もうひと月ほど前になりますが、2022年3月16日に福島県沖地震が起きました。真夜中の大地震で、その直後からSNSに「3.11を思い出した」「震災の時よりも激しく揺れた」というような書き込みが相次ぎました。
また東日本大震災級の地震がきたのか? それとも同地震の余震か? などと不安に思った人も少なくなかったでしょう。
あの大震災の「余震」はどこへ消えたのか? 福島県沖地震から学べること
このところ日本列島で大型地震が頻発している。ひと月ほど前の3月16日にもM7.4の福島県沖地震が起き、「また震災か」と肝を冷やした人も多かったのではないか。大地震はいつ起こるかわからないが、その前に備えられることはある。元東京新聞科学部記者の井上能行氏がレポートする
阪神・淡路大震災以上の地震エネルギー

11年前の東日本大震災では、宮城県栗原市で震度7、福島、宮城、茨城、栃木の各県で最大震度6強を記録しました。津波と激しい揺れに襲われて、死者は19,759人、行方不明者は2,553人。住宅の全壊は122,006棟に及びました(令和4年3月1日現在、消防庁のまとめより)。東日本大震災の教訓は、今年3月の福島県沖地震に生かされたのでしょうか。
地震活動にはいくつかのパターンがあり、①本震-余震型 ②前震-本震-余震型 ③群発地震型、に大別できます。
①は最初に大地震が発生し、その後、大地震よりも規模の小さい地震が繰り返し起きます。大地震を「本震」、小さい地震を「余震」と呼びます。②は①の前に本震よりも小さな地震(前震)が起きるケースです。③は一連の地震活動の中で相対的に大きな地震がなく、地震活動が一定期間続くものです。
もちろん地震活動が終わってみないと、どれが本震かは分かりません。大きな地震が起きたので①と思っていたら、その後、もっと大きな地震が起きることがあります。東日本大震災の際も3月11日の本震の2日前、3月9日にM7.3の前震が起きています。
震災後、岩手県沖、茨城県沖、福島県いわき市、三陸沖、宮城県沖などで2012年末までM7クラスの余震が続きました。その後は福島県沖で2013年、2014年、2016年、2021年、そして2022年の今回とM7クラスの地震が続いています。
3月の福島県沖地震はM7.4でした。東日本大震災の地震のM9.0に比べると、地震のエネルギーは250分の1くらいです。1995年に起きた阪神・淡路大震災はM7.3でしたから、3月の福島県沖地震のエネルギーはこれより大きかったことになります。
それでも阪神・淡路大震災の死者は6,000人を超え、家屋の全壊は10万棟を超えました。これに対して3月の福島県沖地震では死者3人、全壊家屋もごくわずかでした。
阪神大震災では古い木造住宅の倒壊で多くの犠牲者を出しましたが、あれから25年余。国内では地震に強い住宅が増え、犠牲者を減らすのに貢献したといえます。
発電所の大型化や集中立地のリスク
3月の福島県沖地震では東北新幹線を走行中の「やまびこ」が宮城県で脱線しましたが、死者は出ませんでした。新幹線は早期地震検知システムによって自動的に急停止する仕組みができています。
この地震では、M7.4の本震の直前にM6.1の地震(前震)が起きていました。新幹線は前震で急ブレーキが働き、本震の揺れが来たときには停車していました。そういう幸運もあって、安全神話は守られました。
高速道路は地震翌日に東北道、翌々日に常磐道が通行止めを解除しました。ガスは大きなトラブルの報告が見当たりません。阪神・淡路大震災時と比較すれば、ライフラインの防災対策は大変な進歩です。
しかし、この地震により東京電力管内で地震直後に約210万戸が停電しました。これは地震の影響で運転を停止した発電所の発電量に見合う分の電力消費を抑えるためです。全域が停電するようなブラックアウトを防ぐために、予防的に停電させられる地域が出たということです。復旧は早く、3時間ほどでほぼ全域の停電が解消しました。
