現在の日本の学習指導要領では、小学5年生の理科の「動物の誕生」という項目で、「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」ということがはっきりと明記されている。
これは「はどめ規定」というものであり、「子どもの発達段階に応じた指導をするため」に設けられたものだ。
そのため理科の教科書では、女性の卵子と男性の精子が唐突に女性の体内で出会い、受精し、母体で育つことになっている。
中学校以降でも同じような規定がある。しかし、その後の避妊や性感染症などの正しい知識を教える場面では、この規定が大きな障害となっている。
一方、性教育先進国であるフィンランドの中学校では、なんとカップルの交際から性交までをしっかりと学習できるカリキュラムとなっている。
その内容は深く、性交をする前にお互いが性的同意を確認することから、実際にどのようにして性交を行うのかというところにまで迫っている。
大学生の性交経験率は男子47%、女子36%。”後進国”日本の残念な性教育
今年4月に成人年齢が20歳から18歳に引き下げられた。その一方で日本の性交同意年齢は明治時代に制定された13歳のまま。つまり法律では、中学1年生で「性行為に同意するかしないか判断する能力がある」とされている。では、日本の教育は13歳まで性に関する十分な知識を子どもたちに与えられているのだろうか。世界と日本を比較すると、そこには愕然とするほどの差があった。
交際から性交の方法までしっかり学習させるフィンランド

フィンランドでは、交際してセックスをすることには責任が伴うことを生物学の中で教えていることにも注目したい。
生き物としての体の仕組みを知ると同時に、人間として理性的に行動することを教えることは、日本の性教育と比較すると、より自然な流れのように感じるのではないだろうか。
避妊具の使い方を教わるフランス
前述の通り、日本の「はどめ規定」は性感染症予防の学習の弊害にもなっている。
学校で性交について学ぶことができないため、子どもたちは「コンドームを使用することがなぜ性感染症予防に効果的であるのか」を順序立てて知ることができないのだ。
これはコロナ禍に置き換えれば、「なぜかは決まりによって教えられないが、外出時は絶対にマスクで口を覆え」と言われているようなもの。この説明で納得して、すすんでマスクをつける人はいないだろう。
実際は、高校生くらいになれば性交がどのようなものか知っている子どもも多い。しかし、その情報源は正しく、そして学校で学ぶ以上に望ましい内容だろうか。
これに対し、フランスでは、シカやニワトリなど動物の交尾の写真とともに、性行為の事実を的確に説明することもある。そのうえでコンドームはもちろん、子宮内避妊リングや女性用コンドームなどの避妊具について、使い方やその効果を紹介しているという。

カップルになると、たとえ学生でも「家族計画センター(避妊の相談や性感染症などについての相談所)」に行くことがめずらしくないフランスでは、生物や科学の時間を活用し、性について「自分ごと」として学んでいるのだ。
日本で高校生のカップルが2人で保健室に行こうものなら、それだけで学校中がざわつくことは想像に難くない。
このカリキュラムと若者の意識の実態を見るだけでも、性に対する両国の意識の差を感じられるだろう。
「寝た子を起こすな」とバッシングが起きる日本
日本でも性についてまったく教えてはいけないというわけではない。
文科省によれば、「各学校で必要と判断すれば、性について具体的に指導することはできる」そうだが、下記のような前例があったと知ったうえで、あえて性教育を行う教師がどれほどいるだろうか。
2003年、東京の特別支援学校で知的障がいのある子どもに性教育を行ったことを東京都議会議員が批判。指導に当たっていた教員らが処分を受けた(のちに裁判で教員側が勝訴)。
そのほか、2013年には東京都足立区の中学校で行われた性教育が「学習指導要領を逸脱している」と批判された。
これらの性教育バッシングは日本の性教育を大きく後進させたと言わざるを得ない。
事実、現在の小学校の保健体育の教科書では、大人になるにつれて変化する体を、服を着たイラストで表現し、「大人になると体はどのように変化するか話し合いましょう」と問いかけている。
これではもはや学習ではなく、クイズだ。

「セックスについてどう思うか」を子どもに問うオランダ
一方で、「生きた性教育」を行うのがオランダだ。その地域の若者の性意識や性に関する動向を調査し、その実態にあった性教育を行うこともあるのだとか。
中学生の性教育のテキストは、一人一人に「セックスについてどう思うか」について問い、そのうえで男女の身体の仕組みについて学べる内容になっている。
事前に互いの宗教観や価値観を笑わないことをしっかりと伝えたうえで授業を行っていることも、重要なポイントだろう。
また、生理などの生殖の仕組みについても男女で学ぶ。言葉だけで伝えるのではなく、タンポンなど具体的な生理用品類のアイテムを用いて、衛生面や月経の周期についても細かく学習することになっている。
こうした性についての学習は、望まない妊娠を避けたり、若者の貧困を減らしたりすることにもつながる。そうした社会的な問題の解決の糸口にもなる性教育を、日本では国や政治家が拒んでいる。
成果をあげる各国と、日本の性教育の現在地
日本との比較に挙げた国々では、性教育の成果が結果としてあらわれている。
フィンランドはジェンダーギャップ指数上位常連国。2021年のランキングでは2位となっている。また、積極的に性教育に取り組んだ結果、望まない妊娠や早期の性交経験率が減少したという。
オランダでも、15歳で性体験をしている子どもが男子16%、女子15%とヨーロッパ先進国のなかでは低く抑えられているほか、15〜19歳の妊娠率も1000人あたり3.9人と、世界でもっとも低い国の一つとなっている。

日本はどうだろうか。
2017年の青少年の性行動調査で、大学生の性交経験率が男子47.0%、女子36.7%と、男女ともに2005年の調査から15ポイント以上も低下するという結果が出た。デートやキスの経験率も軒並み下がっている。
また、性的関心も昔に比べて低くなっており、性に関することへのイメージが悪化していることも現在の若者の特徴だ。
これは自分の体を大切にする意識が若者の間で高まっているからかもしれないし、大人の「寝た子を起こすな」という思惑が叶った結果かもしれない。専門家でも一概に結論づけることは難しく、日本の性教育のあり方は現在も議論されている。
諸外国と日本の性教育の実態を比較し、どちらのほうがよりよい教育だと決めつけることは難しい。しかし、社会問題や人権問題とも関わるこの話題について、私たちは常に情報をアップデートしながら考える必要があるだろう。
※紹介した性教育の内容は一例であり、地域や学校によって差があります。
【参考資料】
・教科書にみる世界の性教育(かもがわ出版)橋本紀子、池谷壽夫、田代美江子・編著、2018年
・学校の性教育で“性交”を教えられない 「はどめ規定」ってなに?(NHK)
https://www.nhk.or.jp/shutoken/wr/20210826a.html
・青少年の性行動調査(日本性教育協会・2017年)
https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/youth.html
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