「男社会の主従行動」

――『荒野は群青に染まりて』完結おめでとうございます。今の率直なお気持ちを教えてください。

ようやく、という気持ちです。暁闇編(上巻)は『青春と読書』で約一年間の連載でコンスタントに書き重ねていけたのですが、書き下ろしの相剋編(下巻)が苦戦して、丸三年がかりになってしまいました。書き上げた時は「よく戦ったねお疲れさん」と自分と登場人物たちを思わずねぎらいました。

――この作品を構想したきっかけはありますか。また、戦後を舞台にしたのはなぜでしょう。

発端は、ある日「少し上の年代の男性会社員」あるあるの話をしていて、上の人間が下に対してする「忠誠を試すような行動」が興味深いと思いました。たとえば、かわいがっている部下を夜中にいきなり店に呼び出つけ、残業中でも駆けつける部下を見て「おまえは俺の組」を確認するとか。

そういう「男社会の主従行動」を踏まえて、当初は過去の因縁を持つ男ふたりの社内復讐劇のような話を考えていました。紆余曲折を経て、ストーリーは別物になりましたが、相剋編でそのあたりの機微は書けた気がします。

男社会がより如実だった昭和、せっかくなら終戦から高度経済成長期にかけての泥臭さと勢いのある時代を舞台にしよう、と決めて下調べする中で、当時の担当氏のお父様が大陸からの引揚げを経験されていたと知り、お話をうかがいました。

その中に「引揚船から身投げした女性の話」があり「あのときの、どぼん、という(海に落ちた)音が忘れられない」とおっしゃっていたのがとりわけ印象的で、そこから物語が一気に起ち上がりました。

必然的に終戦直後の比重があがり、それまで建前に閉じ込められていた人々の本音が一気に噴き出した社会の真ん中で、群青と赤城の絆が育まれていく過程を十分に書けたと思います。