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2004年に公開された映画『下妻物語』(中島哲也監督)をご存知だろうか。深田恭子演じるロリータファッションの娘と、土屋アンナ演じるレディースの二人の女子高生が織りなす、ゆがんだ青春の物語である。上映された当時は作品と深田・土屋がそれぞれ複数の映画賞を受賞するなど高い評価を得た名作だ。とにかくフカキョンのロリータ娘役が異常なほどのハマり役だった記憶がある。

この作品で描かれた北関東の田舎町が茨城県下妻市だ。県内では内陸部の、栃木県に近い鬼怒川沿いに位置する人口4万人ほどの街である。主要幹線や高速道路からは外れており、関東鉄道という私鉄の単線区間がわずかに通る。

東京都心からはわずか50キロ程度で、小田原や熊谷とほぼ同じ距離の場所にもかかわらず、「辺鄙」な雰囲気が漂う。『下妻物語』の原作小説を書いた嶽本野ばらは、そういう場所だから物語の舞台に選んだのだろう。

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往年の名作『下妻物語』。だが20年後の下妻ではインド物語がはじまっていた
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そして、あれから約20年。令和の現代において、下妻はよりいっそう不思議な空間に変貌していた。

無人駅の前で謎のインド人パレードが

「なまあしばーよ、なまあしばー。ざじゃあそほーげー●×△#$*※○◆……!!」

2023年3月12日11時過ぎ、関東鉄道常総線の無人駅である宗道駅前のロータリーで、耳慣れない掛け声とともに太鼓の音が響いていた。その場にいるのは十数人のインド人の男たちだ。一人はオレンジ色の貫頭衣に白い布をまとったバラモンで、さらにインド国旗を持つ人や民族楽器の太鼓を叩く人。他のインド人男性たちも、手を叩きながら盛んに「なまあしばー」を唱え続けている。

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関東鉄道の無人駅(宗像駅)前で、シヴァ神を讃える在日インド人のみなさん

後に彼らに尋ねたところ、「なまあしばー」と聞こえた言葉は、どうやらシヴァ神に対する讃歌らしかった。この日は彼らの月に1回のお参りの日なのだが、なんと群馬県の大田市から3日かけて神様に祈りながら歩いてきて祭礼に加わった若者2人がおり、ゆえにいっそう場が盛り上がったようである(若者たちがこうした行動をとった理由は、祈って歩く行為が宗教的な実践だと考えられているためだ)。

男たちは太鼓の音とシヴァ讃歌とともに、宗道駅から住宅街に向けて歩きはじめた。近所の人が怪訝そうな表情で顔を出すと、隊列からすかさず、代表者のセパン・センさんが飛び出し、「今日は祭りの日なのです」と流暢な日本語で説明する。近隣住民はなんとなく納得しているようであった。

センさんに限らず、この日の祭りに参加しているインド人の多くは、日本での滞在歴が長く日本語が上手な人が多かった。隊列を率いるバラモンは39歳でパンジャーブ州出身のアヌポムさんである。日本では別の仕事と兼業しながら、同胞たちの間での聖職者として暮らしているという。