子どもの脳をダメにする親のNG行為とは? 「神童」が不登校になった原因は“習いごと”の多さ?…起立性調節障害を招きかねない脳からの危険信号とは
脳は、何度も繰り返し入ってきた刺激を「重要なものである」と判断し、その神経回路を太く、速くする性質があるという。発達途中の子どもの脳は大人の何十倍も柔軟で変化をすぐ起こしやすい。そのため、子どもをすこやかに育てるためには、“脳育て”の正しい順番が必要なのだ。『その「一言」が子どもの脳をダメにする 』 (SB新書) より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『その「一言」が子どもの脳をダメにする』#1
「神童」が不登校になるわけ
私たちが運営している、ワークショップを中心にした子育て支援事業「子育て科学アクシス」には、不登校、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などのいわゆる発達障害……さまざまなお子さんの悩みを抱える親御さんたちが訪れます。
そんな中には、小学校に上がるまでは「神童」と呼ばれていたような優秀なお子さんが不登校になってしまうケースも少なくありません。
神童が不登校になる原因の多くは、脳育ての順番を間違えたことにあります。脳育てには、親の都合で勝手に変えたりすることのできない「正しい順番」があります。
この順番を間違えると、脳がバランスを欠くことになり、不登校や、さまざまな不調から朝起きられなくなる、起立性調節障害などを引き起こしてしまうのです。
本来的に、子どもの脳は、生まれてから3つのステップを経て、大人の脳へと育っていきます。

脳の発達には3つのステップがある。『その「一言」が子どもの脳をダメにする』より
ステップ1(0歳〜5歳くらいまでの間に育つ)
からだの脳(間脳・脳幹)
最初に育てられなければならないのが「からだの脳」です。主に大脳辺縁系、視床、視床下部などの間脳と、中脳、橋、延髄などの脳幹を指します。この脳は、呼吸や自律神経、寝る、食べるなど、生きるために必要不可欠な機能をつかさどっています。
「からだの脳」を育てるためには、太陽のリズムに従って規則正しく生活し、十分に睡眠を取ることが最も重要です。0歳から5歳くらいまでの間に育っていきます。
ステップ2(6歳〜14歳を中核に大きく育つ)
おりこうさんの脳(大脳新皮質)
次に育てられるべきなのが、「おりこうさんの脳」。主に大脳新皮質を指します。この脳は、言語機能、手足の随意的な細かい動きなどをつかさどっています。
「おりこうさんの脳」を育てるためには、学校での学習や運動はもちろんのこと、そのほかさまざまな経験をして、脳にたくさんの知識・情報を入れていくことが大切。1歳頃から育ち、主に6歳から14歳くらいまでを中核として、18歳くらいまでに最も大きく育ちます。
ステップ3(10歳〜18歳に最も盛んに育つ)
こころの脳(前頭葉と間脳・脳幹をつなぐ神経回路)
そして最後に育つのが、「こころの脳」です。「おりこうさんの脳」と呼んでいる大脳新皮質の一部である前頭葉と「からだの脳」をつなぐ神経回路のことを指します。
この脳は、論理的思考、問題解決能力、想像力や集中力など、最も高度な脳の機能をつかさどっています。
前頭葉は、「おりこうさんの脳」にある情報の中から不要なものを刈り込んで、必要なものを速く処理できるようにするための太い神経回路を築いていきます。
つまり、「おりこうさんの脳」に、質のいい刺激を多く与え続けることが「こころの脳」育てに役立ちます。10歳を過ぎた頃から、「からだの脳」と前頭葉の神経回路がつながり、18歳くらいまでの年齢で最も盛んに育ちます。
まずは脳の「土台」を作る
先にもお話ししましたが、脳を育てる順番は守られるべきものです。まるで1軒の家を建てるように、1階に「からだの脳」を作り、次に2階の「おりこうさんの脳」を作っていきます。最後に、1階と2階をつなげる階段となる「こころの脳」を作れば完成です。
先の「神童」が不登校になってしまった理由は、「からだの脳」ができ上がる前に、「おりこうさんの脳」を作ろうとしたことにあります。まだ1階部分が完成していないのに、先に2階を作ろうとして、2階の重荷に耐えられず、家が崩れてしまったのです。
幼い頃から、英会話、ピアノ、ダンスなどを習わせる親御さんがとても増えています。幼い子どもは何でも吸収する力があるので、親が手をかければかけた分だけ「才能のある子ども」になるでしょう。

しかし、「脳育て」の観点からいうと、むしろ真逆になってしまっている場合が非常に多いのです。
まずは何より、「からだの脳」をしっかりと作ること。そのためには、毎日規則正しく生活して、十分に睡眠を取ることが最も重要です。
この本は、親が発する「言葉」が子どもの脳の発達にどのような影響を与えるかがメインテーマです。確かに、「言葉」は、すこやかな脳を育てるために非常に重要なものですが、それはあくまで「からだの脳」という土台がしっかり作られていることが前提での話です。
その点だけは、絶対に忘れないでください。
規則正しい生活で育つ「からだの脳」
脳育ての最初のステップである「からだの脳」は、規則正しい生活と睡眠により育てられます。
しかし、世界的に見て、日本人の睡眠時間は圧倒的に不足しているのが現状です。
17歳から30歳までを対象とした比較では、日本人の平均睡眠時間は、6時間12分(男性)、6時間9分(女性)で24カ国中最短でした(Arch Intern Med.2006;166:1689-1692)。
もちろん、子どもたちも例外ではありません。日本の小学生の平均睡眠時間は、低学年(1、2年生)の平均は9時間9分、中学年(3、4年生)の平均は8時間51分、高学年(5、6年生)の平均は8時間24分と、学年が上がるにしたがって加速度的に短くなっています(「日本の子どもにおける睡眠習慣/睡眠障害と感情/行動の問題との関連性」SciRep11、11438〈2021〉竹島正人、太田洋、細谷哲ほか)。

