2020年頃から被害に関する相談が急増しているという「国際ロマンス詐欺」。マッチングアプリや出会い系サイトを使った詐欺など、さまざまな手口による被害者が後を絶たないという。そこで今回は、詐欺被害者救済に尽力する齋藤健博弁護士に、国際ロマンス詐欺の代表的な手口や、被害事例について伺った。
——国際ロマンス詐欺には様々な手口があると聞きますが、具体的にどんな被害相談が多いのでしょうか?
齋藤 典型的な手口は「交際相手にお金を貸したら連絡が取れなくなった」「資産運用を委託したら、元本すら返してもらえなかった」というパターンです。水商売に従事する外国人女性が、「お店を辞めるためにはお金が必要なの」と男性にお金を無心して送金させるケースも多い。
また、水商売で働く外国人男性が20代後半の日本人女性に「店側へ違約金を支払わなければならなくなったから、100万円を貸して欲しい」と頼んだという案件もありました。ところが、この日本人女性が、男性が所属していたとする店に問い合わせをしたところ、そもそも店すら存在しなかったといいます。
被害者の属性でいうと、夜のお仕事をなさっている方が多い印象ですが、意外なところでは資力のある方、たとえば女医なども少なくありません。忙しいこともあり、親密な関係にある方には簡単にお金を融通してしまうケースが多いようです。性別でいうと、私の体感では国際ロマンス詐欺に関する相談者のうち約8割が女性ですね。
【令和最新版】仮想通貨まで悪用する欺瞞の恋愛「国際ロマンス詐欺」の手口大全
インターネット上の交流サイトなどで知り合った海外の異性を言葉巧みに騙し、恋人になったかのように振舞って金銭を送金させる「国際ロマンス詐欺」の被害が後を絶たない。その代表的な手口やリアルな被害事例とは?
女性が国際ロマンス詐欺にひっかかる理由

——恋愛感情や結婚に対する焦燥につけこむ詐欺も多いと聞きます。
齋藤 頻繁に見られるのは「日本までの旅費が必要」「外国人妻と分かれるためにお金が必要」といった理由で送金させるパターンです。当事務所でもタイにいる詐欺師が日本の被害者に対し「日本に入国するためのビザを取得するためにお金が必要」といって送金を求めた事例を担当しました。
最近ではアメリカに留学する予定の20代の女性が、現地に留学していると名乗る日本人男性に300万円を騙し取られた案件がありました。女性がアメリカ留学にあたり、アプリで友達を探していたところ、その男性と出会ったそうです。
男性が「すでに留学しているから、アメリカでの暮らしに必要な生活雑貨などを購入しておくよ」と言うので女性が総額300万円を送金したのですが、男性の滞在先があやふやでどうも様子がおかしい。
その時点で当事務所にご依頼いただきました。女性は男性の携帯電話の番号を知っていたので、すぐさま「弁護士会照会」という手続きで携帯電話の名義人を割り出すと、なんと日本在住であることが判明。男性は「アメリカに留学している」といいながら、関東に住んでいたのです。
私が男性の自宅を訪れたところ、騙した男性ではなく、実家のご両親が300万円を立て替えました。詐欺師の家族に賠償の義務はありませんが、事情を話したところ支払いに応じてくださいました。
「詐欺師が動きやすい社会」に
——コロナ禍の影響で詐欺事件の件数は増えているのでしょうか?
齋藤 法務省発表の「令和3年 犯罪白書」によると、詐欺の認知件数自体は減少しているものの、それでも令和2年の詐欺事件の認知件数は3万468件ですから、日本中で1日に100件近い詐欺事件が認知されていることになります。
しかも犯罪白書の「詐欺」には、詐欺の構成要件を満たしていないものや、詐欺と似通った形の窃盗や横領は含まれていません。くわえて警察に届け出られていない詐欺事件や、被害届が受理されなかったような事件も存在しますので、実際には犯罪白書よりもさらに多くの詐欺事件が発生していると考えられます。
――最近では仮想通貨を用いた詐欺も増えているとききます。
斎藤 詐欺師は時代の移り変わりにあわせてその手口を変えていますが、仮想通貨の登場によって、国際取引のハードルが極めて低くなりました。仮想通貨は従来の銀行を用いた送金よりも早く、匿名で海外に資産を送金できます。これは詐欺師にとって非常に都合のいい仕組みですし、「詐欺師が動きやすい社会になった」ともいえます。
さらに詐欺師にとって追い風になるのが、騙されるターゲットの多くが、仮想通貨に対して正しい知識を有していない点です。「資産運用代行」などといって仮想通貨を送金させる手口が多く見受けられます。
――いまだにコロナ禍にかこつけた詐欺被害なども多いですか?
斎藤 給付金詐欺はその典型ですよね。また国際ロマンス詐欺でも、「コロナで店の経営がうまくいかなくて」というように、コロナ禍を巧みに利用したものが多いです。
コロナ以前であれば、加害者がお金を無心する理由を考える必要がありました。しかしコロナ禍によって、お金を無心する理由が「コロナだから」で済むわけです。
昔から、社会が不安定になるときは詐欺が発生しやすいといわれています。例えば今後はウクライナ国民を騙って仮想通貨の送金を求めるような事件が発生するかもしれません。大変に悪質で許されない犯罪だと思います。

——国際ロマンス詐欺の被害に遭った場合、どのように対処すればよいでしょうか?
齋藤 まずはお金のやりとりがあったことを示す証拠を集めておきましょう。銀行振込や仮想通貨による送金であれば、その履歴を保存しておきます。「お金を貸して欲しい」「貸したお金を返して」といったチャットやメールのやりとりも必要です。また詐欺師の本名や携帯電話番号など、本人特定に繋がる情報も掴んでおいてほしいですね。
国際ロマンス詐欺は恋愛関係を装っていますので、被害者が「騙された」と気づいた時点ではまだ、詐欺師との繋がりが切れていないケースも少なくありません。したがって相手の情報を聞き出すことも不可能ではないでしょう。
まずは詐欺の被害者弁護に注力している弁護士に相談してみてください。「詐欺で失ったお金は返ってこない」と諦めている方もいらっしゃいますが、加害者に繋がる情報があれば解決できる道筋はあります。
取材・文/平林 亮子
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