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※以下、MCU作品のネタバレ要素を含みます。未鑑賞の方は十分に注意してください。
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2019年4月に公開された映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』は、人気ヒーローたちの死亡や引退などにより、衝撃をもって迎えられた。以降、MCUではサノスの“指パッチン”により「世界の半分の人口が一度は消滅し、ヒーローたちの活躍により5年の時を超えて戻ってきた」という混乱した社会状況が前提になる。
そしてMCU内の時系列で続いた映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019年7月公開)では、マルチバース、すなわち複数の並行世界の存在が示唆された。
実際には、これは原作では当たり前の概念を逆手に取った、本作のヴィラン(悪役)であるミステリオの“トリック”だったわけだが––––。ここまでがフェーズ3のできごとだ。
そして、この3つの要素、つまり「有名ヒーローたちの死亡・引退による不在」「人口の半分の消滅と帰還」「マルチバース」が、フェーズ4を鑑賞する上でのヒントになる。
フェーズ4のスタートを飾ったのは、2021年1月に「Disney+」で配信が開始されたドラマシリーズである『ワンダヴィジョン』だ。これ以前のドラマシリーズは、メインストーリーに登場したキャラクターが出演していても、MCU基準世界の正史としてはされておらず、このシリーズからメインのストーリーラインに絡みだす。

最新作『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』で完結。混沌とする「MCU」フェーズ4全作品のあらすじを一挙紹介!
11月11日より最新作『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の公開が開始された「マーベル・シネマティック・ユニバース」(以下、MCU)。30作目を数える本作に注目が集まるが、近年はドラマシリーズもストーリーラインに絡み、「追いきれていない」という人も多いのではないだろうか。そこで『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』でよりよいフェーズ4の見納めとしていただくべく、フェーズ4以降、約2年で実に18作品にも上るMCU作品を紹介する。第1回のテーマは、フェーズ3までの振り返りと、フェーズ4におけるMCUの大きな変化だ。
激動の「MCU」フェーズ4全作品解説(前編)
衝撃の展開後に始まったフェーズ4

『ワンダヴィジョン』ディズニープラスで配信中 ©2022 MARVEL
『ワンダヴィジョン』の舞台は『アベンジャーズ/エンドゲーム』後の世界。とある郊外の街に引っ越してきた、「スカーレット・ウィッチ」ことワンダ・マキシモフとヴィジョン。しかし、ここで観る者は次々と疑念に襲われる。
フェーズ3で死亡したはずのヴィジョンがなぜ生きているのか。そもそも、なぜ映像が白黒で、ワンダとヴィジョンは1960年代風のファッションに身を包んでいるのか。フェーズ3でまさに悲恋の運命となった二人だからこそ、この“幸せな日々”はあまりに不穏だ。
自分たちの目に見えているすべてが「真実ではないのでは」と疑い始める二人。このように、『ワンダヴィジョン』はミステリーの要素を孕んでいる。そして、辛い過去を抱える一方、実は屈指のパワーを秘めたワンダが、どんな方向性に覚醒するのか、というのが、今後のMCUを左右する重要な作品と言える。
ハードな社会問題を描いた作品も
そして、ここに2つのドラマシリーズが連なる。その一つが2021年3月配信の『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』だ。『アベンジャーズ/エンドゲーム』でキャプテン・アメリカ(スティーブ・ロジャース)から彼のヒーロー活動の象徴だった「盾」を受け継いだファルコン(サム)。
しかし、彼はその重責に悩み、一度は盾をその手から放すという選択をする。一方、「ウィンター・ソルジャー」ことバッキーは親友であるスティーブが託した想いをサムに受け継いでほしい。そんな二人が主人公の、いわゆる「バディもの」だ。
背景として描かれるのは、差別と分断、SNSといったリアル社会につながる問題だ。黒人であるサムが二代目の「キャプテン・アメリカ」になることへの反発、「サノスによる消滅〜帰還組の方が優遇されているのでは」という社会に渦巻く疑念、そしてSNSを起点に盛り上がるテロ組織–––––。
単なる善と悪の対立ではなく、一筋縄ではいかない問題に立ち向かう、新たなヒーロー像が描かれている。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』ディズニープラスで配信中 ©2022 MARVEL
そして『ロキ』(2021年6月配信開始)。タイトル通り、主人公は『アベンジャーズ』シリーズの敵でソーの義弟・ロキ。屈指の人気ヴィランが活躍するドラマシリーズだ。
これも『アベンジャーズ/エンドゲーム』を背景にしている。同作では“指パッチン”をなかったことにするためにヒーローたちが過去の世界を訪れるが、そのときに生じたトラブルに乗じて、ロキが四次元キューブを手に入れる姿が描かれた。
これにより時空を乗り越え、アベンジャーズの手から逃れることに成功したロキ。つまり、アベンジャーズのタイムトラベルにより、歴史が変わってしまう。分岐した世界、つまりマルチバースが生まれ、ここであらためてMCUにマルチバースの概念が取り入れられた。
つまり、並行世界には多数のロキがいる。このシリーズでは、女性のロキ(シルヴィ)、子どものロキ、初老のロキ、黒人のロキ、“ワニ”のロキまで登場。そして、世界の歴史を歪めたとして我々がよく知るロキを捕らえた“世界の時間を監視する”「TVA(時間変異取締局)」という謎の組織が登場する。
こちらも最終的には「世界の歴史」にまつわる謎を巡る、壮大なストーリーになる。また、シーズン2の制作決定も発表されている。

