息子の携帯を勝手に見て、好きな子とのメールを読む…学歴コンプを抱えたの公務員毒親に高圧的支配のもと育てられた詐欺容疑者の末路
子どもに大きく影響を与える「親の養育態度」には心理学的観点から4つのタイプが存在するとされている。どのタイプであれ、行きすぎると“危ない子育て”となるが、今回は「高圧型」の養育態度の事例を見てみたい。『犯罪心理学者が見た危ない子育て』(SB新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『危ない子育て』#2
きっかけは、ゲームセンターに置かれていたパチンコが面白かったこと
[本記事で紹介する事例における罪状]
詐欺(特殊詐欺)
郵便局員を名乗って被害者の家を訪問し、現金の入った袋を受け取ってコインロッカーに入れることで収入を得ていた
トモヤは東京の大学に進学し、一人暮らしをするようになって自由を謳歌していた。
実は、大学を休学してアルバイト中心の生活を送っている。仕送りはもらっているが、全然足りないのだ。パチンコに費やすようになったからである。
きっかけは、ゲームセンターに置かれていたパチンコが面白かったことだ。ゲームセンターに行くことなんてこれまで許されなかった。一人暮らしをするようになったら早速行ってみようと思っていた。そして、本物のパチンコ店でやってみたいという衝動が抑えられず、店で打ってみた。
すると、ビギナーズラックで大勝ちしてしまった。たった1000円が5万円になったのである。
ゲームとして楽しいだけでなく、お金まで稼げる!
夢のような遊びだと感じて、パチンコにハマったというわけだ。
儲かった5万円はあっというまに消え、仕送りもアルバイト代もつぎ込んで、「取り返さなくては」とパチンコ店に行く。悪循環に陥っていた。
両親は、トモヤのそんな生活を想像もしていない。大学で勉強を頑張っていると信じている。

長男のトモヤには、自分のような思いをしてほしくない
父親のかねてからの願いは、「いい大学を卒業して大企業に就職し、世界を股にかけて活躍してほしい」というものだ。
父親自身の果たせなかった夢である。
彼は本当は大学に行きたいという強い希望があったが、家庭の金銭的事情により叶わず、高校を卒業して地方公務員となった。今のポジションは係長。大卒の職員に立場的に抜かれることが多く、「大学さえ出ていれば」と忸怩(じくじ)たる思いに駆られるのだった。
長男のトモヤには、自分のような思いをしてほしくない。
とにかく、いい大学に行って、いい会社に入る。
それがトモヤのためだと考えていた。
父親は何かにつけてトモヤに指示を出した。小学生の頃から、
「健康のために野菜中心の食生活を送りなさい」
「運動も必要だから、サッカーをやりなさい」
中学生になると、生活にあれこれ口出ししてコントロール。
「ゲームをしてもいいが、学習につながるものにしなさい」
「門限は確実に守りなさい」
「洋服はこれを着なさい」
さらに勉強面での指示は熱が入った。
「人一倍勉強しなさい」
「そろそろ遊ぶのはやめて受験に集中しなさい」
こんなふうに命令口調で指導するのが普通だった。
世間体にうるさく、社会からどう見られるか気にする父
世間体にもうるさかった。目立つことをすると「社会からどう見られるか気にしなさい」と言う。小学生のトモヤが友だちとケンカをしたときは、とくに厳しく𠮟りつけた。「違うんだよ、あいつが先にぼくのことを」と言いかけたトモヤの言葉を無視し、相手の親に謝罪しに行った。
母親もこの方針に賛成している。
「結婚相手は公務員がいい」と言われて育ってきたため、公務員である夫のことを尊敬しており、家庭内のさまざまな意思決定や教育方針は夫に従うのが正しい選択であると思っていた。
夫に言われるがままに監視役を引き受けることも多く、指示に従っていないとトモヤを𠮟った。
そんな両親のもとでトモヤは窮屈な生活をしいられていた。とくに妹たちを見ると不満が募る。両親は明らかにトモヤには厳しく、妹たちには甘いのだ。

