東大に受かる人の驚くほど普通な才能は「当たり前のことを当たり前にやれる」こと。勉強の習慣を歯磨きレベルに落とし込むテクニックとは
勉強で結果を出すには、「効率×時間」で生み出せる価値を、いかに大きくするかが大切である。そのためには効率的な学習方法と習慣化が欠かせない。今回はほとんどの人にとって使える勉強の「勝ちパターン」の身につけ方を見てみよう。『勉強の戦略――9割の「努力」をやめ、真に必要な一点に集中する』(朝日新聞出版)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『勉強の戦略』#3
東大に受かる人の「当たり前」
私は予備校を運営する中で、東大のような難関校に受かる生徒たちをたくさんみてきました。
ここで、はっきりさせておきましょう。
東大に受かる人には、他の人と明らかに違う特徴があります。
それは「当たり前のことを、当たり前にやる」能力が秀でているということです。
普通の人は、努力を「ゼロか100か」で考えがちです。ものすごくがんばるか、まったくやらないか。だから、ふだんはまったく勉強せずに、試験前だけ全力を出したりするわけです。
しかし、難関校に受かる人は、そうではありません。
そういう人たちは、小学生ぐらいからずっと「1日に2〜3時間の勉強」が、習慣として生活に組み込まれているのです。そして、驚くほど「普通に」東大に受かります。
ちょっと考えてみてください。「1日に2〜3時間の勉強」って、ものすごく大変というわけではありませんよね。
つまり、普通に東大に受かる人は、無理のない範囲のことをコツコツ継続している。
勉強がうまくいく人は、そんな「正しい習慣」を身につけているのです。

「がんばっている感」があるうちは、まだ習慣ではない
目標が決まって、戦略を立てて、やるべきことのうち外注できるものは手放した。
ここまできたら、基本的に「後は淡々とこなすだけ」です。
どんなにすごい戦略や方法論も、継続できなければ意味がありません。むしろ継続さえできれば、そんなに奇抜なメソッドなどは必要ありません。
毎日ちゃんと単語帳を見ていたら、いつかは覚えられます。毎日ランニングを続ければ、いつかは痩せるでしょう。
それができないから、みんな挫折するわけです。
努力感なく、淡々と継続する。そのために必要なのが「習慣化」です。習慣化すると「がんばっている感」がなくなります。「いつものこと」をやっているだけなので、心理的なコストがあまりかからない。
淡々と継続して、いつのまにかできるようになっているのです。
勉強のハードルを、歯磨きレベルまで落とす
予備校の生徒を見ていると、習慣化の大切さを強く感じます。
東大に受かるような人は、いつも自習室にいます。もう毎日見かける。それでいて、まったく悲壮感がない。「イヤイヤ勉強させられている」という感じではなく、かといって、めちゃくちゃがんばっている風でもない。飄々としていて、当たり前のように勉強している。
そういう生徒を見ると「この子は受かりそうだな」とすぐにわかります。
習慣化すると、つらいのを我慢して必死にがんばらなくてもよくなります。努力を努力とも思わないぐらい、当たり前のようにやれるからです。
東大に受かるような人が、勉強を努力と思わないのは、私たちが「歯磨き」を努力と思わないのと一緒だと思います。
習慣化で、毎日の歯磨きレベルに勉強のハードルを落としていくことは、すごく大事です。
じゃあ、どうやって習慣を作るのか。そこには、きちんとテクニックがあるのです。

