ホラー界の一大ジャンル「心霊ビデオ」。その名の通り、心霊現象が映りこんだ映像を集めたもので、数多くのシリーズがリリースされている。
その中でも「ほんとにあった!呪いのビデオ」(以下、ほん呪)は、その祖となる作品である。1999年に本シリーズが生まれたことから、このジャンルが一気に広まることとなった。それ以降、数々の新作が現れては消えていく中、ほん呪は途切れることなく巻数を重ねていき、このたび100巻を迎えることとなった(最新101巻は先行リリース済み。記念すべき100本目は、2023年夏劇場公開予定だそう)。

【お分かりいただけただろうか?】発売開始から23年。100巻を迎える心霊ビデオの金字塔「ほんとにあった!呪いのビデオ」。ホラーファン必見の傑作回は?
視聴者からの投稿映像をベースに作られた心霊ビデオの傑作「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズが、ついに100巻の大台を迎える。“ほん呪フリーク”でもある、人間食べ食べカエル氏に、特にお気に入りの作品を紹介してもらった。
驚異的な長寿作となった人気シリーズ

心霊ドキュメンタリー作品の金字塔「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズ(https://net-broadway.com/wp/category/item/ko/noroi/)
多くのファンを惹き込み、驚異的な長寿となった本シリーズ。一体その魅力はなんなのだろうか。
まず、安定感は、その理由の一つだろう。「お分かりいただけただろうか」というお馴染みのナレーション(声をあてるのは中村義洋氏、自身でもほん呪シリーズを監修、演出するほか、映画監督として『残穢 -住んではいけない部屋-』や『忍びの国』など数々の邦画を手掛けた人物である)とともに心霊映像を紹介し、その合間にスタッフによる検証を交えた長編を挟むというスタイルを確立。
スタッフの変更やハプニング(一時期の映像クオリティの乱れ、問題ありなスタッフの投入など)はあれど、その構成は崩さずに貫き、それを20年以上に渡り続けている。
ここまで来ると、もはや「伝統芸能」と表現したほうがいいかもしれない。老舗の味みたいなものを求めて、新巻が出るたびに、つい観てしまう。また、「心霊と言えばこれ!!」というような強烈に怖い映像を数多く世に出していることも、このシリーズへの信頼を高めている要因だと筆者は考えている。
実際、地上波のホラー系テレビ番組が紹介する映像にも、ほん呪はよく採用されている。首のない男が猛ダッシュで迫る映像や、部屋の中に不気味な女が現れて“ヤバイ牛”みたいな声を上げる映像などを観た方も多いだろう。
玉石混淆ではあるものの、当たった場合の恐怖度は尋常ではない。心霊映像の収集と拡散を続けて、ここまでずっと第一線を走ってきたことは本当に凄い。
というわけで前置きが長くなってしまったが、今回は100巻到達を記念して、特に私が気に入っている映像を5本紹介していきたい。
女のビジュアルがマジで怖い!
●『井戸』(「ほんとにあった!呪いのビデオ Special 5」収録)
まず1本目は、「ほんとにあった!呪いのビデオ Special 5」に収録された『井戸』だ。
投稿者の早川さんと撮影者の山下さんは、肝試しで墓地の中にある古びた井戸を訪れた。この映像はそこで撮影されたものである。

「ほんとにあった!呪いのビデオ Special 5」(https://net-broadway.com/wp/1999/07/31/bwd-1400/)
このエピソードは取材パート付きで、その話も含めて非常に不気味だ。カメラは、投稿者たちが井戸に近づいていくところを映しており、井戸との距離が縮まるにつれ画面にノイズが走り始める。やがてそれは画面全体を覆いつくし、オレンジ色の部屋に立ちすくむ女が映りこむ。この女のビジュアルがマジで怖い!
表情どころか顔のパーツがあやふや。それが何をするでもなく、ただ突っ立っている。何よりゾッとするのが、その部屋は、今山下さんが住んでいる場所だったという点だ。意味不明ではあるが、間違いなく自分がすでに危うい状態になっていることだけはハッキリとわかる。
数ある心霊映像の中でも上位に来るインパクトがある。これはSpecial 5のトリを飾るのだが、その位置にふさわしい1本である。
家族団欒の風景に映り込むのは…
●『頭のおかしい老人』(「ほんとにあった!呪いのビデオ 14」収録)
2本目は「ほんとにあった!呪いのビデオ 14」より、『頭のおかしい老人』。これは少し不思議な味わいの映像だ。これも取材パート付きで、その話も込みでお気に入り。