隣の席の”天使”マナが、誘ってくれたが…
たとえば携帯がほしいと言っても、トモヤに対して父親はなかなか許してくれず、誓約書のようなものを書かされたが、妹たちはいとも簡単に手に入れた。
「なぜ自分だけがこんな思いをしなきゃならないんだ」
トモヤは強い不満を持っていたが、「お前のためだ」という言葉がのしかかって、反抗することができずにいた。
期待されていることを嬉しく思う気持ちもないわけではない。口うるさい親だが、言われた通りにしておけば、大きな問題にならないのも事実だ。健康で元気だし、サッカーもそこそこできるし、成績もよかった。
そんなトモヤが親に対して感情をぶつけたのは中学2年生のときだ。
授業で使う持ち物を忘れて困っていると、隣の席のマナが何も言わずそっと貸してくれた。
「さっきは、ありがとう」
すまなそうに声をかけると、マナはにっこり微笑んで「ううん、全然。困ったら言ってよ」と言ってくれた。その後も、よく気づかって助けてくれるのだった。
トモヤにはマナが天使のように思えた。
「来週、みんなでショッピングモールで遊ぶけど、トモヤくんも来るよね? ゲームセンターとかカラオケとかあるんだって」
マナが誘ってくれたのは嬉しかったが、あの父親が許すはずがない。
家に帰ってから携帯でマナに「ごめん。うちの親めんどくさくて。勉強しろってうるさいし、そういうの難しいかも」とメッセージを入れた。
「そっか。厳しいんだね」
マナは否定することなく、話を聞いてくれた。
それ以来、トモヤは毎日のようにマナとメールでやりとりをした。マナに恋心を抱いていたトモヤは、それが幸せなひとときだった。
親に勝手に携帯を見られ、好きだった女の子について指摘される
ところがある日突然、父親から「マナと付き合うのはやめなさい」と言われた。
「えっ……?」
絶句していると、
「そんなことをしている暇があったら勉強しろ。ここのところ成績がよくないじゃないか。わかったな?」
そうたたみかけるように言って、去っていった。
なぜ父親はマナのことを知っている?
トモヤは親に好きな女の子の話なんてしたためしがない。学校でも、マナとの交際を知っている人はほとんどいない。まさか、携帯を盗み見ているのか。
トモヤは怒りに震えた。そして両親のいる部屋に行き、わめいた。
「勝手にオレの携帯見てるんだろ! 親だからって、そんなことしていいのかよ!」
母親は、トモヤの携帯をチェックしていることを認めた。いかがわしいサイト、危険なサイトにアクセスしていないか監視するのに飽き足らず、どんな友だちとどんな会話をしているのかを確認していたと。
父親は一笑に付した。
「トモヤのためを思ってやっていることだ。親として当然の権利じゃないか」
トモヤは絶望した。この人たちには何を言ってもムダだ。
マナとの関係もぎこちなくなり、自然消滅してしまった。
トモヤは表向きは父親に逆らわないようにしながら、家を出ることを目標にした。東京の大学に進学すれば自由になれる。勉強なんてどうでもいいし、とくにやりたいこともなかった。どうせなら、いままで禁止されていたことをやろう。そうしてひとりで生活する中でパチンコにハマったのだった。

パチンコ屋で誘われた謎の高額アルバイトに手を染める
あるとき、パチンコ店で出会った同年代の男、タケルに声をかけられた。
「簡単だけど稼げるバイトがある」
タケルもトモヤと同じようにパチンコにお金をつぎ込んでおり、経済的に困窮していた。その高額バイトによって助けられたという。インターネットを通じて指示を受け、その通りに動くだけでなんと1回10万円ももらえるらしい。それも、指定の住所に住む人から紙袋を受け取って、それをコインロッカーに入れるだけという簡単なものだ。
タケルは闇サイトを見せながら、ヘヘヘと笑った。
これは……、やばいやつなんじゃないのか。
トモヤは犯罪の匂いを感じた。
しかし、何も知らない、何も気づいていないことにした。何かあったら、「そんな説明は受けていない」「自分は何も知らなかった」と言えばいい。
そう思えば躊躇はなかった。こんなおいしい話に乗らないわけにはいかないだろう。何度も犯行を繰り返した。
このバイトを始めて3カ月ほど経った頃、警察がアパートにやってきて逮捕された。トモヤは少年鑑別所に入所した。
面会に来た両親は、激しく怒り、悲しんだ。
「してはいけないことを、あれほど教えてきたのにお前は何を聞いていたんだ!」
「そんなふうに育てた覚えはない!」
ふたりはトモヤを責め続けるのだった。
解説: 高圧型とは?
高圧型の親は子どもに対して支配的で、親の言う通りにさせようとします。何かと束縛し、些細なことにも干渉します。従わない場合には罰を与えることが多く、「〇〇しなければ、こんなに大変なことになる」といった恐怖心をあおるのもその一例です。
学歴や就職先など、社会的評価につながる部分に関してはとくに干渉が強くなることが多いです。世間体を気にするのです。また、親自身が引け目に思っていることを子どもに投影し、補償しようとします。
子どもは親の顔色をうかがうことが常となり、自主的・積極的に物事に取り組もうとする意欲が育ちません。失敗したときは、「そもそも自分の判断ではない」と考えるので、他罰的になります。自分の存在を認められていないという思いが強く、自己肯定感が低いのも特徴です。

