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教養・カルチャー 2023.09.23

上田岳弘さん(作家)が波多野裕文さん(ミュージシャン)に会いに行く【前編】

今いちばん会いたい人に、作家が直撃インタビュー! 職人、役者、ミュージシャン、アスリート……さまざまな分野の方々に、作家の洞察力が切り込みます。ひと味違ったインタビューをお楽しみください。

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新作長編『最愛の』を刊行したばかりの小説家の上田さんと、数ヶ月前に新譜『Camera Obscura』をリリースしたPeople In The Boxの波多野さん。上田さんの芥川賞受賞作「ニムロッド」がPeople In The Boxの「ニムロッド」からインスピレーションを受けていたことから対談で知り合い、その後東京と香川という距離がありながらも、折に触れて会うように。

今回、お互いがコロナ禍の期間に制作していた作品を発表したということで、上田さんは、普段は面と向かってなかなか話さない「創作についての話」がしたいと、波多野さんに声をかけました。このパンデミックの数年、二人の創作者は何を考え、作品は、創作の姿勢は、どう変化したのでしょうか――。


撮影/神ノ川智早 構成/編集部 (2023年8月10日 収録)

上田岳弘さん(作家)が波多野裕文さん(ミュージシャン)に会いに行く【前編】_1

左・上田岳弘さん 右・波多野裕文さん

コロナ禍における創作で考えたこと

上田 People In The Box、約3年半ぶりにアルバムが出ましたね。僕も『最愛の』はコロナ禍の期間を通してずっと書いていたので、制作期間がかぶっています。

波多野 上田さんは創作のペースに変化はありましたか。僕はアルバムのリリースが今までで一番空いたので、やっぱりコロナの影響はあったと思います。

上田 僕はむしろ増えた感じが(笑)。ちょうど連載を2本並行することになったり、短編を書いたり、加えて戯曲も書いたりしていましたから。

波多野 今回の『最愛の』の内容に、コロナは影響したと思いますか?

上田 思いますね。たとえば作中に「三密」とか書いていたりします。むしろ、「みんなその内忘れていくだろうな」と思ったことを活写しました。人って、半年前のことはぎりぎり覚えているかもしれないけど、1年前の細部って覚えてないじゃないですか。

波多野 本当に忘れます。

上田 だから、その空気感も含めて書いておきたくて。

波多野 人って軽薄ですよね。もちろん僕も含めて。かといって、コロナ前はそうじゃなかったかというと、実は元からあった軽薄さですよね。正しいかどうかよく分からない情報を真に受けて振り回される人間の浅はかさが、コロナ禍の期間に一気に表面化したということだと思うんです。
僕が書いているPeople In The Boxの歌詞は結構フィクショナルで、特に最近は、主観で感情を語るというより、もっと俯瞰で描いているので、ある意味、この数年は題材になりそうな分かりやすいモチーフが目の前に現れたなという感じではあります。

上田 この期間に、テロや戦争、新しいワクチンなどがありましたからね。謎の施策もいっぱい打たれました(笑)。People In The Boxの今回の新譜は、コロナで表面化してきたものを俯瞰して見た上で歌詞に落とし込んでいましたが、音としては、今までにもましてポップ寄りな印象で、その乖離が皮肉に映りました。

波多野 コロナによって思いがけず時間ができたので、スケジュールがコンスタントに埋まる時期とは違ったことをしたいなと自然に思い、基礎的な練習をしたり、「自分はなぜ歌詞を書くのか」ということを考えたりしていました。突き詰めると、自分は「少しでもいい世の中になればいい」と思っていることが分かったんです。ちょっと大げさかもしれないですけど、自分の音楽が人の意識にちゃんと働きかけるようなものになればいいなって。それは、聴けばすぐに人の行動が変わるというものじゃなくて、毎日食べるご飯にサプリを混入することでゆっくり体に変化が出るように、ちょっとずつ人の心が変わっていくようなものだと思っていて。
 僕は、音楽家としては、1曲で多くの人の気持ちや考え方を変えるというよりも、ちょっとずつ変えるタイプだと思うんです。だから、自分の音楽を実際そういうものにするにはどうしたらいいか、曲の強さとそこに乗る歌詞がどう密接に関係して人の耳に入っていくかを、ずっと考えてました。だから、今回のアルバムでは、歌詞が分かりやすいと言う人もいれば逆に分かりづらいと言う人もいて、はっきり2つに分かれましたね。

