新型コロナウイルス感染症が蔓延して以降、チームワークの重要性は一層高まっています。「ウィズコロナ時代において社員に身につけてほしい力」に関する調査において、最も重要だと回答されたのは、「周りと協力する力(チームワーク)」です。「コロナ前と比べて社員の能力やチームワークが事業に影響を与えると感じるか?」との問いには、7割の人が肯定しました。
職場のチームワークのよさが必ずしも好結果に結びつかない理由
新年度、組織に新たなメンバーを迎え入れたものの、「思うように連携できていない」とお悩みの方も少なくないだろう。ではどうすればよいか?「組織行動論」の研究知見をもとに対策を解説した『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学 』(伊達洋駆著・すばる社)より抜粋、再構成してお届けする。
人と組織の行動科学
チームの仲のよさは、アウトプットに影響する重要事項

他方で、5年前と比べてチームワークがどう変化したかを尋ねた結果、約40%が「変化していない」と回答しています。
それもそのはず。「チームワークを高めるために、十分な教育を行っているか」という問いに対して、「全く行えていない」が9.0%、「あまり行えていない」が35.1%という結果となっています。会社はチームワークの問題を認識していても、具体的な対策を講じていません。
よくあるのは以下のケースです。
1 職場でメンバー同士が団結できていない
2 「人は人、自分は自分」と割り切っており、協力関係が生まれない
3 職場の目標に向けて、メンバーが尽力していない
チームワークが機能していないと、各人がどんなに優秀で多くのインプットを持っていたとしても、よいアウトプットは生まれません。一方、メンバー同士の仲がよいチームは、グループへの愛着や協力の度合いが高く、優れたパフォーマンスを発揮します。
チームは会社の中のいたるところに存在します。とりわけ、トップマネジメントチームの会社への影響度は高いと言えます。ここでは、お互いの役割が重なっている場合、チームが結束していてコミュニケーションが取られているほど、チームも企業もパフォーマンスが高まることがわかっています。
ではチームワークをどのように高めていけばよいのでしょうか。どのような場合にチームワークが特に求められるかを整理するため、4パターンのチーム状況を紹介します。
1.プールド(pooled)
メンバー全員が別々に仕事をしています。メンバー間で仕事は流れていません。同じ場所にはいるものの、各々別のタスクにあたっている状況です。
2.シーケンシャル(sequential)
仕事がメンバー間で流れていきます。しかし、一方向の流れです。例えば、上から下に流れていくように、命令や指示系統があるだけの状態です。
3.レシプロカル(reciprocal)
チーム内で仕事が双方向に動きます。他方で、全体の大きな流れは維持されています。ある瞬間、その関連タスクを進めるメンバーは、チーム内で1名だけになります。
4.インテンシブ(intensive)
チームメンバーで協力して、一斉に仕事に向かいます。お互いに乗り入れながら、助け合って仕事を進めていきます。
これら4つの状況を示した図がこちらです。それぞれの状態におけるメンバーの相互作用を矢印で表しています。

※引用:Mach, M., Abrantes, A.C., and Soler, C.(2021). Teamwork in healthcare management. In M.S.Firstenberg, S.P.Stawicki. Teamwork in Healthcare, IntechOpen.
※Work enters team=インプット、Work leaves team=アウトプットを指す。
学術研究において、プールド、シーケンシャル、レシプロカル、インテンシブという順番で、チームの結束力とパフォーマンスの関係が強くなるという報告があります。順にチームメンバーの関わり合いが強くなるため、チームワークの重要性が高まるのです。ここでいう「結束力」には、次の要素が含まれています。
・メンバーに対して好意や愛着を持っていること
・チームのタスクに対して尽力していること
・チームのメンバーである重要性を感じていること
この報告からわかるのは、すべてのチームにチームワークが必要とは限らないということです。例えば、メンバーが別々に仕事をしている場合には、チームワークはあまり求められません。逆に、お互いにやり取りが多いチームにおいて、チームワークは鍵となります。
チームワークの2つの副作用
チームワークが機能している状態をイメージしてください。チームワークが高いと、お互いに対する期待や信頼が強くなり、結束力が高まります。これ自体はよいことなのですが、一方で、メンバー個々人の自由度は減っていきます。
チームワークが高いと、その中にいるメンバーにとって、仕事の要求度が増します。これまでの研究では、仕事の要求度が大きいほど、ストレス負荷がかかることが明らかになっています。チームワークが高いと疲弊する恐れがあるということです。
チームワークのよさは、チームの観点からすると重要です。しかし、会社の観点から見ると、どうでしょうか。場合によっては、チームワークのよさが会社に悪い影響を与えることもあります。
チームと会社が同じ方向に進んでいる場合、高いチームワークは会社にとっても有益でしょう。他方で、チームと会社の向いているところが異なっていると、チームワークのよさは仇となります。チームが会社の望まぬ方向へ団結して一気に進んでいくという事態に陥ります。
チームワークを高めることは必要ですが、チームの目標が会社の目標と連動しているのかに注意を払わなければなりません。チームワークのよさが、勢いよく会社を衰退させる要因になるとすれば、悲しいことです。
まずは自分たちのチームの状況が4タイプのどれに当てはまるのかを考え、必要に応じてチームワークや結束力を高めていくのがよいのではないでしょうか。
※本記事は『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』内の「29 組織のチームワークを高めたい」を元に作成しています。実際には多くの文献や研究結果を元に記載されておりますが、その注釈は省略させていただきます。
『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学 』
(伊達洋駆著・すばる社)

2022/2/24
¥3,540
単行本 : 352ページ
4799110004
人や組織をめぐる44項目の課題を取り上げ、会社における人の心理や行動を探求する「組織行動論」の研究知見をもとに、対策を解説。実務に有益なエビデンスがひととおり揃う一冊。