「ほんとにあった!呪いのビデオ 14」(https://net-broadway.com/wp/2004/12/03/bwd-1436/)
ある家族のホームビデオ。従姉妹が海外に留学するため、投稿者は叔父の家を訪れて、団欒の様子を撮影していた。怪異はそこに映りこんだ。画面奥のソファに座る湯呑を持った謎の老人がそれだ。
知らない親戚かと勘違いした撮影者がその老人に向かってお辞儀をしたところ、老人も会釈を返して、そのまま立って文字通り消えてしまった。
それだけならまだしも、その姿がとにかく異様だった。後頭部が異様に伸びていて、とても人間とは思えないのだ。タイトルの“頭がおかしい”というのは、物理的におかしいという意味でした。その見た目はまんま「ぬらりひょん」。
私は心霊ビデオのフォーマットで妖怪を映したやつが大好きなので、ドンピシャでツボにハマりました。手作りの湯呑だけを残っていたというのも味わい深い。恐怖度は低いものの、心の中に残るものがある。
ロッカーの扉がゆっくり開き…
●『ダビング』(「ほんとにあった!呪いのビデオ 24」収録)
3本目は「ほんとにあった!呪いのビデオ 24」に収録された映像『ダビング』。これは前後編に分かれた長編の中で流される映像だ。
ほん呪では通常、前後編の場合、特に警告(「観た人にも影響出ますよ」みたいなやつ)付きだと、後編の最後に目玉の心霊映像が流されるものだが、今回は珍しく前半で映像が流れる。

「ダビング」は公式YouTubeチャンネルにアップされていない。ぜひレンタル等でチェックを。「ほんとにあった!呪いのビデオ 24」(https://net-broadway.com/wp/2007/06/08/bwd-1765/)
その内容が、ロッカールームをただ映しただけのもの。それだけでも不気味なのだが、そのロッカーの扉のうち1つが次第に開いていく。そして、その中から顔がゆっくり、ゆっくりと現れる。どういう状況なのかまったくわからないうえ、その顔の恐ろしさも相まって、本当に見てはいけないものを目にしてしまった気分になってくる。
取材パート自体は少々やりすぎでは、と思わなくもないが、それに説得力を持たせるだけの禍々しさがある。この本物感は中々出せない。
AV女優候補者の面接中に…
●『面接』(「ほんとにあった!呪いのビデオ 28」収録)
4本目は「ほんとにあった!呪いのビデオ 28」に収録の『面接』である。これは、AV女優候補者の面接を行う様子をカメラに収めたものだ。

「ほんとにあった!呪いのビデオ 28」(https://net-broadway.com/wp/2008/06/06/bwd-1849/)
最初こそ普通の問答が行われているが、次第に面接に臨む女性の様子がおかしくなり、やがて「田島はいるか!」と叫びながら暴れ始める。
その姿はあまりに常軌を逸しており、投稿者の男性が慌てて彼女を取り押さえながら部屋を後にする。そして部屋から誰もいなくなってしばらく経った後……ヌーっと何者かの顔が現れる。
女性の狂乱ぶりだけでも十分に恐ろしいが、それを経て現れる謎の顔は厭すぎる。目が本当に不気味なんですよ。
そして、その出方がまた怖い。部屋がガラ空きになって、だいぶ間をおいて現れる、その長さが恐怖を何倍にも増幅させる。さらに、「そもそも女性は本来面接する予定だった人とまったくの別人だった」という強烈なおまけ付き。
映像の粗さもかなりリアルで、短いながらも強烈に印象に残る1本だ。
ほん呪史上もっとも美しい映像
●『逢魔時の怪』(「ほんとにあった!呪いのビデオ 45」収録)
最後に紹介するのは「ほんとにあった!呪いのビデオ 45」より『逢魔時の怪』である。これは、ほん呪史上もっとも美しい映像だと思っている。

「ほんとにあった!呪いのビデオ 45」(https://net-broadway.com/wp/2011/12/02/bwd-2173/)
撮影されたのは夏のピークが過ぎた頃。海を訪れた投稿者カップルが遊ぶ様子を映し出している。もうすでに黄昏時で、夕日が周りをオレンジ色に照らす。そんな中、突然姿を現す巨大な女。何かを呟くように口を動かしており、やがて彼女の首がポロッと落ちる。
起きていることは間違いなく恐ろしいのだが、夕日と異様な影のコントラストがあまりにも美しく、綺麗という感情が上回っていく。他の映像とは一線を画すビジュアルだ。これは言葉で表現しても中々伝わらないだろう。何度も見返しているが、そのたびに良い映像だと思う。
もう一つ評価したいのがタイトルだ。「逢魔時の怪」。夕暮れとか夕焼けとかではなく、逢魔時。このワードを選んでくれたことで、映像の美しさがさらに際立っている。
**********
この5本以外にも、超大当たり映像はまだまだあるので、是非それらも観ていただきたい。
ほん呪は次の劇場版で100巻の大台を迎える。心霊ビデオの元祖は、いったいそこでどんな恐ろしい映像を見せてくれるのだろうか。ネクストレベルの心霊映像が飛び出すことを期待しています!
文/人間食べ食べカエル
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