子どもの健全な発育に必要な標準睡眠時間。『その「一言」が子どもの脳をダメにする』より
こちらのグラフは、子どもの健全な発育に必要な睡眠時間を研究したデータです。小学生(6歳~12歳)に必要な夜間の睡眠時間は約10時間、中学生(13歳~15歳)では約9時間となっています。日本人の小学生の平均睡眠時間が8時間台だということを考えると、全く足りていない状況です。
人間は夜行性ではなく、「昼行性」の動物です。太陽が昇る時刻に起き、太陽が沈む時刻に活動を終えて眠りにつくのが、生理的に最も適した生活リズムとなっています。
朝5時から7時の間に太陽の光を浴びると、脳内に「ハッピーホルモン」であるセロトニンが盛んに分泌されます。セロトニンが不安を取り除き、明るく前向きな気持ちにさせてくれます。さらに、朝しっかり目覚めた脳には「元気ホルモン」と呼ばれるコルチゾールも多く分泌されます。コルチゾールは代謝を促進し、免疫力を高める働きをしてくれます。
太陽の光をしっかりと浴びて日中活動すると、15時を過ぎた頃から脳内でメラトニンが多く分泌されるようになります。メラトニンは体温を下げ、筋肉の緊張を緩めるのが役割です。太陽のリズムに従って生活をすれば、本来、私たちのからだは自然に夜眠くなるようにできているのです。
睡眠時間が少ないということは、太陽のリズムに逆らって生活しているということ。特に小学生のうちは、10時間は無理でも、最低限9時間の睡眠は確保するようにしてください。「夜の時間」が睡眠時間ですので、私たちは、就寝時刻は21時まで、起床時刻は6時まで、を推奨しています。
必要な睡眠を確保すれば、脳は必ず育つのです。
「朝ごはんを食べたくない」は脳からの危険信号
脳育ての一番はじめのステップである「からだの脳」は、太陽のリズムに沿って規則正しく生活し、しっかりと睡眠を取ることで育っていきます。
本来的には、「からだの脳」は0歳~5歳くらいまでに育ちます。しかし、私たちの「子育て科学アクシス」には、「からだの脳」がまだ十分に育っていない子どもの親御さんが多数来られます。幼児を持つ親御さんはもちろん、中には、高校生以上の成人している子どもを持つ親御さんまでいます。
ご相談の多くは、子どもの不登校や行動・情緒の問題についてです。
そういったご家庭にまず実践してもらうのが、子どもの「生活の軸」を整えること。決まった時刻に寝て、決まった時刻に起きることで必要な睡眠時間をたっぷり取る。たったそれだけで、子どもたちの様子は見違えるように変わっていきます。

あなたのお子さんは、朝起きられなくてベッドでグズグズしたり、「朝ごはんを食べたくない」などと言ったりしていませんか。これは、脳育ての観点から見ると危険信号です。睡眠不足により、自律神経が十分に機能しなくなってきている可能性があります。
自律神経は、睡眠中やリラックスしたときに主に働く「副交感神経」と、起きているときや緊張したときに主に働く「交感神経」からなっています。朝起きても眠いのは、本来働くべき交感神経が働かず、副交感神経が優位に働いてしまっているから。さらに、睡眠中には副交感神経が活発に働いて食べ物の消化を促すのですが、睡眠不足だとその働きが弱くなり、朝に食欲が湧かなくなってしまうのです。
もしお子さんが睡眠不足ならば、「生活の軸」を整えましょう。まずは、朝早起きをするところから始めることをおすすめします。これがよりよい脳を育てていくための大前提です。
朝起きたらカーテンを開ける。目から太陽の光を入れて、視覚に刺激を与えることで脳が目覚めます。朝風呂に入るのも、体温を上げて目覚めをよくする効果があります。余裕がある日は、5分でもいいので朝散歩をするとさらに脳が活性化されます。早起きして日中活動をすれば、理論的には夜には自然に眠くなります。
夜は、最低でも就寝の1時間前からは、テレビやスマホなどを見ないことが大切です。画面から発せられるブルーライトが目に入ると、脳内に分泌されるメラトニンの量が減って脳が眠気を感じられなくなってしまいます。
入浴も、就寝の1時間以上前には済ませましょう。熱いお湯につかると体温が上がって交感神経が刺激され、寝つきが悪くなりやすいからです。時間に余裕がなければシャワーで済ませるか、朝、お風呂に入ることにしましょう。
文/成田奈緒子、上岡勇二
その「一言」が子どもの脳をダメにする (SB新書)
成田奈緒子、上岡勇二

2023/10/6
¥990
240ページ
978-4815622350
親の「何気ない言葉がけ」が子どもの将来を決める!
脳科学×心理学×教育学でわかった
認知力、自律力、思考力
を奪う言葉、伸ばす言葉25
子どもの脳を伸ばす
科学的に正しい言葉がけ
「もっとしっかりしなさい」「あなたのためを思って言ってるんだから」「大丈夫だよ」「頑張って偉いね」――いずれも、親が我が子につい言ってしまいがちな言葉である。しかし、このような、親が良かれと思って発した「一言」が子どもの脳に深刻な悪影響を与えてしまう。子どもの認知力、自律力、思考力を伸ばすために親がすべき、正しい言葉がけとは?
序章 最新脳科学が解明した『子どもの脳を壊す』親の一言
第1章 子どもの自信を奪う一言
第2章 子どもの感情を無視する一言
第3章 子どもの可能性を狭める一言
第4章 子どもの自律心を奪う言葉
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