今年は3年ぶりに大阪で「岸和田だんじり祭」が開催された。江戸時代中期にはじまり、今では大阪を代表するお祭りが行われる岸和田市がある大阪府南部には、珍しい名字を持つ方がたくさんおられる。
特徴的なのは、「谷」が付く名字が多いこと。「金物谷(かなものや)」「小間物谷(こまものや)」「指物谷(さしものや)」「大工谷(だいくや)」「塗師谷(ぬりしや)」「毛綿谷(もめんや)」「餅谷(もちや)」…と並べていくと、商売にちなんだ名字が多いことに気づかされる。江戸時代に「岸和田藩」だったこのあたりには岸和田城があり、城下町として大いに栄えた。街道沿いには商家が軒を連ねて「○○屋」の「屋」の部分を「谷」に変えて名字とした人が多かったことが、大阪南部に○谷さんが多い起源と言われている。
職種そのものズバリだけじゃなく、店の屋号から取ったと思われる名字も、非常に種類が多い。堺市には「泉谷(いずみや)」さんが多く、他にも「赤坂谷(あかさかや)」「朝代谷(あさしろや)」「兎田谷(うさいだや)」「河内谷(かわうちや)」「嘉祥寺谷(かしょうじや)」「田出谷(たでや)」などなど、書いていると「谷」が付く名字だけで原稿が終わってしまいそうなほど、たくさんあるのだ。

「鼻毛」「鯛」「東京」…実在する大阪の珍名の由来とは?
勇壮さで知られる『岸和田だんじり祭』が3年ぶりに開催され大いに盛り上がった大阪府岸和田市。この地に由来のある名字を『沸騰ワード10』(日テレ系)の超人気コーナー、「名字頂上決戦」でお馴染みの名字研究家・髙信幸男先生が、徹底解説!
大阪府南部が「谷」だらけの謎
「髭」が「鼻毛」になったワケ
もうひとつの特徴は、身体の部位の名字である。「目(さっか)」さんは職業由来で、古い時代の役人(国司)のお仕事をされていたことからつけた名字。顔の部分では「口(くち)」「鼻(はな)」「耳(みみ)」。「髭(ひげ)」さんもいて、これにまつわる話が興味深い。
ヒゲは口の上に生えていても、下に生えていても、どちらも「髭」と書く。ところが「髭」さんの中には、「うちのヒゲはあごヒゲやなくて、口の上のヒゲや!」という人がいて、髭(はなげ)と名乗っていたそうだ。しかし、それでは他の人からは「はなげ」とは読んでもらえないので、文字を「鼻毛」に変えたとのこと。以前、関西のテレビ番組で「鼻毛豊(はなげ・ゆたか)」さんという方を紹介したことがあるが、いやはや立派なお名前である。
「鼻毛」「鯛」「東京」……実在する大阪の珍名の由来とは?
首から下にいくと「指(さし)」「左手(さて)」「腰(こし)」「爪(つめ)」などなど、大阪府南部には全身の部位の名字を持つ方がが点在していて、堺市には「毛穴(けな)」という名字まで! どうしてこんなことになったのか解明したくて、お一人ずつ会いに行き、早く、謂われを調べたいと思っている。
さて、大阪府の北部のお話も少しだけ。大阪城から北には、魚の名前の名字の方が多い。「鯛(たい)」「鰯(いわし)」、「鱸(すずき)」「鰡(ぼら)」「蛤(はまぐり)」など、まるで魚屋の店先のよう。大阪は漁業もさかんだったことから付いた名字も多いと思われる。おそらく、大阪でとれた魚を大阪北部を通って京の都に運んでいたのではないだろうか。鯛の天ぷらを連想する「鯛天(たいてん)」という苗字も、鯛を天皇に献上したことが由来ではないかと思っている。
最後に、岸和田市のとっておき名字を。なんとその名は「東京(とうきょう)」さん! 以前、私が調べたときは岸和田市に1軒だったこの方は、もともと「江戸」という名字だった。何らかの理由で大阪に移り住み、明治維新で江戸は東京に。名字を届けることが義務化されたときに「東京」と改めたとのこと。
大阪の名字を眺めていると、商業の町として栄えてきたのだなと感じられるし、洒落好きで、持って回った表現よりもわかりやすさ重視なのかな、と思われる。
取材・文/工藤菊香 写真/共同通信
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