ウクライナ支援のために日本や韓国、ドイツという「保護国」に頼りすぎるアメリカ。その背後に潜むドイツに介入する可能性
アメリカがウクライナへ支援し続けるためには、ドイツや日本、韓国といった国々が軍需品を生産してくれることが必要不可欠だ。しかし、そんな状況にも関わらずアメリカはドイツに介入している可能性があるというのだが…。フランス人人口学者のエマニュエル・トッド氏と、ジャーナリストの池上彰氏による対談本『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』(朝日新書)より、一部抜粋・再構成してお届けする。
『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』#2
アメリカはドイツにも戦争をしかけている
池上彰(以下、池上) トッドさんはドイツについて、アメリカは実は今回ロシアだけじゃなく、ドイツにも戦争をしかけていると。ロシアとドイツを分断して、ドイツ経済を破綻させようとしているんだと指摘されています。なぜ、アメリカはそんな必要があるのでしょうか。あるいはその試みは成功するんでしょうか。
エマニュエル・トッド(以下、トッド) そうですね、ドイツ経済を完全に破壊させるというのは正確ではなくて、あくまでも自分たち、つまりアメリカ、そして西側のためのものとしてドイツ経済を保ちたい、ということなんです。
ロシアとの補完的なものにドイツがなるのではなく、あくまでもアメリカのためにあるべきだというふうに見ているという意味です。なので、ドイツ経済を破壊しようとしている、ということではないわけです。
それは、「ノルドストリーム」が人為的に爆破された出来事などを見ても、アメリカがそういう思惑を持っていることがわかります。

アメリカがいまの戦争に勝つためには、ドイツの産業や工業の力、そして日本や韓国の工業の力なくしては勝てないんですね。こういった国々が、軍需品を生産してくれることが必要なわけです。つまりアメリカの「保護国」が、そういった生産をしてくれる必要があるんです。
このような状況は、始まったばかりなんです。たとえば、ウクライナ軍が負けてしまったら、NATOはこのいまの状況をコントロールできなくなってしまう。もしそうなってしまったら、もしかしたらドイツがアメリカに従わなくなるような可能性も想定することはできるかもしれません。そうすると状況はますます複雑になってしまいます。
実際に、ポーランドの大使が「もしウクライナ軍が負けたら、今度はポーランド軍が戦争に突入する」といったような発言をしたことからも、ひじょうに状況は複雑になることがわかります。ちなみにポーランドという国は、ヨーロッパの歴史を眺めてみると伝統的に、無責任なところがあるわけですね。そういった意味でもひじょうに複雑化してしまうと。まあ、こうやっていろいろと想像はできるわけです。
アメリカにされるがままのドイツに驚き
たとえば、18世紀のヨーロッパでは、ドイツとロシアがポーランドをつぶすようなことをしていたわけですよね。分断するということを進めていたわけです。
いろんな意味で、これは予測でしかないんですけれども、考えたくもないようなことばかりなので、私も話すのがとても難しいことだと思っています。
ドイツ自身が何を考えているのかっていうのは、全くわからないわけですね。確かに私自身も、このウクライナ戦争のなかで、ドイツがアメリカに対して従順だったことにはひじょうに驚かされました。
ノルドストリームをアメリカが破壊したことに対しても、されるがままだったわけですよね。
そのいまの状態は、1812年にナポレオン軍がロシアへ侵攻してきたときのことを、ふと思い出させるわけです。

そのとき、だんだんとナポレオン軍が勢いを失っていって、どんどん後戻りをせざるを得なくなるわけです。この時代はちなみに、フランスとロシアは人口がほぼ同じだったんですけれど、そのナポレオンが率いる軍の下には、ひじょうに多くのドイツ人も含まれていたんですね。
そういう意味でロシアに対して同盟関係にあったフランスとドイツなのですが、フランスがだんだんと失敗をしていって、戦況が怪しくなってきたときに、ドイツはそういったなかでロシア側についたといったようなことがあったわけです。
そういった意味でも、ドイツが今後、どういった行動に出るのかは、ちょっと見えないというところはあります。もしかしたら、アメリカがナポレオンのときのフランスと同じ目に遭うという意味で「ナポレオンバイデン」というふうに言うこともできるかもしれません(笑)。
そもそもいまの状況を見る限り、戦況はアメリカに完全に優位だとは言えず、いろんな国がそれを感じ、動き始めているようです。まあ、いま言っていることはあくまでも予測でしかないので、半分冗談のようにして捉えていただければと思います。
「ちょっと待てよ」という視点が、非常に大事
ただ、これらのいろんな要素を考えて分析をしていこうと思うんですけれども、いまの時点では、これがこうなるだろうというような予測はなかなか言えないという状況ですね。
ここで私は、ひじょうにある意味、断定的なものの言い方を、つまりいわゆる西洋のディスクールで聞かれるような考え方とは少しズレたところでかなり断定的な言い方をしているわけなんですけれども、それというのも、実は西洋でのディスクールというものがひじょうに偏っているので、私のものの言い方もひじょうにエクストリーム(過激)になるというか、断定的な言い方になってしまうというようなことがあると思います。
全体のコーパス、つまりいろんな議論に関する分析やディスクール、議論の全体を見たときに、そのなかにおけるマジョリティーがどのようなものなのか、そのマジョリティーの人が何を言っているのかということを鑑みたうえでの、私のこのものの言い方というのがあるわけです。

西洋では、プーチンはモンスターだとか、一方でアメリカは自由の擁護者だといったような意見というのは、どこでも誰でも、いま読める話です。みなが目にする話なんです。
私の意見というのはマイノリティーなんですけれども、誰からも何かを奪うような意見でもないわけです。私は、意見の多様性、多元性というものを擁護したいという観点がひじょうに重要だと思っています。
池上 トッドさん自身は、「ちょっと断定的な言い方をしますが」とか、あるいは「アメリカフォビアというのは、ちょっと冗談めかしていますけど」とかいうように、ちょっと保留をしつつも、やはりこういうウクライナ戦争のような出来事というのは多様な見方が本当に必要なことだと思うんですね。
メディアが極めて一方的に伝えているなかで、「ちょっと待てよ」という、そういう視点が、非常に大事であると。そのときに極めて知的レベルの高いトッドさんの視点というのが、大変参考になるなと感じます。これからのこのウクライナ戦争を見ていくうえで、とても大事な視点だなというふうに思いました。
文/エマニュエル・ドット、池上彰
『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』 (朝日新書)
エマニュエル・トッド (著)、池上 彰 (著)、 大野 舞 (通訳)

2023/6/13
869円
200ページ
978-4022952233
ウクライナ戦争について、メディアで飛び交うさまざまな言説とは異なる新たなる視点。
「こんなことを話すのは、今日が初めてです」(エマニュエル・トッド)
「新たな視座を獲得するでしょう」(池上彰)
世界の頭脳であるフランス人人口学者のエマニュエル・トッド氏と、ジャーナリストの池上彰氏による初対談本。
なぜウクライナ戦争は起きたのか、いまだ終わりの見えない戦争の行方、長らく1強の覇権国家として君臨してきたアメリカの弱体化、それによって多極化、多様化していく世界をどう生きていけばいいのかーー。G7を含めた西側諸国がもはや少数派となる中で、日本の進むべき道とは? 全3日間にわたる白熱対談!
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