「不登校」から広がる多様な学び

 こんなにも多くの選択肢と、そして何より、実に多種多様な仲間がいるんだな。
 本書を読みながら、また読み終えてから、自分の中にじわりじわりとやってきたのは、そんな安心感だった。
 いわゆる「不登校」をテーマにした数ある著作の中でも、これほど多くの、そして多様な学び場や人びとの実例を生き生きと描いて見せてくれる本は、これまであまりなかったのではないかと思う。
 一口に「不登校」と言っても、その内実はさまざまだ。だからこそ、わたしたちは、そのあり方もまた個性的であっていいし、さまざまな学びやその支援のあり方を知ることができればホッとする。かつて不登校だった現在の社会的成功者を見て、自分(の子ども)もそうならなければ、などと思う必要はないし、経済的に恵まれた家庭でないとこれだけの機会は得られないんだと不満感を過度に抱える必要もない。
 むろん、本書でも指摘されている通り、いわゆる一条校以外の学び場を選択する場合、経済格差の問題は依然として深刻だ。早急に解決しなければならない問題である。しかしそれでもなお、すでに現在においてもかなりの程度、だれだって「不登校でも学べる」のだ。
 わたしも仕事柄、多様な学びの選択肢はある程度知っているつもりだった。交流もそれなりに多いと思っていた。でも本書は、それがまだごく限られたものであったことを教えてくれた。その視角の広さは言うまでもなく、教育現場の生き生きした描写においても、著者のおおたさんには大きな信頼感を一方的に抱いてきたが、その本領が今回も存分に発揮されている。
「『学校だけに頼らない学習スタイル』が当たり前になれば、『不登校』という概念自体が消滅します」と著者は言う。
「学校の中で学びを完結しようとするのではなくて、学び場の1つとして学校もあるというイメージ」。
 そんな時代は、すでに手の届くところに見えている。
 本書は、不登校に悩む子どもや保護者等に多様な選択肢を教えてくれるのはもちろん、そんな近未来の教育の姿もまた、鮮やかにイメージさせてくれるものでもある。

不登校でも学べる 学校に行きたくないと言えたとき
おおたとしまさ
「不登校」から広がる多様な学び 『不登校でも学べる 学校に行きたくないと言えたとき』著:おおたとしまさを 苫野一徳さんが読む_1
2022年8月17日発売
1,265円(税込)
新書判/432ページ
ISBN:978-4-08-721225-9

【もう「学校」だけに「学び」を頼らない!】
●不登校という選択は誰にでも起こりえる
●むしろ、いまの学校制度に過剰適応することは危険ですらある
●少子化にもかかわらず、不登校の子ども・生徒の数は過去最高を記録している
このような問題意識から、本書は生まれました。

最近では、教育現場でも無理やり登校させる指導は減りつつありますが、一方で、不登校の子どもたちの学び場は整備の途上です。
本書は、子どもたちが最適な学び場を選ぶ際の指針となるよう取材しました。

【本文より】
不登校をテーマにした本は、たくさんあります。
多くは、わが子の不登校に強い不安を感じている親の心に寄り添ってくれるような本です。
当事者による体験談も人気です。
不登校が起こる原因や構造を学術的に解明しようとする本もあります。
でもこの本は、いずれでもありません。
多くの親がイメージする一般的な「学校」に行かなくても、学べる場所がこれだけある、と紹介する本です。
そうすることで、「学校」に行かなくてもいきなり詰んだりはしないと伝えたい。(中略)
子どもの人生における学校の比重を減らせれば、子どもたちが学校で感じるストレスは減るはずです。
そうすれば、不登校はもちろん、いじめだって減るはずです。

【本書に登場する主な学び場】
●不登校特例校―星槎中学高等学校、西濃学園中学校・高等学校、岐阜市立草潤中学校
●フリースクール―星槎ジュニアスクール、スマイルファクトリー、広島県 スペシャルサポートルーム
●私学の生徒向け不登校支援センター―神奈川私学修学支援センター
●オンライン不登校支援プログラム―カタリバ room-K
●通信制高校―星槎国際高等学校、目黒日本大学高等学校通信制課程
●不登校経験者が集う普通科高校―北星学園余市高等学校
●ホームスクール―ホームスクール&ホームエデュケーション家族会、日本ホームスクール支援協会
●不登校専門塾―ビーンズ
●平日昼間の居場所―いもいも 森の教室
など多数(順不同)
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