「あんな内容、今じゃ放送できないよ」。昭和の性差観が色濃く反映されたテレビ番組を振り返って、昔話に花を咲かせるオジさんは多い。
とはいえ、時代を形作っていたのは、深夜、ブラウン管に映し出されるような直接的なビジュアル表現や描写だけではない。
たとえば、今から37年前の1985年、お茶の間を賑わせていた国民的人気ソング『セーラー服を脱がさないで』のショッキングな歌詞は、サビの「セーラー服を脱がさないで~」だけにとどまらない。
『セーラー服を脱がさないで』『Yes-No』『お嫁においで』…Z世代とのカラオケで避けるべき昭和の名曲
入店時に「好きな曲を歌っていい」との口約束を交わしたものの……。同席者の年齢も性別もバラバラのカラオケで選曲に悩むことは、オジさんにも若者にも多いのではないだろうか。「この曲なら知っているだろう」との配慮から選ばれる有名曲のなかには、時代錯誤の性差が反映された内容の歌詞も少なくないのだが……。
昭和は少女にこんな曲を歌わせてお茶の間を賑わせていた⁉

B面の『早すぎる世代』という曲の歌詞もなかなか
というか、ハレンチでない部分を探すほうが困難だ。「友達より早くエッチがしたい」はまだいいとして、「週刊誌みたいなエッチがしたい」とはいったいどんなエッチのことなのだろうか。
曲後半、「バージンじゃつまらない」の部分、今こんなことをツイッターでつぶやきでもしたら、「バージンでもおもしろい人生はあると思います!」と、多様性の観点からお叱りを受けそうだ。
きわめつけは「おばんになっちゃうその前に おいしいハートを食べて」である。こんな歌詞を今のアイドルに歌わせたら男性優位社会、若さ至上主義、その他もろもろを示唆するとして、リリース後即炎上、発売中止にいたりそうなものである。
しかし、この前時代楽曲を、2020年に放送された音楽番組『THE MUSIC DAY』で、当代を代表するアイドルグループ、乃木坂46が歌ったから驚きだ。
とはいえ、ご安心を。きわどい(というかアウトな)歌詞部分はコラボしたおニャン子クラブ元メンバーの新田恵利と渡辺美奈代が歌い、乃木坂46は基本的にコーラスに徹していた。彼女たちの純潔は守られたのだ。もちろん、歌詞自体は、下劣だと若いネットユーザーからは非難轟轟だったのだが。
とにかく、この曲をカラオケで若い女性に歌わせるのはもちろん、自分で歌ったとしてもセクハラに該当する可能性があるので要注意。おとなしく『恋するフォーチュンクッキー』あたりを歌っておいたほうがいいだろう。
藤田ニコルもドン引きしたのは、さだまさしのあの曲
2018年に放送された日本テレビ『月曜から夜ふかし』にて、実際に弁護士が「完全アウト」と判断した名曲もある。小田和正がリーダーとボーカルを兼ねる、オフコースの『Yes-No』だ。
“関係性が構築できていない間柄で、「君を抱いていいの」「好きになってもいいの」のフレーズを発することはセクハラに該当する”との指摘がなされた。同弁護士は、ほかにも加山雄三『お嫁においで』を紹介。「ぬれた身体で駆けてこい」の歌詞は、双方に合意が取れていない場合、パワハラにも抵触する、とも紹介。また、黒沢年男『時には娼婦のように』は、タイトルはもちろん、「淫らな女になりな」のワンフレーズが売春防止法に引っかかる、とも解説した。
そして今年5月、フジテレビ『これが定番!世代別ベストソング ミュージックジェネレーション』にて、藤田ニコルが嫌悪感を露わにしたのは、さだまさしのヒット曲にしておなじみの『関白宣言』だ。

宣言の裏に家庭を守り抜く覚悟や優しさも歌われた曲だが……「最後まで聴けない」という声も
「お前を嫁にもらう前に言っておきたいことがある」で始まり、「いつもきれいでいろ」「めしはうまく作れ」などなど、これから家庭を築くパートナーへの要求が歌詞に並べられた本作は、結婚後、尻にしかれてなお家族に尽くす父親像を歌い上げる『関白失脚』とあわせて、名曲であるとの見方も少なくない。
しかし、家事を妻に押しつけるなど時代錯誤もはなはだしく、「俺より先に寝てはいけない 俺より後に起きてもいけない」なんて謎ルール、たとえ、竹内涼真ほどの顔面をもってしても定めることはできないだろう。「そんなこと言えるほど、稼いでいるのか」と言われておしまいだ。
そもそもパートナーのことを「お前」と呼ぶことは、元中日ドラゴンズ監督の与田剛が、応援歌の「お前が打たなきゃ誰が打つ」の「お前」部分の歌詞の変更を求めた2019年に大いに議論になったことだ。何がきっかけで炎上してしまうかわからないので、女性をお前なんて呼ばないほうが吉である。
最後まで聞けばなんだかんだいい歌詞なのだが、プロポーズ代わりに選曲してしまえば、破談は間違いなし。家事育児は分業を約束したうえで、「結婚させていただく」気持ちを忘れずに。
「男はうっかり信じたらダメ」という決めつけ

ピンクレディーの楽曲も、男性像を固定している?
男性ボーカル曲にばかり焦点をあててきたが、女性が男性像を決めつける名曲だって存在する。「男は狼なのよ 気をつけなさい」。曲頭から男性の野蛮性を強調するのはピンクレディーの『S・O・S』だ。いくら男性が羊の顔をしていても、「瞼を閉じたら負け」だし「何もかもおしまい」らしい。あんまりだ。こんな曲を女性とふたりきりのカラオケで歌われた男は、「警戒されている…!」と落胆すること請け合いだろう。
一方、同じピンクレディーと阿久悠のタッグから生まれた名曲『UFO』では「地球の男に飽きたところよ」というフレーズで締められる。深読みすれば、セクシャルマイノリティを示唆しているように感じられる方だっているかもしれない。
本記事で紹介した楽曲は、発表当時、すでに物議をかもしていたものも存在する。しかし、ジブリ映画『崖の上のポニョ』の主題歌を担当した、藤岡藤巻(まりちゃんズ)が『ブスにもブスの生き方がある』と、今では”大炎上間違いなし”の差別的なコミックソングもリリースしていた時代こそ昭和だ。ジェンダーレスが叫ばれる時代の若者にとっては、昭和歌謡がもたらす衝撃は計り知れないだろう。
もちろん、曲自体に罪はない。かつての価値観で歌われた名曲のワンフレーズを取り上げ、重箱の隅をつつくような指摘を始めればキリがないようにも思えてしまう。
もっといえば、時代の変遷とともに性の多様化が認められてゆく未来。今の若い世代に親しまれる恋愛ソングだって、「男性女性を分けることから差別的」と、指摘されてしまう将来が訪れる可能性だってゼロではないのだ。
だからこそ今は、昭和の曲を危険をおかして歌うより、もしかしたら近い将来歌えなくなってしまうかもしれない平成や令和の曲を目一杯歌っておくべきなのかもしれない。
新着記事
最強の女性軍人、『こち亀』に降臨す!!

【漫画】45歳・独身無職、貯金残高2000万円。大人が一度は憧れる夢の“ニーティング生活”をスタートしたが… (1)
NEETING LIFE ニーティング・ライフ(1)



