謎のベトナム語書店現る

埼玉県のちょうど真ん中に位置する坂戸市。人口10万人足らずの失礼ながらとりわけ特徴もないこの小さな町に、どういうわけだかベトナム語の書店がある。

東部東上線・北坂戸駅の東口、集合住宅が建て込む一角、「Macaw(英語でインコの意) Bookstore」と書かれた扉を開けると、ほのかに漂う木の香り。ウッディでおしゃれにまとめられた店内は、ちょうどコンビニくらいの広さだろうか。ずらりと並んでいるのは、どれもベトナム語の書籍だ。

「2021年4月にオープンしたので、ちょうど1年になりますね」

と語るのは店主のゴ・ゴック・カンさん(27)。彼の案内で店内を見て回ると、子供向けの絵本から、ファンタジー小説や欧米の作品をベトナム語に翻訳したもの、日本語学習の参考書、料理のレシピ本などなど実に多種多様な本がある。

埼玉にある謎の「ベトナム語書店」が人気なワケ_a
ちょっとした読書スペースもあり、おしゃれなカフェのような店内

「いちばん人気の本はコレですね」

『cây cam ngọt』という作品で、ブラジルの国民的作家ジョゼ・マウロ・デ・ヴァスコンセロス氏による自伝的な小説だ(邦題「ぼくのオレンジの木」)。世界的にヒットした作品だが、ベトナム語にも訳され、広く読まれているそうだ。

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 ベトナム人に人気があるというブラジル人作家の書いた自伝小説

日本の作家の翻訳本も発見した。吉本ばななさん、東野圭吾さんの作品がいくつも並ぶ。

「ベトナムではとくに村上春樹さんが人気なんですよ」

と、『IQ84』『海辺のカフカ』のベトナム語版を見せてくれた。