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野宿者と直接話す「子ども夜回り」に参加

2022年12月22日、1年5組。2学期最後の「反貧困学習」は、西成学習のまとめから始まった。テーマごとにピックアップされた感想が書かれたプリントが配られ、担任の中村優里が声をかける。

「今日は、西成学習の総まとめだよ。最初の授業、覚えてる?」

「覚えていない」

「知識量を問うより大事なことがある。楽しいと思える学校作りを目指します」_1
班に別れて、グループワーク。テーマは「貧困のスパイラル」はどうつくられ、次の世代に連鎖して行くのか。キーワードを書いた付箋をあちこちに動かしながら、それぞれが思うところを話して行く。こっちかな?いや違うと
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「なんか、部落で。差別されて」と女子生徒。

「結婚に反対するって、あったよな」と男子。

部落差別についての感想には、こう書かれていた。中村が読み上げて行く。

「差別意識がまだ世の中にはびこっているということが本当に信じられません。血は同じなのに、差別をする人が一人でも早く消えてほしいです。仮に親が結婚に反対するなら、その権利はないと思った」

生徒たちは「野宿者」の授業に続き、「子ども夜回り」と「釜ヶ崎」についても学んでいた。

「子ども夜回り」とは、釜ヶ崎にある子どもの居場所「こどもの里」で冬に行われる、子どもたちによる野宿者を訪ねて声をかける活動だ。子どもたちがおにぎりやカイロ、下着などをリヤカーに積んで、釜ヶ崎各所を歩いて回る。

2015年冬、私も一度だけ、参加したことがあった。夜回りの前に1時間ほどの学習会を行い(この日は、福島第一原発事故がテーマだった)、それぞれのコースに分かれて出発し、戻ってからは一人一人振り返りを行なうという、深夜までかかる活動だった。子どもたちは野宿者にすっと、「おっちゃん、大丈夫ですか? 寒くないですか? おにぎり、持ってきました」と声をかける。すると、寝ていた野宿者たちはうれしそうに起き上がる。

ある女の子は、こう聞いた。

「おっちゃん、子どもの頃、何が一番、楽しかったですか?」

野宿者はこんな問い、遠い昔に置いてきたとばかりにキョトンとし、次に満面の笑みとなった。

「なんやなー、運動会やったかなー」

なぜ、野宿するようになったのかについても、子どもたちは率直に尋ねる。「身体、壊して」「会社が潰れて」と野宿者たちも、真っ直ぐな子どもたちの瞳に答えて行く。お互いにとって大事な活動なのだということを目の当たりにした夜だった。

プリントに目を通し、「一番上の、オレの感想」といった島津くんが、個別インタビューに答えてくれることになっていた。島津くんの感想がこれだ。

「自分もこどもの里に小さい時からずっと行っていて、夜回りにも何回か参加していて、小さい頃はなんのためにこんなことやってるんだろうと思っていたけど、今考えたら、その少しの活動で野宿の人も頑張れるんやって思って、あと1回でいいから夜回りに行きたいと思った」

「釜ヶ崎」についての学習は、時期的に重なったカタールのFIFAワールドカップから始まった。プリントでは、開催になぜ、抗議の声が上がったのかと生徒に問う。それはカタール政府が性的マイノリティの存在を法律で禁止していることと、サッカースタジアム建設に関わった多数の外国人労働者が過酷な労働環境で亡くなり、賃金が支払われなかった事実があるからだった。

では、日本ではどんな人たちが建設労働者として働いてきたのかと、釜ヶ崎へと導く。生徒たちは釜ヶ崎の動画を見て、日雇い労働の実態を学んで行った。

釜ヶ崎にはさまざまな理由で、全国から単身の労働者が集まり、ほとんどが1日から1ヶ月未満の契約の日雇い労働を行い、簡易宿泊所(ドヤ)を住まいに暮らしている。現在は1万人が釜ヶ崎にいると推定されるが、大阪万博開催当時は約3万人がいたという。動画の中で、日雇い労働者が人間扱いされず、抗議をすると暴力団に殴られるなどの現実が語られる。

なぜ「西成は怖い」というイメージができ上がったのか。それが、「暴動」だ。仕事が無くなれば切り捨てられるという、労働者の権利すら守られない理不尽な日常を送る人たちの間で暴動は起きた。それも全て、理由があってのことだった。1度目は、労働者がひき逃げにあった時に警察が救急車を呼ばず、ムシロをかけて放置したことへの怒り。2度目は、警察署員が暴力団から賄賂をもらっていたことへの抗議としての暴動だった。このように暴動へ至るには理由があったにも関わらず、暴動シーンの映像だけを切り取ってマスコミが報じたことで、全国に「西成は怖い地域だ」というイメージがついた。

中村は、生徒たちに尋ねて行く。

「あいりんのやつ、どう思う?」

「めちゃくちゃ狭い部屋に住んで、朝4時から働いてんのに、給料が安くて……」

「ニュースの人たちが、悪意のある切り方をしてて」

「日雇い労働者は人間扱いされてこなかった」

「ちょっとは思い出した? じゃ、今日のワークに移るよ」