上田岳弘さん(作家)が波多野裕文さん(ミュージシャン)に会いに行く【前編】_2

波多野裕文さん

上田 分かりやすいか、分かりにくいか、そういうパラメータで捉える内容じゃなかったと思います。イメージをメロディに乗せて歌詞を書いたというより、ご自分の中でかちっとしたテーゼができつつあって、それを歌へと練磨しているような印象でした。

波多野 もしかすると、一番聞き手のことを意識して作ったアルバムかもしれない。僕は、「何で自分はみんなと意見が合わないんだろう」と思っている人が多数派である世界を、今誰もが生きていると思っているんです。それもあって、たとえばインターネットの情報やSNSなどが喚起するのとは違う形の共鳴を感じられるものにできたらと考えました。それには創作が一番効力を発揮しやすいのかなと思っているんですが、僕は上田さんの小説にも、同じ志向をすごく感じます。

上田 実は『最愛の』も、読者に伝える、届くということをかなり考えた作品ではあります。2019年刊の長編『キュー』あたりまでは、自分がやりたいこと、自分が表現したいこと第一主義だったんですけどね。

波多野 具体的には、今までとどういう創作上の違いがあったんですか?

上田 単純に、文章を読みやすくする工夫がまず一つ。加えて、意味を捉えやすいように改行するとかスペースを空けるとかいった体裁を調整したり、エピソードの順番が伝わりやすいように全体の構成を組んだりということも結構やりました。あとは、ここでバッと文章を切った方がクールなんだけど、伝わり切らない可能性があるのであれば、多少蛇足ぎみに見えたとしてもちゃんと書くとか、そういうことです。

波多野 それって、技術ですよね。

上田 そうなんですよ。技術を、遠くに行きたいとか新しいものを書きたいという方向だけに使うんじゃなくて、届けるとか分かってもらうとか、そっちの方向にも使いたいと思いながら書いたんです。

波多野 めちゃくちゃ分かります。People In The Boxでは他があまり扱わないことを表現しようとするときに、どうしても複雑な、ややこしいことをやらざるを得ない場合があって、そこを突破して伝わりにくいことを伝わりやすくするには技術しかないという結論に至ったんです。

上田 コロナ禍のあいだ、基礎練をし思考した結論として、そう思ったと。

波多野 そうです。ひたすら練習してましたね(笑)。

上田 People In The Boxはライブバンドという側面が強くなってきていますが、この数年間は、チケットを売ったけどライブが開催できないとか、席を間引いて売らなきゃいけないという状況が多かったですよね。それに関していろいろ考えることはあったんじゃないでしょうか。

波多野 同じ音楽業界にいるから他のバンドの状況もよく分かってしまうんですけど、ライブハウスで観客とともに密になって盛り上がり全員で一体感を得るというバンドにとっては、言葉を失うぐらいの痛手でした。それに比べると、僕らは、多くのお客さんが来てくれていても、それぞれと一対一で個別に向き合っているような感じなんです。といっても、お客さんとの関係が隔絶されているかというと全くそんなことはなくて、お客さんの集中力と僕らの演奏が対峙している。何か演出があるわけではなくて、シンプルにただ演奏するだけではあるんですけど。だからコロナ禍で、自分たちが舞台芸術に近いバンドだと強く認識しました。

魅力的なキャラクターとリアリティ

波多野 新作の『最愛の』、めちゃくちゃ面白かったです。

上田 ありがとうございます。

波多野 『ノルウェイの森』を彷彿とさせました。

上田 かもしれませんね。実は『ノルウェイの森』は僕が初めて読んだ純文学です。あの作品で書かれているのは、通信手段が手紙や電話しかない時代ですよね。今とは全然違う、我々はぎりぎり分かるけど、恐らく今の10代の子には分からない世界。
 でも『最愛の』の出発点はもともと、2000年ぐらいに書いた、初めての小説が原案なんです。そのときの僕は、新人賞の存在も知らず、小説の書き方も分からなかった。少なくとも小説を書かないと作家にはなれないことぐらいしか分からない中で、20、21歳ぐらいのときに書いた、450枚くらいの小説が『最愛の』の過去パートの下敷きなんです。読んでいる作品数も当時はそう多くなかったから、その原案部分に影響が出ているかもしれません。

