――山田さんは、これまで塾講師として小学生から大学生まで多くの子どもたちの指導をされていますが、国語ができる子の特徴はどのようなものでしょうか。
一言で言うと、会話の抽象度を合わせることがとても上手、ということですね。
現在経営している塾の入塾面談は全て私が行っていますが、そこでの会話だけで、その子の現時点での国語の成績がある程度わかります。
――成績を見ずとも、ですか?
はい。例えば子どもに『何料理が好き?』と聞き、その子が『かっぱ巻き』と答えたとします。
全く的外れではないですが、互いに話している事の縮尺(抽象度)がずれているように感じませんか? このとき聞き手は和食や洋食、せいぜい寿司とかパスタくらいの抽象度で聞いているのですが、その子は一気に寿司のネタまで幅を狭めています。
こういう話し方の子は、限られた時間でも重要でない部分の話を長々としたり、テストの時間配分がうまくできなかったりする傾向があります。
逆に、会話や時間の調整力が高い子は、入塾時点で国語の偏差値も高い場合が多いです。
大手塾が教えない「国語ができる子が勉強しなくてもできる理由」
年々加熱する中学受験。その受験科目の中でも、明確な答えがあるわけではない国語の文章題に苦戦し、点数をあげられない子どもは少なくない。個別指導塾「ココロミル」を経営し、今年4月には『国語の心得』を上梓した山田佳央氏によると、国語の成績不振は単なる勉強不足が原因ではないのだという。国語ができる子、できない子の差はどこにあるのだろうか?
国語が得意な子と苦手な子の特徴
「会話のフィードバック」が国語の成績を左右する
――会話の中での調整力の差で見ているのですね。この差はなぜ生まれるのでしょうか。
会話の調整力があまりない子ども(国語が苦手な子ども)は、身近な大人である親に、会話のフィードバックがされていないことが多いです。
本来、親に『今の返事ちょっとズレていない?』『それだけだとどういう意味か分かりにくいな』と自然に会話のフィードバックをされることで少しずつ調整力がつくのですが、その機会がないと、噛み合わない会話でも『これでいいんだ』となってしまうんです。
逆に、国語の勉強にそこまで時間を割かずとも点数が取れる子は、普段から自分の話をしっかり聞いてもらえているのかなと感じます。
集団塾では元々できる子がさらに成績を伸ばしているだけ
――著書『国語の心得』では、集団指導塾に向く子と向かない子にも言及されていますね。
集団指導塾は国語の問題の『解き方』を教えることが多いです。そして演習問題、解説……というスタイルが一般的だと思います。しかし、これについていけるのは国語の『取り組み方と考え方』という素地を身につけていることが前提です。
それが身についていない子(国語が苦手な子)が解き方だけを教えられても、元々の素地がないので成績はほとんど伸びません。
つまり素地がある子、つまり国語が得意な子だけが集団指導塾で順調に成績を伸ばしているんですね。素地がない子は、どんな集団指導塾に行ってもほとんど成績は変わらないです。

国語が苦手な子は、発信された情報をうまく受信できない傾向が(ココロミル提供)
――レベル別にクラスが分かれている場合でも、ですか?
大体の塾は国算理社の4教科の平均点でクラスが分けられます。ですから、算数はできるけれど、国語がからっきしという子どもは、二つの教科の中間レベルのクラスに入れられてしまう。そうするとやはり国語でギャップを感じると思います。
――個々の国語のスタートラインの違いを理解してあげることが大事なのですね。
国語の成績を伸ばす方法
――国語の「取り組み方と考え方」というお話がありましたが、これはどういうことですか?
国語の『取り組み方と考え方』は、国語を学習する上で必要な7つの要素を指しています。
これらは自転車に乗るときの身体能力のようなもの。習得するまでは大変かもしれませんが、習得さえすれば、頭で考えなくとも感覚的に問題を解くことができるようになります。
国語ができる子は、前述のような日々の無意識なトレーニングによって、すでに『何も考えずに自転車にスイスイ乗れる状態』。国語が苦手な子は、この7つを身につけることによって苦手を克服していきましょう。
――具体的にはどのような内容ですか?
私が考えるのはこの7つ。
1.いい加減戦略
2.バイキング戦略
3.主観戦略
4.構造化思考
5.仮説思考
6.相似思考
7.野党思考
全ての詳細は『国語の心得』を読んでいただければと思いますが、一部を紹介します。
例えば『バイキング戦略』。これはバイキング形式のレストランから名付けたのですが、バイキングでは自分の食べられる量を見通し、色々な料理を楽しめるように取捨選択しますよね。
国語の勉強(ここでは試験)も、これと同じ手法でやろうということ。
国語が苦手な子は、一つの問題に執着して結局ほとんどの問題を解けないまま試験が終わるというパターンに陥ることが多いのですが、分からないものは飛ばしてほかの問題に手を付ける、つまり優先順位を付けさせるんです。
問題に書いてあること全てを理解しようとしすぎない『いい加減戦略』も重要です。多少意味がわからない語句や漢字があっても気にせず読んで、全体の8割くらいを把握して問題に取り掛かろうということです。
勉強はトレードオフ
私は『勉強はトレードオフだ』ということを、入塾時に生徒にも保護者にも伝えています。苦手な子に回答のスピードと正確度の両方を求めることは難しいのです。
だからこそトレードオフの感覚を磨き、問題によって取り組み方を調整することによって『結局何も得られない(得点できない)』事態を避けることが大事だと考えています。
ちなみに国語が得意な子はこれも感覚で分かっています。苦手な子はこの中の何ができていないのか、何がわからないかをじっくり聞いて解決することで、力がついていきます。
子どもの国語の点数を伸ばすための、親の心得
――国語が苦手な子どもを塾に通わせる場合、どのような基準で塾選びをするとよいでしょうか。
ある集団指導塾で国語の成績が伸びなかったという場合、ほかの集団指導塾でもその結果は同じだと思います。その場合は個別指導塾や家庭教師など、別の形態を検討することをおすすめします。
ではどう講師を選ぶかというと、私が思うポイントは2つ。一つは、なるべく学歴の高い人であること。もう一つは謙虚である方を講師に選んだ方がいいです。
これらのポイントに当てはまる人は、子どもが国語を苦手とする理由を理解・分析し、その子にあった授業を作ろうとする人が多いです。
今まで塾講師派遣も行ってきましたが、高学歴の人の方が子どもの特性を理解し、授業準備をしっかりする傾向にあります。あとは、人の話を聞けるということも重要ですね。
――契約する前にしっかり見極めたいポイントですね。最後に、子どもの国語の成績を伸ばすために、親ができることは何でしょうか。
誤解を恐れず言えば、『何もしない』ことが重要かもしれません。
――成績が上がらず困っているのに、ですか?
国語は比較的、親が口を出しやすい教科なんです。算数は受験レベルになると難しいし、理科や社会もうろ覚えでは口が出せない。でも、国語なら漢字も読めるし文章も読めるから、大人は横から口を出してしまいがちです。

大人が一方的に指導すると、ますます国語嫌いになってしまう(ココロミル提供)
これが子どもを国語嫌いにする大きな一因でもあります。
『どうせまた自分の書いたものに口を出される』と思い、記述問題などを白紙で提出する子も少なくないんです。
何かしてあげるとすれば、普段から子どもがなぜそう考えたのかを最後まで聞いてあげて、不完全燃焼な学習にならないようにしてあげてほしいですね。
ココロミル公式サイト
https://chugakujuken-kokugo.jp/
『国語の心得』(国書刊行会・刊、山田佳央・著)