『ロキ』ディズニープラスで配信中 ©2022 MARVEL
マルチバースという意味では、2021年8月配信開始のマーベル・スタジオ初のアニメ作品『ホワット・イフ...?』もMCUの中で異彩を放つ。
ここで描かれるのは「もしも」の世界。アベンジャーズのヒーローたちに、われわれが観てきた歴史では起こらなかった展開が訪れたら……そしてこれらのエピソードはただの「もしも」ではなく、MCUの各マルチバースで起きた出来事というのがポイントだ。
また、本作は2020年に惜しまれつつも命を落としたブラックパンサー/ティ・チャラ役チャドウィック・ボーズマンが、『ホワット・イフ...?』に登場したティ・チャラ役を最後に演じたことでも話題となった。

『ホワット・イフ…?』ディズニープラスで配信中 ©2022 MARVEL
2021年中盤に待望の映画作品が公開
公開順としては、これらドラマシリーズの後になるのが、『ブラック・ウィドウ』(2021年7月)。ここで初めてフェーズ4に映画作品が登場する。ただし、MCU内の時系列としては、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016年5月)の直後の出来事を描いている点には注意しなければならない。
本作ではアベンジャーズの創設メンバーでMCU作品における20年選手である女性スパイ「ブラック・ウィドウ」ことナターシャ・ロマノフの謎に包まれた過去が明らかになる。
フェーズ3まで鑑賞が済んでいれば周知の事実だが、ナターシャは『エンドゲーム』で命を落としている。今後のMCUにつながるのは、ポストクレジットシーンのみ。ナターシャの“妹”であるエレーナが、今後ホークアイ関連でストーリーに絡むことが示唆される。

『ブラック・ウィドウ』ディズニープラスで配信中 ©2022 MARVEL
これに対して、映画作品でひさしぶりにヒーローが新登場するのが『シャン・チー/テン・リングス』(2021年9月)だ。原作では「マスター・オブ・カンフー」として知られる、アジア系ヒーローが活躍する。
サンフランシスコで平凡なホテルマンとして暮らすシャン・チーは、かつて父が率いる犯罪組織で最強の武術を身につけ、組織の後継者になるはずだった。そんな過去から逃げ出したシャンだが、その父が伝説の腕輪「テン・リングス」により世界を脅かす。
これまでのMCUとは趣の異なるアクションと、家族の物語。ただし、その後シャンはMCU作品に登場しておらず、今後のMCU全体のストーリーラインへの関わりはまだ不明だ。
このように、マルチバースの登場により、やや複雑になることが予想されたMCU。社会問題を描くなど、ただのヒーロー映画に止まらず、深みを増した一方で、映画作品『ブラック・ウィドウ』『シャン・チー』では人物紹介に終始した感がある。
世界観が大きく揺さぶられるのは、フェーズ4中盤のことだ。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』ディズニープラスで配信中 ©2022MARVEL
文/あまのなお

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』(2022)
■監督:ライアン・クーグラー
■製作:ケヴィン・ファイギ
■出演:レティ―シャ・ライト 他
©Marvel Studios 2022
ヒーロー映画として異例のアカデミー賞®3冠、作品賞も初ノミネートを果たし、全世界で社会現象となった「ブラックパンサー」の待望の続編。
国王とヒーロー、2つの顔を持つティ・チャラを失ったワカンダ国に海の帝国の脅威が迫る。
ティ・チャラの妹であり天才科学者のシュリたちは、この危機にどう立ち向かうのか。
そして、新たな希望となるブラックパンサーを受け継ぐ者は誰なのか…。
未来を切りひらく者たちの熱き戦いを描いた、ドラマチック・アクション超大作が始まる。
11月11日(金)全国劇場公開
公式HPはこちら
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