波多野 その作品は応募しなかったんですか。

上田 調べたら、400枚を超えると、どの純文学の新人賞でも規定枚数を超えるので、これは駄目だと分かって、別のものを書いて応募し始めました。今年でデビュー10周年でもあるので、そろそろあのテーマをもう一回ちゃんと書いておきたいという気持ちがあって。

波多野 僕は村上春樹作品を好きで読んでいるので、『最愛の』の序盤でそれっぽいなと思いつつ読み進めていくと、共通点じゃなくて相違点がどんどん浮き出てきて、その相違点こそが本質に見えてくる。最終的には僕の頭の中から『ノルウェイの森』は消え、完全に上田さんの小説になって終わった。とても不思議な感覚でした。いや、もうすごかったです。

上田 ありがとうございます。一例ですけど、『ノルウェイの森』では、ヒロインの直子は「私のこと忘れないで」と言いますけど、『最愛の』のヒロインの望未(のぞみ)は、逆に「私のことは忘れて」と言うんですよね。そんな乖離もあり、他にもいろいろツイストがあって、それからこれまで僕の短編で練り上げてきた個人的に大事なエピソードを組み込み、『最愛の』の世界になっていく。だから「型を守り、新しい要素を取り入れ、最終的には自分独自の流儀を構築するという『守破離』の過程を全部見せました」みたいな構造になっているなと改めて自分で読んでみて思いました。

波多野 さっき話題にした「技術」と繋がっているのかもしれませんが、シンプルに映像が浮かびやすかったことと、キャラクターが魅力的だったということも、面白かったです。上田作品の感想として、こんなの珍しくないですか(笑)。

上田 珍しい。基本、そういうものから一番遠い作風でしたから。

波多野 ラプンツェルなんて、いいキャラクターだなあと思って。

上田 ああいうタイプの女性が好きですか?

波多野 友達になっちゃうタイプかもしれないですね。

上田 彼女は、自分のやりたいことのために、社会的に成功した男の庇護を受けることを敢えて選んでますけど、そこに性的な関係はなく、その男の偶像であり続け、彼の物語の一部になることを承諾しています。そして主人公の久島(くどう)とも、いったんLINEで繋がったあとは、会うこともなく、テキストだけで望未との物語を聞き続ける。ああいう突飛なキャラクターをいかに説得力を持たせて登場させるかは、自分の中でも挑戦でした。

上田岳弘さん(作家)が波多野裕文さん(ミュージシャン)に会いに行く【前編】_3

上田岳弘さん

波多野 どのキャラクターもみんなそれぞれに突飛でしたけど、リアリティを持っている。文学でいうリアリティって意外とリアルじゃない場合もありますけど、上田さんの小説のリアリティって相当にリアルですよ。たとえば『ニムロッド』だと仮想通貨が出てきますが、そういう経済の話とか、あるいは喫茶店で隣の席から聞こえてくるような儲かる儲からない話、モテるモテない話とか、そういう“チャラい”文脈もしっかり入っている。そういうリアリティから始まるのが上田作品らしいところでもあり、しかも作中でしっかり機能している。

上田 同じくコロナ禍の期間に書いた「旅のない」という短編に、村上さんという登場人物が出てくるんです。その人は、娘が林間学校に行っている間、彼女のたまごっちを預かって世話しなきゃいけないと言って、“僕”にそれを見せつつ、あとで、「実は僕は村上ですが、偽名を使って生きていて、娘なんかいません」みたいなことを言う。でも、そんな告白の前に、たまごっちの世話みたいなしょうもない些事を先に見せつけられると、それに付随するものも嘘だと思えなくなる効果を、技術的には使ってはいます。「すごく突飛だと思ったけど、あのときのあのしぐさがリアルだったから納得せざるを得ない」みたいな。

波多野 僕が『最愛の』で好きだったエピソードは、作中人物の向井くんが言う「モテるためにはモテればいい」の話です。

上田 実はあの「モテるためにはモテればいい」って、僕の実感的にもそうなんですけど、そういう友達がいたんです。彼を見て僕なりに解釈したわけなんですが、実際目の当たりにしたからリアリティを生み出せたところもあると思います。経験しなくても書けるというのは一つの事実ではあるけれど、経験の種みたいなものは実生活じゃないと得られないという気が。だから僕は、種みたいなものを実生活から拾って、それをリアリティの説得力の材料にすることは往々にしてあります。
向井くん、僕も好きなキャラクターです。

