「本離れ」「雑誌離れ」とは言われるものの、スマートフォンやPCの普及により、いまほど、人々が日常的に文字を読んでいる時代はない。

我々がなにかを読み書きするとき、必ずお世話になるのが「フォント」だ。表現の面でも見やすさの面でも重要な存在でいろいろな種類がある一方、身近すぎて、あまり意識していない人も多い。

そんなフォントだが、実は意外なほどの努力のもとに作られているのだ。

作品とともに愛される「フォント」

フォントをみると特定の作品や監督を思い出す、という話がある。

その種のフォントとして有名なのは、庵野秀明監督が『エヴァンゲリオン』シリーズなどで使っている「マティスEB」シリーズだろうか。太めの明朝体で、どっしりとしたデザインが特徴的だ。

テレビアニメ版が作られていた当時(1995年)、アニメで使われる文字はほとんどが「手書き」だったそうだ。しかし、庵野監督は省力化とデザイン統一を目的として、当時ようやく広がり始めていたPCによる印刷物作成作業である「DTP」で使われているフォントの中から、1994年にリリースされたばかりであった「マティス」を選択し、今に至る。この辺りのストーリーは、「マティスEB」発売元であり、日本語フォント制作大手の「フォントワークス」が、自社ウェブサイト内で詳しく説明している。

「作品イメージ」から「見やすさ」まで影響を与える「フォント」開発の裏側_1
「フォントワークス」のHP

そして、その源流にあったのは、岡本喜八監督や市川崑監督作品でテロップなどに使われていた、太めの明朝体によるテロップ表現だったとされている。

このように、フォントがストーリーなどの作品が持つ世界観と紐付き、ファンに愛される例は多く、ヒット作が生まれるたびに、どんどん増えている。

なお『エヴァンゲリオン』シリーズの場合、作品によって使っているフォントの種類が微妙に違うため、個人向けに「mojimo-EVA(もじも エヴァ)」として、セット販売されるまでに至っている。