2011年の球団創設から11年。横浜DeNAベイスターズは革新的な戦略で観客動員を伸ばしてきた。過去2シーズンはコロナ禍のため動員の減少は避けられなかったが、それでもコロナ前の2019年には横浜スタジアムに年間228万人の観客を動員。これは球団創設時(110万人)の2倍以上の数字である。
そして迎えた今季。3月25日に行われた広島との開幕戦では、横浜スタジアム史上最多動員となる32,436人を達成した。球団の木村洋太社長は次のように語る。
「横浜スタジアムの増築・改修工事が完了後、初の大入り満員となり、史上最多動員を達成した記念すべき日になりました。ここ2年は新型コロナウイルス感染症の影響により人数制限がありましたが、久しぶりに満員で盛り上がる横浜スタジアムを見ることができて本当に嬉しく思っています。これはベイスターズファン、プロ野球ファン全体で掴んだ景色です」
メタバースにNFTも。横浜DeNAベイスターズが掲げる「世界一」戦略の全貌【前編】
「5年後には世界最先端の取り組みを行うスポーツチームになり、20年後には名実ともに世界一に」。今季、そんなビジョンを掲げた横浜DeNAベイスターズ。球団創設以来、革新的な戦略で観客動員を伸ばし、ビジネス面では球界のトップランナーになりつつあるDeNAの「次の一手」とは?
木村洋太球団社長インタビュー#1
観客動員は球団創設時の2倍に

昨年4月に就任した、39歳の若き社長。その視線は現在ばかりではなく、未来の景色を見据えている。
今季DeNAは、コーポレートアイデンティティ並びにミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を一新した。
心を打つ野球――。
『感動のある野球を。スポーツ界の先頭へ』をミッションに、『100年先へ、野球をつなごう。この横浜で、感動を分かち合おう』とビジョンを掲げた。
今やビジネス面では球界のトップランナーになりつつあるDeNAベイスターズのこの指針には、どんな想いが込められているのか。
「スポーツの価値の源泉がなにかといったら、最終的にはお客様の心を打つことに尽きると思います。筋書きのないドラマや感動の瞬間を楽しんでいただくために、プレイヤーはグラウンドで、経営側は演出など体験価値の創造をしていかなければなりません」
「しかしマクロ的な環境を見ると、野球人口が年々減少していたり、日米間でチーム力や経済力の格差が開いてきてしまっている。野球というスポーツが確立して約100年になりますが、我々の代で尻すぼみにするわけにはいかない。100年後も栄えている状況を作るために色々なチャレンジをすることが我々の使命だと考えています」
このMVVの実現を念頭に、球団が今年の冒頭、掲げたのは以下の中期目標だ。
5年後→世界最先端の取り組みを行うスポーツチームに
20年後→名実ともに世界一のスポーツチームに
20年後にはワールドシリーズ制覇も視野に入れられるほどの選手層、さらには球団の予算、売上も世界トップの水準を目指していく、と木村社長は大マジメに話す。
「そこから逆算して、5年後には国内でDeNAベイスターズの黄金時代が始まっていなければなりません。今はまだデータの使い方や育成、組織づくりにおいて、メジャーリーグなど先行するスポーツチームのシステムを参考にし、取り入れているのが現状です。しかし、ここから徐々にその差をなくしていき、5年後には我々がやっていることを他が真似るような状況を作り出す。すなわちベイスターズが世界最先端の取り組みを行うスポーツチームとなることを目指します」
「その一方、ビジネス面でも同様にチケッティングや放映権など従来のモデルを踏襲しつつ、新規事業としてその領域で世界初のものを作っていくことが重要になると考えています」
コロナ禍に新たに生まれた観戦スタイル
現状、その試みの柱となりそうなのが、この数年、DeNAベイスターズが取り組んできた新たな観戦スタイルの提供である。
例えば『バーチャルハマスタ』は、メタバース空間上にもうひとつの横浜スタジアムを構築し、自宅でスマートフォンやパソコン、VRデバイスを使って観戦体験をするというものだ。参加者がアバターを操作して空間内を自由に動き回り、多くのファンとコミュニケーションをとることのできる次世代型のスポーツ観戦を可能にした。

話題のメタバースにもいち早く対応した『バーチャルハマスタ』
2020年からスタートした『オンラインハマスタ』は、自宅からの応援を現場のハマスタに届けたり、球団OBのトークや双方向のコミュニケーションが魅力のシステムである。
また『ベイスターズプライムカメラpowered by au 5G』は、主催試合において、通常の放送とは異なる独自のアングル、例えば特定の選手を追うカメラ、球場全体を上部から見渡す俯瞰視点、そしてグラウンドに立っているような臨場感あふれる映像など、ユーザーが好きな画面に切り替えて楽しめるアプリだ。
興味深いのは、これらはいずれもコロナ禍で球場に足を運べないファンのために作られたシステムだということ。まさに「ピンチこそチャンス」を地でいく着想といえる。
「とはいえ、これらを“コロナ時代のコンテンツ”で終わらせるつもりはまったくありません。私が期待しているのは、以前のように横浜スタジアムが満員になった状態で、さらにオンラインという手段があれば、球場に入れなかったファンの皆さまも含めて、これまで以上の盛り上がりを生み出せるのではないかと思っています」
NFTを活用した“自分だけのトレーディングカード”
さらに、今話題のブロックチェーン技術によるNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を活用したサービス『PALYBACK9』をスタートさせた。“自分だけのトレーディングカード”として発行上限数を決め、シリアルナンバーを入れることで販売を始めている。
「NFTが話題になったとき、社内外の色々な方と『技術として使いたいよね』という話になりました。今回に関して言うとデジタル上で感動の瞬間を保存していくことが今後、価値になっていくのではないかとの考えからトライに至ったんです。まだまだ国内のNFT市場は成熟していませんが、ひょっとしたら我々が日本におけるNFTプロダクトのフロントランナーになれるかもしれない」
「もちろん全力で成功するための努力はしますが、仮に失敗したとしても『ああ、ダメだった』ではなく『失敗したけれども、次に行こう』と思うことが、ビジネスではなにより大切だと考えています」

NFTを活用し、DeNAベイスターズの試合の名場面をトレーディングカード化した『PALYBACK9』。
思えばこの10年、DeNAベイスターズは事業面においては常にトライ&エラーを繰り返してきた。
「チャレンジすると、時に何かを失う可能性もありますが、まだなにも勝ち取っていない我々が変化を恐れてはいけません。勝ち取るまでチャレンジを止めないことが、DeNAベイスターズのスタイルだと思っています」
木村洋太球団社長インタビュー#2に続く
撮影/下城英悟
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