硬貨を入れてレバーを回すと、玩具や雑貨などの入ったカプセルが出てくる「ガチャガチャ」。
子どもだけではなく大人をも虜にし、全国で一大ブームを巻き起こしている。なぜ、令和の時代にガチャガチャが再燃しているのだろうか。
「今はガチャガチャの『第四次ブーム』と言われているのですが、これはコロナが広まり始めた2020年頃からスタートしました。
ガチャガチャは非接触だし、台を置くだけで販売できるので、コロナにより潰れた飲食店やアパレル店の跡地に専門店を出しやすい。販売形態がコロナ禍に適していたんですよ。ここ1~2年で、150店舗以上のガチャガチャ専門店がオープンしました」(おまつ氏・以下同)
加えて、大人向けのガチャガチャが増加したことも、市場規模の拡大に影響を与えているそう。
「セーラームーンなど、大人世代をターゲットにしたガチャガチャが増えています。フィギュアメーカーのKenelephant(ケンエレファント)は、『ケンエレスタンド』という大人向けのガチャガチャ専門店を新橋と秋葉原に作りました。
内装はシックな雰囲気で、店内にジャズまで流れている(笑)。大人は自分のお金で好きなだけガチャガチャを回せますから、ガチャガチャの売り上げに大きく貢献していると考えられます」

市場規模が400億円超えの要因は “ペンが置けるネコ”!? ガチャガチャ第四次ブームの裏側
全国各地に専門店が続々と登場し、市場が右肩上がりに拡大しているガチャガチャ。SNSでも大きな盛り上がりを見せているが、なぜ今、再び話題になっているのか。ガチャガチャ評論家のおまつさんに、ブームの裏側や今後の行方などについて詳しく話をうかがった。
ガチャガチャの販売形態がコロナ禍に合致!


平成女子の憧れ「セーラームーン」グッズ
ガチャガチャブームの歴史とは
コロナの蔓延や、大人向け商品の台頭により訪れた「第四次ブーム」だが、そもそも、第一次から第三次ブームはどのようなものだったのか。
「第一次ブームは、1965年。アメリカからガチャガチャの機械を輸入し、浅草に第一号が置かれたところから始まりました。最初の景品はスーパーカーやアイドルを模した消しゴムで、一回10~20円程度。子どもがお菓子と一緒に買うようなものでしたね」

第二次ブームは、高度経済成長期を経た1983年。ここで、あの「キン消し」が登場する。
「キン消し以降、景品にカラーバリエーションがつき、ガチャガチャにコレクション性が生まれました。キン消しはこれまでに1億8千万個売れていて、日本人が1人に1個持っている計算になります」
この頃から価格は一回100円に。値段は大きく跳ね上がったものの、これ以降、景品のクオリティはどんどん高まっていく。

ガチャガチャ第二次ブームを作った「キン消し」
「第三次ブームは結構とんで、2012年。ちょうどTwitterが出始めた頃で、『コップのフチ子』がSNSから話題になり、大人もガチャガチャを楽しむようになったのが特徴的でした。『こんなに集めたんだ。すごいでしょ?』とフォロワーにアピールして承認欲求を満たすアイテムとして、SNSと相性がよかったのです」

キュートな姿がオトナ女子の心を掴んだ「コップのフチ子」
第四次ブームにも通ずる“大人向けガチャガチャ”の広まり。「コップのフチ子」しかり、当時は特にオトナ女子向けの商品が流行っていたそうで。
「バンダイは、2016年に『Brilliant Capsule(ブリリアントカプセル)』というオトナ女子向けの売り場を作っています。期間限定ではありましたが、大人向けガチャガチャ専門店の先駆けと言えるでしょう。内装をおしゃれにしたり、しゃがまなくてもいいように台を高くするなど、女性のために色々な工夫がなされていました」
令和の人気ガチャガチャは、アニメ、ねこ、ぬいぐるみ?
ガチャガチャのブームには「キン消し」「コップのフチ子」など、火付け役となるヒット商品が必要不可欠な存在だということがわかった。では、今の第四次ブームはいったい何が人気の象徴なのか。
「2020年は『鬼滅の刃』ブームに伴い、ガチャガチャの市場規模が300億円から400億円に急拡大しました。オリジナルだと、最近のヒット商品は、『ねこのペンおき』ですね。
ガチャガチャは10万個売れたらヒットと言われるのですが、これは100万個売れた大ヒット商品です。業界全体の傾向だと、最近はぬいぐるみが流行ってますね。カプセルにぎゅうぎゅうに詰められていて、開けた瞬間に『ぽんっ』と出てくるのが魅力です」

「ねこのペンおき」はサザエさんのタマをモチーフにしているそう

お皿に乗せて飾っても可愛い! 「居酒屋のぬいぐるみ」
ユニークなオリジナル商品が生み出される背景について、おまつ氏は次のように語る。
「普通、商品開発をするときって市場調査を行うじゃないですか。でも、オリジナルのガチャガチャはマーケティングを一切行わないんです。制作者が日常の中で“面白い”と思ったものを表現し、自分の感覚を信じて商品化している。作り手のほとばしる熱い思いによって生み出されているんですね」
ガチャガチャの利益構造と、ブームの行く末
年々、進化を続けるガチャガチャ。一回数百円という安さでクオリティの高い景品が手に入るが、メーカー側に利益は出ているのだろうか?
「実際、利益度外視で制作している景品は多いですね。トイズスピリッツが出しているこのドラゴンなんて、23箇所も可動するんですよ。普通のガチャガチャの景品は2~3箇所くらいしか動かないですから、とんでもないですよね。
とはいえどこのメーカーも商品の回転は早いので、採算度外視のグッズを作ったとしても、次に出す商品でコストを抑えれば赤字は回避できます。
だからこそ、ガチャガチャは“一期一会”。次々に新しい商品が出て、売れなかったらすぐに台を入れ替えられてしまう。見つけた瞬間に回さないと、そのガチャガチャとは二度と出会えないかもしれないのです」

ガチャガチャの景品の域を超えている、23箇所可動のドラゴン
現在では、毎月累計で300~350種類の新商品が誕生しているという。この一大ガチャガチャブームは、どこに向かっていくのだろうか。
「最近は、さまざまな企業がガチャガチャに目をつけ始めています。筐体を置くスペースさえ確保できれば低コストで商品を販売できるので、企業や観光協会のPRには打ってつけなのです。旅ガチャ、ホテルガチャ、文化の継承を目的にしたガチャなども登場しています。今では、本物の九谷焼の箸置きが景品になっていたりするんですよ」

九谷焼がひとつ500円で手に入る。お土産にもぴったり
さらに、ガチャガチャは“ご当地ネタ”とも相性がいいそう。各地域の名産物をキーホルダー化した「街ガチャ」は、非常に売れ行きが好調なのだとか。
「『船橋ガチャ』なんていうのがあるんですけど、船橋駅構内の待ち合わせ場所になっている『さざんかさっちゃん』像が景品になっているんです。
そんなの、船橋市民以外は誰も知りませんよね(笑)。でもそのニッチさがウケており、船橋市以外からもたくさんの人が回しに来ているようです。今後は、地域の活性化にガチャガチャが大きく寄与していくでしょう」
メーカーの熱い思いと、ファンの愛にあふれるガチャガチャ。まだまだ続きそうな第四次ブームから、今後も目が離せない。

取材・文/渡辺ありさ
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