「20年後に名実ともに世界一のスポーツチームへ」
今季、そんな目標を掲げた横浜DeNAベイスターズ。野球人口の減少や、日米間でのチーム力や経済力の格差、さらには日本の野球界が100年後も繁栄するために、横浜DeNAベイスターズがその先頭に立っていくと木村洋太球団社長は話す。
「例えば、おぼろげに『世界一のスポーツチームはどこ?』と訊かれたら、なんと答えますか? MLBのニューヨーク・ヤンキースだったり、リーガ・エスパニョーラのFCバルセロナなどが思い浮かぶでしょう。そういうラインナップにDeNAベイスターズも名を連ねるには、いったい何をすればいいのか。まずはそれを考えなければいけないと考えています」
MLBやサッカー界も視野に⁉ 横浜DeNAベイスターズが掲げる「世界一」戦略の全貌【後編】
「日本の球団だから日本の国内リーグで閉じてやっていこう――そんな固定観念は、我々には必要ありません」そう話すのは、横浜DeNAベイスターズの木村洋太球団社長。ビジネス面では今や球界のトップランナーになりつつあるDeNAが掲げる「20年で世界一」プランの青写真とは?
木村洋太球団社長インタビュー#2
国内リーグだけに留まる理由はない

昨年4月に社長に就任した木村洋太氏(39歳)
その具体的な方法論について、木村社長は「極端な話ですが」と前置きしてこう続ける。
「仮にMLBがエクスパンションをする機会があったら、手を挙げるというアイデアがあってもいい。そこでベイスターズというチームを作れたら世界一に近づくかもしれない。あるいは他国のサッカーチームにベイスターズという名前を付けて、チャンピオンズリーグを戦うことができたら世界的な評価が高まるかもしれない。荒唐無稽と思われるかもしれませんが、日本の球団だから日本の国内リーグで閉じてやっていこう――そんな固定観念は、我々には必要ありません。自由な発想で最終的に世界一にたどり着く方法を考え、チャレンジし、実現していく。そのために20年という時間を設定しているわけです」
DeNAベイスターズで特徴的なのは、こうしたミッションやビジョンを球団だけなく、現場の選手たちとも共有していることだ。
球団創設以来、沖縄県で行われている春季キャンプ前日の全体会議では毎年、これらを現場のチーム関係者や選手たちにも説明し、共有する時間をとっている。
「選手だからビジネスのことは関係ないとか、ビジネスの担当だから選手たちのサポートはしないという話でなく、両者が対等な関係で一緒にやっていくことが何より重要だと思っています。例えばファンサービスひとつとっても、選手が球団のミッションやビジョンをわかっていれば、なぜ協力をお願いされているかが理解しやすいと思うんです」
「実際にこの10年で『ここはもっとこうした方が面白いですよ』とアイデアを出してくれる選手も増えてきました。このことは非常に誇らしいですし、DeNAベイスターズならではの文化だと思っています」
「事業」と「チーム」、このふたつが両輪となり同じ方向を向くことで、組織はよりダイナミックに推進していく。
今季、試みたドラスティックなチーム改革
2012年に東北楽天イーグルスへ移籍し、今季、10年ぶりにDeNAベイスターズに復帰した藤田一也は春季キャンプ前日の全体会議に参加し、感嘆したという。
「ベイスターズの各部署から色々な報告があって、監督やコーチ、選手だけが野球をやっているんじゃないってことを改めて認識しました。同時にチーム、球団、会社全体で世界一を目指すということも共有できた。もちろん今年、優勝することも大事ですけど、その先を見据えることの必要性も痛感しましたし、なにより一緒に戦うんだという気持ちになれた、いいミーティングでしたね」
2016年には積年の願いだった横浜スタジアムの経営一体化、また同年に経営の黒字転換を実現させるなど、こと事業面に関してはすでに一定の成功を収めているといっても過言ではないDeNAベイスターズ。
だが、肝心のチームが1998年以来、リーグ優勝・日本一から遠ざかっていることは寂しいというほかない。
「おっしゃるとおり、スポーツビジネスを手掛けている以上、大前提としてチームが勝たなければ成功とは言えませんし、ファンの方々が納得しないこともわかっています。昨年はリーグ最下位、そしてコロナ禍もあってビジネスとしてもどん底でしたが、逆にこれをいい契機にするしかないと。改めてチームの勝利と経営的安定を求めていく集団として、これまで以上に変わっていこうということを球団全体で確認しました」
昨オフ、DeNAベイスターズは主力選手の複数年契約やコーチ陣の思い切った刷新など、この10年間では見られなかったドラスティックなチーム改革を行っている。
「毎年、総年俸が最も高いチームが優勝するのかといえば、プロ野球界は決してそう簡単なものではありません。例えば、昨年日本一になった東京ヤクルトスワローズを見て、ベイスターズとは何が違ったのだろうと突き詰めなければいけない部分はたくさんあったと思います」
「そこで今オフは必要不可欠なFA選手の流出阻止であったり、主力選手の複数年契約、またコーチ陣を今までにないレベルで刷新するなど、できるかぎりの試みをしたつもりです。DeNA体制になって11年。ファンの方々の『そろそろいい加減、勝つタイミングだろ』という温度感はひしひしと感じています。ぜひお応えできるようにしたいですね」

オフには宮崎敏郎(写真)が6年契約を結んだほか、三嶋一輝が3年、桑原将志が4年と主力選手が続々と複数年契約を結んだ 撮影/共同通信社
木村社長は、DeNAベイスターズ創設初期の2012年に外資系コンサルタント会社から転職。この球団に来た一番の理由は、幼少期から親しんだ野球がとにかく大好きだったことだという。
「自分自身が一番、仕事を楽しんでいる人間でありたいと思っています。ファンの皆さまに楽しんで盛り上がっていただくための演出をしているのに、私がつまらない顔をしているのは何か違うじゃないですか。だからまずは自分が楽しむことが、この仕事をやっていくうえで最低限の要素だと思っています」
横浜スタジアムに足を運ぶ老若男女を魅了し、彼らの心を打つ野球を実現するため、今季のDeNAベイスターズの戦いはシーズンが深まるごとに熱さを増していく。
撮影/下城英悟
木村洋太球団社長インタビュー#1はこちら
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