一方的に命令して、子どもの気持ちを無視
トモヤの父親は高圧型の典型でした。「~しなさい」と命令し、「~してはいけない」と禁止する言い方が高圧型を象徴しています。しかも、非常に一方的であることが問題です。トモヤの希望とは関係なく、父親の価値観にもとづいて物事が選択されていました。
「健康のために野菜を食べなさい」くらいのことは、ほとんどの人が言っていると思いますが、「運動はサッカーをやりなさい」「洋服はこれを着なさい」と指定するのは違和感がありますね。親の好みを押し付けており、子どもの気持ちを無視しています。
トモヤは当然、不満を抱いていました。しかし、「お前のためを思っているんだ」と言われると、反抗もできません。長男の自分に、いい大学に行っていい会社に入ってほしいと期待しているのだということはわかっていました。
期待されること自体は、嬉しいものです。不満を持ちながらも、親の言うことを聞く「いい子」として育ってきました。
聞く耳を持たない親に失望したトモヤ
中学2年生のときに、初めて両親にキレて不満をぶつけましたが、両親はこのときに気づくべきでした。
トモヤからのわかりやすいSOSです。よく話を聞いて、子育ての方針を修正することができれば、その後に大きな問題が起こる危険性は減ったに違いありません。多少の問題があっても、うまく対処して乗り越えていくことができたのではないでしょうか。
ところが両親は聞く耳を持たなかったので、トモヤは失望し、完全に親を信頼できなくなりました。表面上は言うことを聞いておき、家を出て自由になることだけが目的になったのです。
少年鑑別所での面接の際、トモヤは「マナとの交際を卑劣な方法で否定された。あいつらは最低だ」と両親への怒りを激しい言葉で語りました。彼にとっては相当ショックな事件だったことがうかがえます。両親に敵意に近い感情を抱いており、親子関係の調整が難しいケースであると感じました。
教育とマインドコントロールは紙一重
トモヤは高圧的な親から逃げることを選択しました。
しかし、逃げることができない人たちもいます。極度に高圧的な親のもとでは、心理的に拘束され、親の言う通りにしか動けなくなってしまうのです。
たとえば、外出や買い物などあらゆることに親の許可を必要とし、行動を制限する。親の言うことは絶対で、口答えをさせない。支配下から逃れようとすると何かしらの罰を与える。
このように支配されると、子どもは常に親の顔色をうかがうようになります。自分から積極的に行動することができず、やりたいことがあっても、まず「親はどう思うだろう」と考えます。次第に、自発的に考えることをやめてしまい、何でも支配者の言う通りに動くようになってしまいます。もはや「逃げたい」とも考えません。
これはまさに「マインドコントロール」です。
マインドコントロールという手法は、近年の旧統一教会関連のニュースでも聞かれますが、日本では最初、オウム真理教事件で有名になりました。天才、秀才と言われるような若者が多く入信し、「地下鉄サリン事件」ほか次々と凶悪な事件を起こした背景には、マインドコントロールがありました。

支配下に置かれた者は、何でも支配者の言う通りに行動する
普通の感覚からすると「なぜ、そんなに頭のいい人が異常な行動をとるのか?」「おかしいと思わないのか?」と理解に苦しみますが、支配下に置かれた者は、何でも支配者の言う通りに行動するようになってしまうのです。
当時私は東京拘置所に勤務していたため、多くのオウム真理教関係者を心理分析しました。「これをしなければ、こんなに悪いことが起こる」「ここから抜け出せば、こんなに酷いことが起こる」と、長い期間にわたって繰り返し刷り込まれてきており、支配から抜け出すことがいかに難しいかを実感したものです。
2016年、千葉大学の学生が、中学生の女子生徒をアパートに2年間も監禁していたという事件がありました(朝霞少女監禁事件)。
この事件がメディアで報じられたとき、「なぜ2年間も逃げられなかったのか?」ということが話題になりました。アパートは厳重に鍵をかけて出られないようにしているわけではなく、目の前には千葉大学があり、助けを求めることができそうな環境だったからです。女子生徒がひとりで買い物に出かけることもありました。
「女子生徒はなぜ逃げなかったのでしょうか?」
当時、メディアに呼ばれて何度も聞かれました。
まるで逃げ出さなかった被害者が悪いとでも言うような論調は、困ったものだと思います。
女子生徒は心理的に拘束されており、逃げられなかったのです。これは少しもおかしいことではありません。
ちなみに、監禁していた大学生は「一番すごいと思うのは麻原彰晃」と語っており、マインドコントロールについて勉強していたことがわかっています。早い段階で恐怖を与え、逃げたら大変なことになると刷り込んで、心理的に拘束したのでしょう。
物理的には拘束されていなくとも、心理的拘束から逃れるのは非常に困難です。
文/出口保行 写真/shutterstock
『犯罪心理学者は見た危ない子育て』 (SB新書)
出口保行

2023/8/5
¥990
240ページ
978-4815621629
知らず知らずに偏ってしまう子育ての危険性
心理学者サイモンズは、子育ては4つのタイプに分けられると言いました。
著者は法務省心理職として1万人を超える非行少年・犯罪者を見てきた結果、サイモンズの言ったとおり、子育てには4つのタイプが存在すること、いずれかのタイプに偏った家庭に犯罪者が育つことを確信しました。
その4タイプとは「過保護型」「高圧型」「甘やかし型」「無関心型」。
この4つの言葉を見て、「私の家庭は過保護でも高圧でもないし……」と思った親御さんへ。
実は……
親は誰でも知らず知らずのうちに
この4タイプのどれかに偏っていることがあるのです。
非行少年・犯罪者の育った家庭環境の事例とともに、
各タイプにありがちなこと、気をつけるべきことを伝えていきます。
偏っていない子育てはありません。
でも、少しでも真ん中に寄せる意識はできる。
その一歩として。やさしい子育て入門書です。
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