「極秘文書」の詳細な解析

 今、ボク、そして読者は、令和の時代を生きながら「拉致問題」の進捗状況を考えることがあるだろうか?
 2018年の有田芳生議員の国会質疑に登場した拉致問題「極秘文書」――。
 日本政府が公式には認めない、拉致の瞬間の記憶、北朝鮮での暮らし、そして被害者総数を推測させる管理番号などが記された聞き取り調書だ。この本はこの調書を巡る拉致問題進捗状況の報告書だ。
 この「極秘文書」こそ、横田めぐみさんの消息に関する北朝鮮側の発表の杜撰さ、矛盾を突く手がかりとなった。「極秘文書」の詳細な解析が読みどころだ。
 1970年の“よど号”から始まる北朝鮮との歪な関係は74~78年の連続拉致、80~83年欧州経由の拉致といった形で派生する。
 新聞がようやく報じるのは80年、国会に至っては88年。拉致は、愛国的な執念がなければ見出されなかった問題でありつつ、リベラルなチャンネルを持たなければ糸口を摑めず、そして沸騰する排外主義を封じなければ運動の継続性を維持し得なかった、思想を超えた難問である。
 この解決には、拉致と核の問題を解決した後に国交正常化をする「入口論」と、国交正常化と並走し拉致について調査をしてゆく「出口論」とがあるが、特に交渉相手が金正恩総書記に代替わりしてから、政府は「対話と圧力」から「圧力」一辺倒となり、進展は暗礁に乗りあげた。
 有田氏は、2014年の日朝ストックホルム合意と、横田夫妻がめぐみさんの娘と面会したことを評価するも、第二次安倍内閣の“官邸外交”に総じて厳しい批判を展開する。
 特に小泉訪朝時、外務審議官の田中均氏が北の“ミスターX”と年30回という頻度で地ならしに尽力したことに比べると雲泥の差。外交とは「結果、妥協、落とし所」。外務省にもっと権限委譲すべきだと説く。
 だが本書は単なる凡百の「アベガー」本とは異なる。ゆえに民主党政権下の失敗も俎上にのせ、さらに安倍昭恵元首相夫人、横田早紀江さんと李雪主・金正恩夫人との会談計画まで具体的に提案する。
 拉致問題の解決を心から願う、あらゆる政治思想の人、そして日本人同胞すべてに知られるべき一冊だろう。

北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実
有田 芳生
有田芳生『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』を水道橋博士さんが読む。「極秘文書」の詳細な解析_1
2022年6月17日発売
902円(税込)
新書判/224ページ
ISBN:978-4-08-721217-4
小泉訪朝から20年。
なぜ解決できなかったのか?

◆内容◆
2002年9月、小泉純一郎氏が日本の総理として初めて北朝鮮を電撃訪問し、金正日委員長が拉致を認め、5人の被害者が帰国を果たしてから20年。
小泉訪朝当時、日朝関係は大きく改善するかに見えた。
だが、その後交渉は暗礁に乗り上げ、拉致問題解決を重要課題としていた安倍長期政権、続く政権でも進展がない。
国会の「北朝鮮による拉致問題等に関する特別委員会」等でこの問題に尽力してきた著者はある文書を入手。
そこには拉致の実態、北朝鮮での生活等が詳しく記されていた。本書は極秘文書の内容を分析し、日朝外交を概観することで問題が解決に進まない原因を指摘。北東アジア安定のために何が必要かを提言する。
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