G7で同性婚を認めていない唯一の国、日本

「日本ではあなたは結婚できないよ、と言われた時はびっくりしました」

穏やかな口ぶりとは裏腹に、落胆した面持ちでそう切り出したのは、スペイン・カタルーニャ人のアンナさんだ。大阪市生野区にある築100年の長屋を改修し作った工房。土間にある電気釜ではちょうど素焼きが始まったばかりだ。コーヒーカップを持ち上げた爪の先に、先ほどまでこねていたであろう土が微かに張り付いている。

バルセロナで陶芸家として活躍していたアンナさんが、色彩豊かなスペインの焼き物にはない、土の風合いを直に感じる日本の陶芸に魅せられ来日したのは2019年。直後、大阪で現在のパートナーである角元リョウさんに出会った。2人は生涯のパートナーになる約束を交わしたが、日本では同性同士の自分たちは夫婦になれないと聞かされ、耳を疑った。日本はこんなにも文化的で成熟した国なのに……。

「片方が外国人」の同性カップルは日本から出ていけということ? 金銭的不利益、ビザ、親権…世界の常識からかけ離れた冷遇ぶりの実態_1
アンナさんと、そのパートナーであるリョウさん
すべての画像を見る

「日本には素晴らしいものがたくさんありますが、時々、驚くほど世界の常識と離れていると感じるところがあります」

同性婚は、2001年のオランダを皮切りに、ヨーロッパ、北米、南米、オセアニア各国が続々と法制化されている。アンナさんの母国スペインでは2005年から、アジア諸国では唯一、台湾が2019年から合法化している。「多元主義」という共通の価値観を掲げるG7(先進7カ国)のうち、同性婚を認めていないのは日本だけだ。

少し前にも、荒井勝喜元首相秘書官による「同性婚を導入すると、社会が変わる。国を捨てる人、国にいたくないと言って反対する人は結構いる。隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」という発言が、世間を憤慨させたばかりだ。政治家がLGBTQへの直接的なヘイトを口にし、あらゆる法制化にとかく時間がかかるこの国で、同性婚が認められるようになるには、まだまだ時間がかかるだろう、というアンナさんとリョウさんの見解は一致していた。

2人は、夫婦になるためにスペインに渡ろうかとも考えた。しかし、日本で、日本の土を使って陶芸を作りたいアンナさんも、地元・大阪で会社を経営するリョウさんのどちらも、簡単には日本を離れることができない。リョウさんは怒りを露わにする。

「なぜ同性婚にこだわるの? 事実婚じゃダメなの? と聞かれると正直、腹が立ちますね。僕らは別に愛の証なんて感傷的な理由で結婚したがっているわけじゃないんですよ」