教員志望の学生さんとの出逢い

異例のヒット映画『教育と愛国』の監督が今、伝えたいこと_1

様々な人たちと取材を通じて出会ってきた私は、映画を介して「出逢う」という意味を当初は理解していませんでした。初めて監督を務めたドキュメンタリー映画『教育と愛国』は、これまでと次元の異なる瞬間の出逢いを生み出しています。

2022年5月13日の公開から2ヶ月近く、忘れられない出逢いの数々。振り返れば、教育に対する政治介入という忍び寄る巨大な“影”と小さな抵抗の“光”を描いた映画だからなのかもしれません。政治と一線を画してきた戦後教育と教科書がいま、危険な曲がり角を曲がってしまったのか。映画を観終わった後のお客さんの反応は、驚くほどに様々でした。

静岡シネ・ギャラリーへ行ったときのこと。舞台挨拶のあとパンフレットに次々とサインをしていると、可愛らしい女性が眼前に立ち、目が合うなり「悔しいです」と言ってはらはらと涙を流しました。教員志望の学生だと彼女は泣きながら言うのです。

教育への不当な政治介入に耐えられないと言ったその表情に、思わず私は立ち上がって肩に手を伸ばし、抱いて励ましたのでした。きっと純粋に教員を目指して学んでいるのでしょう。

「大丈夫、がんばって先生になって。踏ん張る先生たちと子どもたちが待っています」

そう伝えると少し落ち着きを取り戻し、サインを入れたパンフレットを手に持って離れていかれました。子どもが大好きな感受性豊かな学生さんなのでしょう。「不当な支配に服することなく」という戦後の教育基本法の理念をすでに学んでいたのかもしれません。

許せない、悔しい、抑えきれない感情が沸き起こって涙があふれた真っ直ぐな気持ちに私は心打たれたのでした。こんな出逢いがあるなんて想像もしていませんでした。