――しょご先生は、現在のYouTubeやTwitterでの発信以外に、日本とオーストラリアそれぞれの学校で、性教育について指導をされたご経験があるのですよね。
「はい。以前、日本で教員として働いていました。現在はオーストラリアの高校で教員をしています」
――そんなしょご先生にお聞きしたいのですが、オーストラリア在住の日本人の方から「オーストラリアの保育園のトイレは、外から子どもが用を足しているのが見えて目のやり場に困る」お聞きしました。これって本当ですか?
「保育園ごとに違いがあると思いますが、僕が知っているところでは、大人が上から覗ける高さの扉がついているところが多いですね。(ライター注:中には、トイレの壁がガラス窓になっている園もあるらしい)」
――それはなぜなのでしょうか?
「一つは、単純にトイレトラブルへの対応です。小さな子どもは排泄に失敗してしまうこともありますから、そのようなときに、保育士が排泄の手伝いや片付けなどをすぐ対応できるようにという意図があります。
もう一つは、子どもの安全を守るという目的です。外部からの不審者というのもなくはありませんし、もし体に触れられていても、小さな子どもだと何をされているか自分では分からなかったりします。そう言った意味でも、大人がいつでも対応できるように可視化の工夫が施されています。
もちろん、他の子どもからは排泄しているところが見えにくいようになっていたり、保育園の外からは見えないようになっていたりと、配慮はされています。あくまで園内で保育士が子どもを管理できるように、壁がガラス窓になっていたり、大人が上から覗ける高さの扉にしたりしているのです」
――子どもの安全を確保するための設計なのですね。
「そうですね。あとは、保育士を守るという意図もあります」
なぜオーストラリアの保育園のトイレは「外から丸見え」なのか? 海外の性教育事情
「海外に行くとトイレの足元が見えて焦る」という経験をした人は多いのではないだろうか。オーストラリアの保育園では、足元が見えるどころかトイレが「外から丸見え」なのだそう。極めてプライベートな場所であるはずなのに一体なぜなのか。オーストラリア在住でYouTubeやTwitterで性教育についての発信を行う、しょご先生にその理由をうかがった。
オーストラリアの保育園のトイレが外から丸見えなのはなぜ?
大人(教師)だって守られるべきという意識
――保育士を守る、とは?
「オーストラリアでは、基本的に保育士(教師)と子どもが一対一の2人きりになることが禁止されています。性的虐待やセクハラが起こること、または実際はしていないにもかかわらずそれらを疑われることを防ぐためです。
そのため、幼児が用を足している時も保育士は外に立つように指導されています。
こういった『教師も守られるべき存在』という意識が、オーストラリアは高いと感じますね」
――『教師も守られるべき』という話は、日本ではあまり聞かないですね。
「そうかもしれませんね。ごく一部ですが、オーストラリアの高校などでは、わざと教室に教師と2人きりになって教師を嵌めようとする生徒もいます。実際僕もそういった罠にかかりそうになり、慌てて教室から飛び出したという経験があります。
このような事例があるからこそ、オーストラリアでは『教師を犯罪者にさせない』という意識が高いと感じます」

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子どもを守ることと、体の大切さを教えることは別
――しかし現在、「水着で隠れる部分は勝手に見たり触れたりしてはいけない」という指導が日本ではされていますよね。その観点から見ると、このトイレのシステムはどうなのだろうと思ってしまいます…。
「いわゆるプライベートパーツですよね。先ほども話したとおり、ほかの園児や外部からはトイレの中は見えないように工夫されていたり、実際に用を足している最中は外で待っていなければならないというルールがあったりします。
この場面では、子どもの安全を守ることと、子どもを尊重するのは別の話として考えなければいけないかもしれませんね」
――なるほど。確かにちょっと混同してしまいました。
「もちろん、そういう体を大事にするという趣旨の話は、日常の中で行われていますよ。保育園で保育士からも伝えるし、家庭でも子どもが興味をもったときに大人がしっかりと説明します」
――ちなみに、プライベートパーツについても保育園で教えるのですか?
「教え方のマニュアルが決まっているわけではありませんが、体のことについては保育園でも教えます。
そもそも、プライベートパーツやプライベートゾーンという言葉を使っていない国もあるんです。オーストラリアでは、どの体の部位もその人にとって大切なものだと説明します。
プライベートパーツは、勝手に自分や他人の体を見たり触ったりはしてはいけない、写真を撮ってはいけない部位のこと、という説明がされますよね。でもこれって、実は全身に当てはまる話ですよね。水着が隠れるところに限った話ではありません。
肩や髪を触れられて嫌な気持ちになることだってあるし、脚だけ写真を撮られたら気持ち悪いですよね。顔をジロジロと見られるのも嫌じゃないですか?」
――言われてみれば、肩や頭に触れてもセクハラにはなり得ますもんね。
「そうそう。難しい言葉で区切らず、一人一人の体はとても大切で、勝手に触れたりジロジロと見たりするのはよくないよ、と教えればいいんです。
トイレの話から脱線してしまいましたね(笑)。
以上のような意図があって、オーストラリアの保育園のトイレはかなり開放的になっています。最初はギョッとするかもしれませんが、子どもと教師を守るための工夫と配慮が詰まった設計ということですね」
オーストラリアの保育園の「びっくりトイレ事情」から見えるのは、何よりも子どもの体を大切にすると同時に、教育に携わる者を守ろうとする高い意識だった。
後編では、オーストラリアの性教育事情と日本の課題についてうかがう。
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※2022/9/29に記事の内容を一部変更いたしました。
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