殺人罪での死刑判決はわずか1%

2021年、「死刑になりたい」と無関係の人々を殺傷する事件が連続して起こった。8月6日、小田急線上り快速急行の車内で、対馬悠介(当時36歳)は居合わせた乗客に持っていた刃物でいきなり襲い掛かり、被害者の一人、20歳の女子大学生の胸と背中を執拗に斬りつけて重傷を負わせた。対馬は今年1月に殺人未遂などの罪で起訴された。

また、同年10月31日には京王線上り特急電車で服部恭太(同24歳)がナイフを振り回して男性客の胸部を刺し、さらに騒然となった車両にライターのオイルをまき散らして火を放った。乗客多数が怪我をし、刺された男性(同70歳)は、一時重体となった。服部は今年3月、殺人未遂と現住建造物放火、銃刀法違反の罪で起訴された。

この二人は共に精神鑑定後に責任能力があると検察が判断しての起訴である。計10人を刺傷した対馬は、「幸せそうな人を見ると殺したくなり、密室となる走行中の急行電車内ならば、大量に人を殺せると思った」と供述。

17人に重軽傷を負わせた服部は「自分では死ねないので死刑になりたい」と、事件を起こした理由を供述している。

いずれのケースも犯人は被害者の数を意識していたことが分かる。現在、殺人罪での死刑判決はわずか1パーセントに過ぎず、大量殺人でなければ簡単には死刑にはならないのだ。

私は1967年に大阪刑務所に着任以来、27年間にわたって刑務官を務めた。多くの死刑囚との交流を持ち、刑の執行の現場にも立ち合った経験がある。

ここで改めて死刑の問題を世に問いたい。「改めて」と言ったのは、20年以上前から私は著書や報道番組などで死刑の廃止を提起し続けているからである。

今回は私が死刑=NOと言う理由をまず明らかにしておきたい。

死刑制度は犯罪の抑止力がない上に、実に不経済であること。そして、実際には極刑を望む遺族感情にほとんど応えていないのである。対馬や服部の以前にも、死刑を望んで凶行に走った人間が何人もいた。彼らに焦点を当てて、塀の中を知る者として死刑の問題を記していきたい。