松波太郎が小説家になったきっかけ

鴻池 松波さんが小説を書き始めたきっかけって何だったんですか? プロフィールを拝見すると、サッカーやって、中国行かれて…って、特異すぎません!?

松波 子供の頃は、転勤族だったので、なかなか学校で周囲と馴染めなかったんです。引っ越した先は、いつも地域性の高いところばっかりで。毎回、方言の中にポンと放りこまれるわけです。もう外国語に囲まれるみたいな感じでした。

友達はいたんですけど、腹を割って話せる人はいなかった。そうなってくると、“外国語”みたいな空間の中で駆使しなければいけない自分の「口」よりも、「手」の方に興味が移っていったんです。

鴻池 「口」じゃなくて、「手」?

松波 家庭科の刺繍とか裁縫とかが全然できない子だったので、自分の手に対する劣等感がずっとありました。でも意外と、この「手」の変なクセ、ぎこちなさが面白かった。だから手を使って、日記とか書き始めるわけですよ。よっぽど寂しい小学生だったんでしょうね(笑)。

鴻池 方言の中、アウェーな状況下で、「手」が動き出したんですね。

松波 そうですね。ずっとサッカーをやっていましたが、そちらは「脚」という単語から連想するものに興味を持ったんだと思います。

鴻池 「身体」がキーワードになりそうですね。松波さんは今、小説家でありながら、鍼灸院も開いていらっしゃる。

松波 小説もそうだけど、結果的に自分は「手」の方に進んでいったという感じですよね。小説も鍼灸も、どちらも私にとって「手」の延長線上にあるんです。「脚」でサッカーをやっていたけど、途中に怪我とか色々あって、そっちの方を断念したっていうのもあります。

鴻池 松波さんのサッカーは、高校時代スペインに留学するくらいガチだった。それでも断念してしまったと。先ほど転勤族とおっしゃっていましたが、どのようなご家庭に育ったんですか?