単語帳を手に持つだけで、勉強は大成功
勉強を習慣化するためにまずやるべきなのは、「行動のハードルを下げる」ことです。
勉強に対するハードルを、とにかく下げるのです。
たとえば「単語を覚える」ことを習慣化したいときには「単語を覚える」という行動そのものを、細かく分解することです。すると、次のように分解できると思います。
① 単語帳を手に持つ
② 単語帳を開く
③ なんとなく単語をチラ見する
④ ちょっと覚えようとしてみる
⑤ 1ページぐらい覚えてみる
最初に習慣化するのは「単語帳を手に持つ」です。まずは、手に持つだけで十分です。開かなくたって良いのです。それができたら、その日のノルマはクリアです。
そう伝えると、ほとんどの生徒さんは「そのぐらい、絶対できるじゃん」とおっしゃいます。
でも、彼らに「じゃあこの授業の前日に、単語帳を手に取った人はいますか」と聞くと、一人もいなかったりします。
もし勉強ならば、「机の前に座る」だけでもかまいません。しかしそれすらも、実はハードルが高かったりするのです。
社会人の勉強には、「環境を整える」ことが重要な要素になる
単語帳を手に取ることすら忘れてしまうなら、さらに行動のハードルを下げないといけません。たとえば、単語帳を手に取ってしまうような仕掛けを考えます。
一例ですが、「単語帳を3冊ぐらい買って、カバンの中とベッド、トイレに置いておく」というのも、効果的でしょう。そうすることで、手持無沙汰になったときに、単語帳を開きたくなったり、目に入ることで「やらなきゃ!」という気持ちを起こさせたりするようにするのです。
実際に社会人の英語学習者の方に、「冷蔵庫の中」に単語帳を入れてもらったこともあります。
その方は、家に帰るなり、いつもビールを飲むという習慣がありました。そこでその習慣を逆に利用して、「冷蔵庫を開けると、ビールの前に単語帳が置いてある」状態を作り出したのです。きんきんに冷えた単語帳です。
ビールを飲みたければ、単語帳を手に取らなくてはいけない。このように、まずは「やらざるを得ない」仕組みを作ることが大事なのです。
入浴剤と英文のプリントをセットにしてジップロックに入れてもらったこともあります。お風呂に入るときに、好きな入浴剤を手に取る、お風呂に入浴剤を入れて湯船につかると、英文のプリントしかないのです。
社会人の勉強には、「環境を整える」というのも、重要な要素の一つです。
そして環境を作ることで、行動を起こすまでのハードルを極限まで下げるのです。
一見、勉強にいきなり取りかからないというのは遠回りに見えるかもしれません。しかし、長いスパンで勉強を続けていくことを考えると、むしろこれが一番の近道です。

そんなめんどくさいことやってられない、と思う権利があるのは、継続が得意だと胸をはって言える人だけ。継続できないなら、一見すると回り道に見える「環境作り」をしてみてください。
ハードルを極限まで下げると、行動自体がいつのまにか「当たり前」になっていきます。こうすると、家に帰ったら、無意識のうちに単語帳を手に取るようになっていき、半自動的に勉強を続けることができるようになります。
単語帳を手に取れるようなったら、次は「単語帳を開いてみる」というステップに進みましょう。
それができたら、ちょっと声に出して遊んでみたり、意味をチラ見してなんとなく勉強をしている形にしてみましょう。
もちろん、どのページから始めてもいい。適当に開いたページで構わないんです。
「チラ見」まで習慣化できたら、初めて「ちょっと1ページぐらい覚えてみる」で十分です。
実はこの段階まで来ると、だいたいの人は、単語の学習を習慣化できています。このように勉強の習慣をつけるのは、1カ月もかかりません。
というのも、「ただ単語帳を手に取る」だけで、人間は行動をやめてしまうことは少ないからです。
本は手に取れば、自然とページをめくりたくなるもの。だから実際は、ここまで細かく分けるのは極端なケースです。
ほとんどの人は「ちょっと開いてみるか」くらいまでは、わりとすぐに習慣化できます。
こうして、行動を細分化してみれば、習慣化は思ったよりと簡単にできます。習慣化さえしてしまえば、後は半自動的に目標まで進めます。
このように、やる前の「準備」はとても大切な要素です。「いつでも単語帳にアクセスできるようにしておく」という仕組みを作る。そういう環境を整えておくところから、習慣は始まっていくのです。
なんとかして「毎日やる」には、二つしか方法がない
言わずもがなですが、勉強は「毎日やる」ことが大切です。
逆に言うと、「毎日やれない」ということが挫折するポイントでもあります。
「毎日やれない」という課題を解決する方法は、次の二つしかありません。
まず一つ目は先ほど紹介したように、ハードルを思いっきり下げて、習慣化してしまうこと。
そして、もう一つは、誰かに毎日ガミガミと叱ってもらったりひたすら励ましてもらうことです。
ただ「誰かに言ってもらう」というのは相手が必要になります。コーチングサービスを使うとしても、毎日毎日ずっとつきあってもらうなんて不可能です。仮にできたとしても、永遠につきあってもらうことはできません。
そして、高校生や大学生の試験勉強ならいざ知らず、自分自身で目標を定めて、淡々と行う社会人の勉強では、たいていは、ひとりで進めて行くことが基本にもなります。
だから現実的には「習慣化する」ということが、継続の鍵となります。
きちんと手順をふめば、「習慣化」は一人でもできます。それに汎用性があるから、どんな内容を学ぶときにも応用できる。
結局、仕事も勉強も、淡々とやれる人が強いものです。毎日SNS で格好いいことを言って「俺らが世界を変えるぞ」みたいな人よりも、地味だけど、淡々と事業を続けている人の方が、3年後、5年後に生き残っていることが多いのです。
誰かに依存しなくてもできる、「勉強の戦略」を、皆さんには身につけてもらいたいのです。
「努力」はしんどいものです。だから続かない。逆に言えばしんどくなければ続きます。
冒頭ではみがきを例に出しました。多くの人にとって、はみがきは習慣であり、「しんどい努力」ではないはず。だから継続できるのです。

