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夫婦の激しい闘いの物語を避けて、
優しい本にしたかった

『今朝もあの子の夢を見た』はスーパー勤務の42歳、バツイチのタカシが、10年前に離婚後、まったく会えていない1人娘・さくらを思って悩み苦しむストーリー。その思いが、同じスーパーに転職してきた30歳、独身の真美の目を通して少しずつ明かされていく。タカシの寂しさ、悲しさがじわじわとしみてきて、涙なしには読めない1冊だ。

「物語のはじめに『俺は怒ってるんだ!』『悲しんでるんだ!』と大きな声で主張するところから入っちゃうと、読者に引かれちゃうと思ったので、最初はタカシと真美のラブストーリーになるのかな、と思わせて、じょじょにポロッ、ポロッ、とタカシの思いをほどいていく手法をとりました。その出し方を調整するのが難しかったですね」

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執筆前にもちろんプロットは立てる。しかし本書は描きながら、同じ悩みを抱える当事者を気遣い、展開を迷い、悩んだ。集英社ノンフィクション編集部公式サイト「よみタイ」に2022年1月から10月まで連載され、ラスト3話を加筆・修正して出版されたものだが、連載中、後半に向けて物語は大きく変わっていったという。

「描き進めていくうちに、最初に用意したプロットでは違う、と思ったのです。結局、妻側の言い分は少ししか描きませんでした。最初はもっと描こうと思っていたのですが、テーマを深掘りしていくうちに、タカシの悲しい気持ちを自分の中に吸い込みすぎちゃって、妻側の言い分を力を入れて描くと夫婦の激しい闘いの物語になっちゃうなあ、と思って。それは避けたかった。
激しくならないよう押さえて、押さえて、難しいことは削って、削って、優しい本にしたつもりです」