波多野 彼はいいですよね。完全に虚無なのに能力がすごくて。ニヒルというか。

上田 それが実は、メタ視点で見たときの人間の全体像になりつつあるのかなという気がします。人類は全体としてめっちゃ能力は高いけど、その目的は存在しないとみんなうっすら思ってて、血の繋がりとか世俗的なわかりやすい力以外に価値を感じられなくなっている。ルックスとかお金とか、表面的なものやマテリアルなもの以外は信じることができない、という。

人類はこの先しんどいだろうと思うからこそ

上田 『最愛の』を書いていて思ったんですが、推しがいる、つまりファンであるという現象と、性が乖離しているのが現代じゃないかと。アイドルを追っかけながら肉体関係を結ぶ相手は別にいる、みたいな感じが一部の層にはあって、実はそれが、効率を最大限に追求したときのリアルなんじゃないかなという気がしています。その両者がまだ統合されていた時代やその感覚を、現代に適合しきった30代の男性主人公が逆照射して浮かび上がらせるという構図は、若干意識して書きました。

波多野 上田作品に通底していますが、人間が来るところまで来てしまっている感じを表現していますよね。自然とそういう内容になったんですか。

上田 僕の視点としては、小説で他に何か書くべきことってある?って感じてますね(笑)。あくまで現時点では、そこからどうしても僕は目を離せない。波多野さんは今回のアルバムでは何を意識していたんですか。

波多野 歌詞を書く上で一番配慮したのは、口当たりのよさとユーモアです。制作の中で悩んだらそれらを選ぶようにしていました。意識しないと、とにかく悲観的で絶望的な内容になることを僕自身が知っているからです。

上田 ああ、分かります。

波多野 僕は世の中をそういうふうに見ているし、同じ見方をする人は少なくないと思う。だからこそ、同じように思っている仲間がいるんだよと発信したくて。

上田 心境の変化があったんですか。今作からなのか、前作「Tabula Rasa」あたりからなのか。

波多野 震災後、次第にですね。自分たちはどういう社会を生きているんだろうということがテーマになってきたのが2011年以降で、そのあたりから、人間は何かを間違えたんじゃないか、間違った文明の進化をしてきたんじゃないかと意識するようになって、それが個人的なメランコリーとして表れたのが「Tabula Rasa」です。そこから浮上し、沈んでいる場合じゃないと奮起して作ったのが今回の「Camera Obscura」になります。

上田 僕も、これまではどちらかというと、どぎつくても真実に近い方向に最短距離で、という書き方をしていたんですけど、今回は、無駄に読者を傷つけないようにとか、誤解がないようにとか、そういったことに気を配って書きました。というのも、このまま世界が効率化を目指して進む一方だと、ある種絶望的な状況が想定できすぎてしまうがゆえに、そんな中でも表現行為や考え方、日々の過ごし方みたいな細部によって救われるという経験を積み重ねていかないと人間はこの先しんどいだろうと思ったからなんです。逆に言うと、そこを最後の首の皮一枚で繋ぎ続ければ、人類は何とか持続するんだろうなという感触があって。
 「これは真実だ」と悲観的な状況をバーンと提示するのではなく、それが真実だとしても、それを受け取る接地面としての小説では、読者に気を遣い続けるのが作家にとっての最後の生命線じゃないかという感覚が、心のどこかではありました。最終的にここが繋がっていれば大丈夫だよねというところがないと、小説のラストって書けないかもしれないですね。過酷な現実を突きつけて踏み抜くのは簡単なんです。

【後編へ続く】

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上田岳弘

うえだ たかひろ

1979年兵庫県生まれ。2013年「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。15年「私の恋人」で第28回三島由紀夫賞、18年『塔と重力』で第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞、19年「ニムロッド」で第160回芥川龍之介賞、22年「旅のない」で第46回川端康成文学賞を受賞。他の著作に『異郷の友人』『キュー』『引力の欠落』など。

    波多野裕文

    はたの ひろふみ

    1981年福岡県北九州市生まれ。 2007年にデビューしたオルタナティブロックバンドPeople In The Boxにおいてボーカル・ギター・キーボードを担当。2023年9月現在に至るまで8枚のアルバムを発表。独自の音楽性と歌詞で高い評価を受けている。2016年にはソロアルバムを、2017年にはデュオ橋本絵莉子波多野裕文としてアルバムを、それぞれリリースしている。

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