天文・宇宙が専門なのに最初の質問は新幹線

「続いてはですね、天文に関する質問をいただいています。愛知県のお友だちです。おはようございます」

司会役の女性アナウンサーが挨拶をすると、「おはようございます!」と男の子の元気の良い声が電話口から返ってきた。

「どんなことが聞きたいですか?」

「気球は宇宙に行けますか?」

8月初旬に放送されたNHKラジオ第1の番組「子ども科学電話相談」での一コマである。

この5歳の子の質問に対し、天文・宇宙を担当する国司(くにし)真先生(67)が丁寧に説明している。5、6分ほどやりとりがあった後、男の子は鼻歌を歌い出してしまった。国司さんとアナウンサーは、そろそろといった感じで話のまとめに入った。

「子どもが飽きたなと感じたら、すみやかに切り上げた方がいいんですよ」

国司さんは同番組で33年以上も回答者を務める大ベテラン。説得力がある。

NHK「子ども科学電話相談」で33年。ベテラン回答者が実践する伝える工夫_1
「子ども科学電話相談」のベテラン回答者である国司真さん。「かわさき宙(そら)と緑の科学館」のプラネタリウム解説員を経て、現在は跡見学園女子大学兼任講師を務める

子ども科学電話相談は1984年にスタート。主に小・中学生からの質問に、専門家たちが答えるという形式で、ジャンルは天文・宇宙のほか、昆虫、植物、心と体、鉄道など幅広い。夏休み限定での放送が長らく続いたが、2019年4月からは毎週日曜日にレギュラー化。基本的には生放送で、ヒリヒリする緊張感が視聴者にも伝わる。

国司さんが出演するようになったのは、番組の回答者だった国立科学博物館の担当者が海外出張へ行くことになったため、その代役として頼まれたのがきっかけである。いざ迎えた本番初日。最初の質問を国司さんは今でも鮮明に覚えている。

「次は星の話ですとディレクターに言われて、子どもの質問を聞いたら、『新幹線はなんであんなに速いんですか?』というものでした。間髪入れずに、司会の方が『では、国司先生お願いします』と言うのです」

え、ちょっと待ってよと驚いた国司さんだったが、すぐに頭を切り替えた。

「新幹線が開通する前年、小学生だった僕は父親に連れられて、国分寺市にある国鉄の鉄道技術研究所へ見学に行った経験があったんですよ。それで新幹線と在来線の違いを、その子と一緒に考えているうちに、『あ、わかった!』と、喜んでくれました」

いきなりの窮地を何とか乗り切った国司さん。その対応力を番組関係者が気に入ったのかどうかはわからないが、以来、毎年出演するようになった。