「がんばってるね」と言ってもらえることの麻薬性
他人の目を使って勉強をするために、最近では、勉強の様子をSNS で発信し、勉強アカウント同士でつながって、切磋琢磨するという人も少なくありません。
もちろん、勉強仲間とつながったり、勉強の目標を宣言することには、大きな意味があります。しかしながら、SNSとの付き合い方には、少し注意も必要です。
SNS を使うと、簡単に承認欲求が満たされてしまいます。「英語がんばってます!」と発信して、それに「いいね!」がたくさんつく。
すると、勉強して成果を出さなくても、承認欲求が満たされてしまうわけです。
私たちが勉強をするのは、目標を最短距離で達成するためです。「目標を達成する」という成果が重要なわけで、「毎日勉強をする」というのはその手段でしかありませんよね。
私たちに必要な承認とは、毎日コツコツ勉強していった先で、それなりの結果が出てからで構わないのです。
承認欲求の誘惑に流されて、いつのまにか「がんばる」のではなく「がんばってるねと言ってもらう」ことが目的化してしまうと、大変危ない状態です。
そうなってしまうから、ダメと言いたいわけではありません。そもそも人間とはそういうものです。
「承認を得ると気持ちいい」。そういう感情には、なかなか抵抗できなくて当然です。
それを自覚しておくことは重要です。「自分は人間だから、承認されるとうれしくなっちゃうよね」と。
その上で、自分は「本当はどうやって承認を得るべきなのか」をきちんと考えておきましょう。
習慣は「気合」や「承認」では身に付かない
そもそもの話として、「褒められること」を目的に勉強するのは、あまりおすすめできません。東大に受かる学生の例でもお話をしましたが、彼らは、べつに褒めてほしいから自習室に行っているわけではないのです。
ただ「習慣化ができている」だけです。
「褒められたい」などの「承認」をベースにして勉強している人は、感情によって行動が左右されてしまう状態です。
それだと、行動を習慣化して継続して行うのは、やっぱり難しくなってしまいます。
習慣化ができている人は、他人やその日の気分には影響を受けない状態になっています。やるのが当たり前だから、淡々と続けられます。
感情に左右されなければ、課題も整理しやすいので、最短距離で成果を出せるのです。
たとえば、「今日も歯磨き、がんばってます」なんて人はいませんよね。歯磨きをして親や先生に褒められるのは、小さい子どもだけです。

でも、人間そのものは、生得的に「歯磨きする」という習慣を持っているわけではありません。みんな、どこかの段階で習慣づけられているわけです。
いつまで経っても、褒められることで歯磨きを続けられている人なんていません。
「今日も歯磨きした」とSNS で発信して「すごい!」「今日も白い歯、いいね!」なんてことは、滅多なことがなければありませんよね。
しかしいざ勉強となると、みんなまだ、習慣化できていない。すると、ついついそういうことをしてしまうのです。
逆に、気合や承認が必要なのは、「習慣化できていない」ことの証左でもあります。
受験勉強で「合格ハチマキ」を巻いて、気合を入れている予備校講師のポスターなどを見かけたことがあるかもしれません。
でも、歯磨きで「今日も白い歯」なんて書いたハチマキなんかしませんよね。歯磨きを継続できない人のためのグッズなんてないし、褒めて欲しくてツイートする人もいない。
もちろん、気合を入れること自体が、ダメと言っているわけではありません。まだ習慣化されていない段階で、最初のきっかけを作るためにハチマキを巻いたりするのには、一定の効果はあるかもしれません。
ただ何度も言いますが、気合や承認に頼るのは、それほど大きな効果を生みません。それよりも習慣化して、成果を最大化することの方が勉強の本来の目的だということを忘れないでください。
文/岡 健作
『勉強の戦略――9割の「努力」をやめ、真に必要な一点に集中する』(朝日新聞出版)
岡 健作 (著)

2023/7/21
¥1,760
200ページ
978-4023322905
あなたの勉強は、ムダだらけ──リスキリングなど、社会人にも勉強が求められる時代。時間がない大人には、成果を最大化するノウハウが必要だ。塾講師を経て、社会人向け英語塾や予備校を経営する著者が、2万人を成功に導いた「勝ちパターン」を初公開!
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