心配もしました」

だが心配は杞憂に終わり、連載中、読者からは多くの反応があった。

「なかには切々と自身の置かれている苦しい状況を訴えてくるお父さんからのメッセージもありました。連載の途中で読み、胸が苦しくなりましたね。その後の展開を読んだら、この方はどう感じるだろうか、と悩みました。でも、一番傷ついて、苦しんでいるのは子ども。知人の話を参考にして、そこはブレずに描きましたね」

意外にも、子どもに会わせていない側の親からの声は、野原氏にはまったく届かなかったそうだ。

「届かないということは触れてほしくないのだろうな、と思いました。それもあって、この作品では妻の言い分をちょっとしか描きませんでした」

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〈漫画第2話無料公開〉「もう2度と漫画を描くことはないと思っていた」家族を描く野原広子が、“2番目に描くのが苦しかった作品”とその理由_1
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本作に限らず、第25回手塚治虫文化賞短編賞を受賞した前作『妻が口をきいてくれません』『消えたママ友』なども含め、家族や友人といった身近な人間関係の悲喜こもごもを描いてきたが、激しい感情を激しくは描かず、静かに、淡々と描いてきた。
そこが野原作品の魅力で、傷ついている人にとっては優しく感じられ、かつ心をつかまれ、揺さぶられる。

「私自身がもともと激しい感情が苦手。ハラハラ、ドキドキも苦手で、サッカーW杯も見られませんでした。好きなのはお料理番組とか(笑)。作品の勉強のために、激しいドラマとかをご覧になる作家の方はすごいなあと思います」

人物や背景などを、あまり描きこまない素朴な絵も、優しく感じられて読みやすい。

「しっかり描きこんだ漫画を描いていらっしゃる先生方には怒られるんじゃないか」と語るが、野原氏の絵はシンプルながらも繊細で、じつに表情豊かに描き分けられている。

「コピー用紙に0.28ミリ芯のボールペンで描き、スキャンして取り込み、データ化しています。本当は最初からiPadで描けばいいのでしょうが、編集の方が『このガタガタな線がいいんですよ』と言ってくださるので、お言葉に甘えていまだに紙に手描きです(笑)。
以前は、子どもたちが学校に行っている間や夜に描き、子どもたちが独立した今は、お昼頃に起きて、こたつに入ってYouTubeを見ながら、描いて休んで……の繰り返しですね」