さらに地震から1週間近く経った22日、東京電力・東北電力管内において初めての電力需給ひっ迫警報が発令されました。この警報は東日本大震災を教訓に2012年に作られたのですが、実際に発令されたのは今回が初めてでした。
理由は21日夜の段階で、翌22日は寒いうえに雨で太陽光発電が利用できない見通しになったからです。発表が遅かったため、企業などが対応する時間的余裕はありませんでした。それでも東京電力は、北海道電力、中部電力など4社から最大約100万キロワットの電力融通を受け、計画停電をせずに乗り切りました。電力融通の仕組みも東日本大震災後、強化されたものの一つです。
あやふやな「余震」の定義
ここまでは良い話をしてきましたが、問題がなかったわけではありません。私が気づいた課題を3つ挙げます。
1つ目は新幹線です。乗客の命を守ったのは評価できますが、東北新幹線の全線運転再開まで約一カ月もかかった点には課題が残りました。宮城県白石市の高架橋梁はひどく亀裂が入りましたが、こうならないよう安全な設計が望まれます。
また、安全性を高めるには、脱線を防ぐことも必要でしょう。新幹線はお互い乗り入れているのに脱線防止の仕組みはJR各社で統一されていません。これで大丈夫なのでしょうか。
2つ目は電力です。ブラックアウトを防ぐためとはいえ、約210万戸が地震と同時に停電するのは、単に不便なだけでなく、地震の被害を拡大させる要因にもなりかねません。
東日本大震災では、首都圏に電力を供給する発電所が福島県に集中していたために供給力が大幅に下がり、それが計画停電につながりました。発電所の大型化や集中立地が大規模災害に弱いことが教訓として活かされていなかったのです。
今回も、基本的には福島県内の火力発電所の被害が原因でした。中には、1基で100万キロワットの石炭火力発電所もありました。皮肉なことに、これは今回、東京電力が他社から供給してもらった電力の総量とほぼ同じです。大型化はコストを下げる一方で、リスクを高めるのです。
3つ目は「余震」についての科学的な議論がないことです。3月の福島県沖地震はM7.4で、これがもし、11年前の東日本大震災の余震だとすると、一連の中で最大級のものでした。しかし、気象庁は余震とはしていません。
東京新聞(2022年3月17日)によると、気象庁は「大震災から10年が過ぎ『個々の地震が余震かどうかの判断が難しくなった』『余震かどうかに関係なく、大地震や津波に備えてほしい』などの理由」から「『余震と考えられる』との表記をやめた」というのです。
3月の地震は昨年2月13日に起きた福島県沖地震(M7.3)とほぼ同じ場所が震源でしたが、昨年は「余震と考えられる」と発表していました。
また、NHK(2022年3月17日)は、東北大学災害科学国際研究所の先生が「今回の地震は昨年の地震の余震活動だと分析した」と報道しました。ただ、昨年よりも今年の地震の方がマグニチュードが大きいので、余震というのは不自然な説明です。ちなみに同研究所は、昨年の福島県沖地震は東日本大震災の余震と発表しています。
昨年の地震の後には「余震は100年続く」と言う専門家もいました。それからわずか1年で各専門家の見解、発表が様変わりしています。皮肉な見方をすれば、昨年3月、政府が「最後の追悼式典」を開いたので、余震も10年一区切りと、専門家が判断したのでしょうか。
一方、政府の地震調査研究推進本部は4月11日、3月の地震について「東日本大震災の余震域で起きた地震で、今後も大きな地震に注意が必要」と発表しました。筋の通った説明ですが、これは、気象庁の考え方に異議を唱えているのでしょうか。
ぜひ、専門家の間で「今回の地震は余震なのか」「余震活動は昨年で終わったのか」を議論して、国民が納得する説明をしていただきたいものです。
写真/共同通信社
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