アニメ作品をより魅力的に見せるためには、巨匠の作品にも手を入れる

巨匠の作品にもダメだし!? 『AKIRA』『カウボーイビバップ』『ゴールデンカムイ』などを手がけたデザイナーに訊く、アニメ業界のせつない舞台裏_1
グラフィックデザイナー 上杉季明(うえすぎとしあき)氏
すべての画像を見る

――グラフィックデザイナーとはどんなお仕事なのでしょうか?

ロゴやポスター、DVD/BDのパッケージなどを作るのがグラフィックデザイナーの主な仕事です。

アニメのグラフィックデザインの場合、そのテーマとなる作品自体がそもそも視覚的な作品であるという特徴があるため、デザインの主役となるのは、必然的にキャラクターなどのイラストとなることが多いです。

また、アニメ関係者はビジュアルを扱うプロなので、デザインに要求するレベルも高いのですが、アニメ側の方もデザインのプロではないので、最終的なイメージはどこかモヤモヤしている。

そのモヤモヤにアイディアをプラスして具体化するのが僕らの仕事ですね。

―― 実際にデザインを作る際に最も気をつけていることは?

やっぱり、主役となるイラストなど作品に関するビジュアルが、最も素晴らしく見えるようにしたいということです。

例えば、メイン要素となるイラストをいただいたときも、スキャンした後にPhotoshopでホコリなどの細かいゴミ取りをしますし、他にも不要だと思う要素は徹底的に掃除したりして調整します。

マニアックなファンの中には「この色塗りのかすれがいい」とか「筆の毛が残っているのがいい」と思う人もいるのかもしれないですが、それについては「どこかの機会で原画を見てください」と思いながら修正しています。

もちろん細かい掃除だけでなく、事前にイラストの内容自体への提案も行いますし、上がってきたイラストのデッサンが狂っていたら、それも指摘します。

デザイナーとして、やっぱりそのイラストが最もよく見えて、作品のファンが増えたり喜んでくれたりするような仕事をしたいですから。

巨匠の作品にもダメだし!? 『AKIRA』『カウボーイビバップ』『ゴールデンカムイ』などを手がけたデザイナーに訊く、アニメ業界のせつない舞台裏_2

―― 上杉さんの作品集『THE MACH55GO WORKS 55x20』には、大友克洋さんが描き下ろした『AKIRA』のイラストにレタッチを加えていることが掲載されていて驚きました。

当時、あまりにもみんなが『AKIRA』ばかりを求めるので、大友さん自身『AKIRA』にあまり気持ちが乗っていなかったんですね。

そうした事情があって、ようやく上がってきたイラストを見て「僕が見たい金田じゃない」と思ってしまって。それで思い切って大友さんに「これいじっていいですか?」と聞いてみたんです。

―― 上杉さんの『AKIRA』に対する愛もあったわけですね。

すると、大友さんは「好きにしていいよ」と修正を快諾してくれました。そこで同期のクリエイター矢部弘幸くんに「これをカッコ良く直してほしい」と伝えて仕上げてもらいました。

もちろん大友さんにもお見せしましたが、「ああ、いいんじゃない」と言ってもらいましたよ(笑)。

―― 大友さんといえば巨匠中の巨匠ですし、普通はなかなか言い出せないところだと思います。

それまでに大友さんとの仕事を重ねて信頼を得ていたのが大きかったと思います。大友さんの線画に僕が色をつけて、その仕上げを矢部くんが行っていたこともありますから。

ちなみに彼はその後、大友さんが監督した『蟲師』に俳優としても出ていました(笑)。

巨匠の作品にもダメだし!? 『AKIRA』『カウボーイビバップ』『ゴールデンカムイ』などを手がけたデザイナーに訊く、アニメ業界のせつない舞台裏_3