ギター需要増加は弾くためではなく、ファン活のため


『ぼっち・ざ・ろっく!』は、超絶技巧のギターテクニックを持つが、極度の人見知りで友だち作りができない女子高校生「後藤ひとり」こと通称「ぼっちちゃん」が、高校生同士でバンド「結束バンド」を結成し、活動に打ち込んでいく様を描いた作品。

動画投稿サイトにて「ギターヒーロー」としても活動するぼっちちゃんが華麗にギターをかき鳴らす姿に、アニメ視聴者の視線は釘付け。実際に楽器屋でもギターの売上が飛躍的に伸びたという報道もあった。アニメ効果でギターの売上が伸びたという事例は、同じく芳文社の漫画『けいおん!』(かきふらい原作)も挙げられるが、アニメや漫画による楽器の購買意欲の向上は我々の想像以上と言えよう。

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南田氏は同作のテーマとなる“バンド”を作中で丁寧に描いたことが、ギター売上増加の要因であると語る。

「音楽アニメの『ぼっち・ざ・ろっく!』が成功したのは、ギタープレイヤーである主人公(ぼっちちゃん)の成長譚よりも、バンドの結束を押し出していた点にあると思っています。作中のバンド名自体が“結束バンド”ですしね。ぼっちちゃんのキャラ設定は強烈で、コミュ障がこじれて自室の押し入れで3年間ひたすらギターを練習してきたというものです。

そんな陰キャの彼女がバンドを組むことができたのは、ギターが凄腕だったこともありますが、入学した高校で(人の性格をあげつらわない)陽キャのともだちができたこと、メンバー募集していたのがベースとドラム、つまりリズム隊で、サウンドの核がしっかりいたことも大きいです。これら三つの偶然が揃うのはいわば奇跡的で、現実にはなかなか起きそうにもないのですが、この三つの要素があればたしかに伸びしろを期待できるバンドになるな……という説得力が生まれます。ファンタジーだけど妙に現実味を感じるのはそのあたりでしょう。

バンドのやりがい、楽しさ、喜びを受け取った視聴者は多いんじゃないかな。そして一人でも練習できるギターはやはり他の楽器よりは敷居が低いですし、いまはコロナ禍で外出できないけどコロナ後にバンドをはじめたい!と、ギターを手にした人が多かったと考えます」

また南田氏は、かつて一般的だったギター購入の動機と比較し、さらに同作がもたらした特異な点について次のように指摘する。

「従来であれば、憧れのギタリストの弾くフレーズを習得するためにギターを購入する人が普通に多かったでしょう。しかし、『ぼっち・ざ・ろっく!』の影響でギターを購入した人たちには、アニメで描かれたグッズを収集したいという目的もあったかもしれない。ぼっちちゃんと同じようなギタープレイをしたいかというと、なにしろ押し入れに3年間こもらないといけないわけなので、それは目標にされていないと思います。

ギターを買って、もちろん練習はするにしても、“聖地巡礼”をして、ギターの写り込んだ写真をSNSにシェアする。そういうグッズとしての側面はあるのかなと。ちなみにこれは批判しているわけではなく、私自身も、アナログレコードを買ってきて一回も再生せずに部屋のインテリアとして飾っていたりしますからね。消費社会の最終形態とでも言いましょうか」