――事前の打ち合わせにて、新刊を扱う書店チェーンのうち店舗分布に差が出そうなものとして「BOOKOFF」「丸善ジュンク堂書店」「ヴィレッジヴァンガード」「文教堂」の4つをピックアップしました。重永さんが東京周辺での分布地図を作成してくれたので、まずはこの図の第一印象から話を始めていきたいと思います。
重永 この地図つくってはみたんですけど、解釈難しいなーって思っていて。ぼくは京都出身で東京の土地勘がないのもあって、ぱっと見て「面白い!」とはならなかったです。
でも明らかに店ごとに傾向が分かれてはいますよね。全般的に網羅するBOOKOFF、都心に集まる丸善ジュンク堂……みたいな。文教堂はこれだけでは特徴が掴みづらいですが。
谷頭さんは第一印象どんな感じでしたか?
BOOKOFFとヤマダデンキはほぼ同じ店舗数。店舗の分布に潜む各チェーンの本質とは
チェーン店の本質は扱っているモノやサービスよりも、店舗の分布にこそ現れる。BOOKOFFと丸善ジュンク堂の違いは何なのか? 地図ライターの重永瞬氏とライターの谷頭和希氏が、地図とデータを通して探る。
地図とデータで語る書店チェーン 前編

東京都心周辺の書店チェーン
谷頭 まず驚いたのがBOOKOFFの網羅率ですね。すべての地域にBOOKOFFがあるんだなって。
逆に丸善ジュンク堂と文教堂は「こんなにないんだ」って思いました。都市部に集中してるということはなんとなく認識してたけど、BOOKOFFと見比べるとこんなに差があるんですね。
文教堂は何なんでしょうね、国道沿いってわけではないですよね。どこかしらの沿線沿いにつくっている感じもある。
重永 じゃあちょっと鉄道を重ねてみてみましょうか。

東京都心周辺の書店チェーン + 鉄道
谷頭 おおっ、すごい!
重永 ありがとうございます。事前準備がちょっと大変ですが……(笑)
文教堂って自分はそもそもあんまり馴染みがなくて……。文教堂って結構行きますか?
谷頭 意識して行くことはそんなにないですね。
神奈川の川崎に一号店ができて、田園都市線沿いに店舗を増やしてたみたいです。私鉄の乗換駅と親和性が高いのもその流れでしょうか。
ぼくはずっと東京に住んでいますけど、これまで田園都市線ってほとんど使ったことがなくて……。文教堂にあまり馴染みがないのも納得ですね。
東京以外の地域では
重永 こういったお店への馴染み方って、普段使ってる路線に規定されるところがありますよね。駅ナカの売店が路線ごとに違ったり。最近は大手コンビニに変わったりもしていますが。
ちょっと関西の方を見てみると、文教堂って京都には1軒もないんですよね。

大阪周辺の書店チェーン
谷頭 なるほどなるほど。ほとんどないですね。
重永 京都は文教堂に限らず、この4つのチェーンはどれも少ないですね 。
BOOKOFFですら中心市街の北の方にはない。京都では既存の古本屋さんが強いからでしょうか。

九州の書店チェーン
重永 九州のあたりは文教堂は1軒もないですね。
谷頭 逆にヴィレヴァンは結構ある。
重永 BOOKOFFも他の県と比べるとそんなになさそう。
谷頭 ヴィレヴァンはショッピングモールのテナントとして入っていることが多いんですよね。多分それで全国に散らばっているんだと思います。
あとは他の新刊書店と比べるとかなり個性が強くて、根強い「ヴィレヴァンファン」がいますよね。それで「ぜひウチの街にもヴィレヴァンを!」となることが多いんでしょうね。
重永 ヴィレヴァンは自分も結構思い入れがあります。昔のバイト先から家に帰る途中の乗換駅にあって、なおかつ深夜まで開いていたのでよく寄っていました。
谷頭 夜遅くまでやっているの、大事ですよね。
BOOKOFFは「文化のインフラ」である
谷頭 こうして東京以外の地域を見てみても、BOOKOFFは網羅率がすごいですね。
BOOKOFFって最近文化的な側面から見直されつつある存在で、自分も東洋経済オンラインで『ブックオフで生きてきた』という連載をしているんですが、「BOOKOFFがあったから自分の文化的素養ができました」っていう人たちがたくさんいるんですよね。本だけじゃなく音楽や映画もBOOKOFFで摂取したんだ、という話が多い。
こうやって可視化されたのを見ると、そりゃそうなるってなりますね。インフラですよね、もはや。
それと先ほど鉄道の話がありましたけど、BOOKOFFはもともと国道16号線沿いに一号店があって、そもそもが車ユーザー向けの店舗を展開していたんですよね。
鉄道路線と書店の分布を重ねた図で見てみると、まったくどこの鉄道沿線でもない店が結構ある。それは、こうした「車志向」を顕著に表しているでしょうし、逆に日本全国に潜伏していた「車ユーザー」が利用したからこそ、「文化のインフラ」になったともいえます。
家電量販店と比較すると?
谷頭 こうして可視化してもらったものを見ると、自分が感覚的に把握してるものとズレてる部分もあって面白いですね。
重永 感覚とのズレでいうと、個人的に電気屋、家電量販店はすごいギャップを感じます。電気屋っていうとぼくはまずヨドバシカメラが思い浮かぶんですけど 、全然少ないんですよね。たったの24店舗(※)。
※店舗数はロケスマWEB(https://www.locationsmart.org/#shopping_kaden)を参照。以下同様。
谷頭 24店舗しかないんですか!?
重永 三大都市圏+αぐらいにしかないですね。
一番店舗が多いヤマダデンキは779なので、30倍ぐらいの差がある。ヤマダデンキの分布を見てみると……すごいですね、BOOKOFF並だ。
谷頭 ぱっと見た感じBOOKOFFと似てますね。
重永 店舗数はヤマダデンキの779に対してBOOKOFFは761なので、ほぼ一緒ですね。
知らなかった!ヤマダデンキとBOOKOFFの店舗数がだいたい同じとは……。
谷頭 これは発見ですね!!
後編ではBOOKOFFとヤマダデンキの分布の違いから始まり、それぞれの書店チェーンがどんな文化を担ってきたのかを探る。
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